W杯では、ドライブで得点する場面もあったが、実力を十分に発揮できなかった宇都宮ブレックスの比江島。Bリーグで悔しさを晴らす活躍を見せてほしい

膨らんだ期待が一気にしぼんでいった――。日本男子代表チームにとっての、そんなW杯が終幕した。しかし選手たちは、息つくヒマもなく本来の所属チームのユニフォームへ衣を替え、シーズンへ入っていく。

彼らの大半は国内トップのBリーグに所属する。中国で胃の痛みを分かち合った"日の丸戦士"たちはライバルとなって、10月3日に4年目のシーズンが幕を開ける同リーグのコートに立つ(B2以下はすでに開幕)。

優勝候補はB1の18チーム中6チームほどだろうか。とりわけ有力なのは、リーグ2連覇中のアルバルク東京、昨季の最高勝率の千葉ジェッツふなばし、チーム名を変えた宇都宮ブレックス、補強に成功したシーホース三河か。

いずれも代表クラスの選手や力量の高い外国籍選手をそろえ、層も厚い。フロントサイドも含めて球団全体が勝利へのベクトル(それを「カルチャー」と換言してもいい)を共有しており、総じて最もタイトルに近いところにいるように思われる。

他方で、W杯に出場した代表選手たちが所属チームに戻り、どういったパフォーマンスを披露するかにもファンの目が向くだろう。

アルバルクは竹内譲次、田中大貴、馬場雄大、安藤誓哉と、最多の4人もの選手を代表に送り込んだ(シェーファーアヴィ幸樹も昨季までアルバルク所属で、今季は滋賀レイクスターズへレンタル移籍した)。

ルカ・パヴィチェヴィッチHC(ヘッドコーチ)による世界基準のバスケットと堅いディフェンスで安定感があり、5月のポストシーズンへ向けてのピーキングにも長(た)けている。昨季も、地区優勝は逃しながら最後は優勝をさらった巧者だ。

ただ、W杯で活躍した数少ない選手のひとり、馬場がNBAダラス・マーベリックスからのオファーを受け、プレシーズンのトレーニングキャンプへの参加が決まったことで、彼が抜けることによる戦力ダウンは免れない。そのなかで、W杯では慣れないPGでの起用も含めて多くを学んだ、田中のプレーぶりに注視したい。

ブレックスも、W杯で自信を喪失気味の比江島 慎に不安を抱える。八村 塁(ドラフト指名を経てワシントン・ウィザーズに入団)や、渡邊雄太(2ウェイ契約でメンフィス・グリズリーズでプレー)、日本国籍を取得したニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)加入前の代表でエース的立ち位置だった比江島は、今夏にNBAサマーリーグでプレー。

そしてW杯メンバーにも選ばれたが、本来の輝きを放てなかった。現在29歳と若くはないが、当然、老け込むようなそれではない。

「自信をなくした夏でした」

サマーリーグとW杯を体験をした今夏はどんな夏だったか、という問いに、比江島はそう答えた。独特のドライブイン能力に加え、近年では3ポイントシュートの精度も上げている男が、その才を十全に発揮できないさまは見ていてもつらい。

Bリーグ初年度以来の王座奪回のためにも、ブレックスは彼の力を大いに頼りにしているに違いない。その意味では、彼の復活劇がなるかどうかにも、目が注がれる。

W杯でチームを鼓舞し続けた、川崎ブレイブサンダースの篠山。初のリーグ優勝に向け、頼れる司令塔のケガからの復帰が待たれる

中国で心身を最も消耗させたのは、ベテランPGの篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)かもしれない。司令塔として、また渡邊との共同キャプテンとして、勝てない状況でも、気迫あふれるプレーや態度でチームを牽引(けんいん)。限界まで自らを追い込んだ結果、左足を骨折し、最後の2試合は欠場に追い込まれた。

ブレイブサンダースにとって昨季は、故障者が出たり、代表活動でなかなか練習ができなかったりと、フラストレーションがたまる1年だった。プレーオフではブレックスに完敗し、篠山は自軍の行く末に「危機感を覚える」とすら言った。ケガが全治するまでは2ヵ月ほどかかるということだが、ここから巻き返す彼の姿を見てみたい。

W杯での日本の戦いぶりは、Bリーグの「質」を考えさせられる機会になった。今大会で日本が苦戦した理由のひとつが、世界レベルの選手たちの「圧」の強さだ。この目に見えない魔法の力によって、日本の選手たちは感覚を狂わされ、本来の力量が発揮できなかった。

篠山に言わせれば、それは単に体格やフィジカルの差ではなく、コンタクトに対する意識の違いにあるという。

「僕が感じたのは、体を自分から当てにいくことへの慣れであったり、技術が僕らにはないんじゃないか、ということです」

また、NBAも含めた"世界のバスケ"では、以前よりも万能な力量が選手に問われるようになった。ポジション間の差が薄くなり、長身の選手でもアウトサイドでプレーし、3ポイントが打てることも当たり前になっている。

しかしBリーグでは、多くの外国人選手が体躯(たいく)と高さを生かしてゴールの近くでプレーすることが多い。これは、世界的な潮流からかけ離れていると言わざるをえない。

馬場はNBAロースターに入れずとも、そのままアメリカに残り下部リーグのGリーグでプレーすることになっているようだが、馬場が今回の決断に至ったのは、日本では外国人選手とマッチアップすることがないから、という理由もあるだろう。そういった高い意識を持つことが、日本バスケ界全体に求められる。

八村や渡邊といった俊英が出てきたとはいえ、W杯での結果が日本のバスケットボールの「現在地」。傑出した"個"を輩出するのと同時に、Bリーグをはじめとした国内のバスケットボールの水準を上げていくことにも注力せねば、未来は開けてこない。