100m9秒台の記録を持つ、(左2人目から)小池、桐生、サニブラウン。世界選手権のリレーでは3人そろい踏みでの金メダル獲得に期待がかかる

9秒台連発に沸く男子100mのみならず、日本陸上界が空前の盛り上がりを見せている。東京五輪を約1年後に控え、9月27日(日本時間)にはカタール・ドーハで世界選手権が開幕するが、そこで注目すべき選手たちを紹介したい。

まずは世間の認知度も高い男子4×100mリレーから。

自己ベスト9秒97のサニブラウン・アブデルハキーム(フロリダ大)、9秒98の桐生祥秀(日本生命)、9秒98の小池祐貴(住友電工)と100m9秒台が3人そろうチームは"過去最強"だ。

今年5月の世界リレー大会では痛恨のバトンミスで予選落ちしたが、7月のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会では素晴らしい結果を残した。

1走・多田修平(住友電工)、2走・小池、3走・桐生、4走・白石黄良々(セレスポ)という、23歳、24歳世代の4人で、日本歴代3位となる37秒78をマーク。

今季世界最高の37秒60で走破したイギリスに力負けしたが、世界リレー大会で優勝したブラジルに先着した。世界選手権ではサニブラウンの起用が濃厚で、チームのポテンシャルは上がる。

メンバー選考も兼ねていた9月1日の富士北麓ワールドトライアルでは、多田が100mで10秒15(追い風1.0m)の1着。1走のポジションをグッと引き寄せた。10秒00の記録を持つ山縣亮太(セイコー)の不在は痛いが、ドーハでは1走・多田、2走・小池、3走・桐生、4走・サニブラウンがベストオーダーになりそうだ。

日本のライバルとしては、走力ではアメリカが筆頭だが、バトンパスのロスが小さくない。アメリカと共に世界のスプリント界をリードしてきたジャマイカも、近年は力が落ちている。

最大の敵は、2年前の世界選手権で地元Vを飾ったイギリスだ。スーパーエースはいないが、平均的に走力が高く、主力は20代中盤。今年の世界選手権と来年の東京五輪では、イギリスに先着することが金メダルへの道になる。

個人にスポットを当てると、20歳のサニブラウンは成長次第で100mでもメダルに届く可能性を秘めている(200mは回避)。しかし、スプリント種目は強力なライバルたちが多い。

国際陸上競技連盟は今年2月から、直近1年の上位5大会における平均スコア(大会のランク、順位、記録によるポイント)の「ワールドランキング」を導入している。

最新(9月3日)の発表では、男子100mの日本人最上位は桐生で13位、小池が16位、サニブラウンが23位。ランキングどおりであれば日本人選手のメダルは遠いが、それを覆す激走を見せてほしい。

今年2月に、走り高跳びの日本新記録となる2m35をクリアした戸邉。世界選手権で、目標とする2m40超えでの優勝なるか

一方で、ワールドランキングで堂々たる世界のトップにつけているのが、男子走り高跳びの戸邉直人(JAL)だ。

各世代で日本一になっているエリートで、筑波大学大学院を卒業して博士号も取得している。今年2月に従来の日本記録を2cm上回る2m35をクリアすると、「世界室内ツアー」で総合優勝という快挙を達成。ワールドランキングは7月25日発表時からトップに君臨する。

戸邉は14年から最高カテゴリーの大会となるダイヤモンドリーグに参戦。昨年、今年と年間チャンピオンを決定する「ファイナル」にも進出している。これは、オリンピックや世界選手権の決勝に進出する以上の価値があると言っていい。今年は直前に左足のかかとを痛めながらも5位タイに入った。

東京五輪の金メダルを本気で目指している日本人選手は、もちろん世界選手権のメダルも射程圏内。戸邉は2m30~31の高さを1回で跳べば、メダルのチャンスは十分にあるとみている。

「世界は混戦状態なので、誰が勝つかわかりません。だから、自分もその日にいい状態をつくることができれば勝負できる。2m30は跳べる手応えがあるので、本番までに仕上げていきたい。メダルの確率は60%から70%ぐらいだと思いたいですね」

昨年8月のアジア大会を制した山本。棒高跳びの日本記録保持者である澤野大地がコーチをする江島雅紀(日大)をライバルに成長を目指す

また、男子棒高跳びの山本聖途(トヨタ自動車)も目が離せない。戸邉と同じ1992年3月生まれの27歳は、13年のモスクワ世界選手権で6位入賞、昨年のアジア大会は日本人として12年ぶりの優勝を果たした。

今年のダイヤモンドリーグはファイナルに進出し、現在のワールドランキングは11位につける。サッカーの本田圭佑のマネジメント会社からサポートを受けており、目指しているスケールは大きく、国際大会の経験も豊富だ。

過去2回のオリンピックは「記録なし」に終わったが、世界の舞台でも動じないタフさが身についた。本番で日本記録(5m83)を上回る高さを越えることができれば、メダルに急接近する。

跳躍競技で、戸邉以外にワールドランキングでトップ10に入っているのは、男子走り幅跳びで9位にランクされている橋岡優輝(日大)。父母が日本選手権V経験者という、サラブレッドだ。

今年4月のアジア選手権は8m22を跳んで優勝。8月のナイトゲームズイン福井では、1回目に8m32の大ジャンプを披露。27年ぶりに日本記録を塗り替えた。

最終的には自己記録を一気に39cm更新する8m40のミラクルジャンプを繰り出した24歳の城山正太郎(ゼンリン)に逆転負けしたが、今後の期待値は20歳の橋岡のほうが大きいとみられている。

体格で劣る日本人には不可能かと思われた跳躍種目でも、メダルを狙えるような選手が続々と現れている。東京五輪の熱狂を楽しむためにも、世界選手権の活躍をチェックしておこう。