■メルセデスのダブルタイトルが確定
「ああああぁ......」。
10月13日に行なわれたF1日本グランプリ決勝のスタートからわずか十数秒、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)に詰めかけた9万人近い大観衆の悲鳴とため息が交錯した。
「ホンダの母国グランプリ制覇」という日本のファンの期待を一身に背負っていたレッドブル・ホンダの若きエース、マックス・フェルスタッペンは、スタート直後の2コーナーでフェラーリのシャルル・ルクレールと接触してコースアウト。5番グリッドから19位まで順位を下げただけでなく、マシンにも大きなダメージを受け、優勝争いから真っ先に脱落したのだ。
予想外の展開はこれだけではなかった。ポールポジションを獲得したフェラーリのセバスチャン・ベッテルと、チャンピオンシップを圧倒するメルセデスのルイス・ハミルトンもスタートで出遅れてしまう。主役が次々と順位を下げる中、4番グリッドの伏兵バルテリ・ボッタスが抜群のスタートを決め、トップに躍り出るのだ。
その後もボッタスは快調に飛ばし、ライバルを寄せ付けずにトップでチェッカーを受け、今季3勝目を挙げた。チームメイトのハミルトンは3位でフィニッシュし、これでメルセデスは鈴鹿でコンストラクターズタイトル6連覇を決めた。
また、この結果を受けてドライバーズ選手権のタイトル獲得の可能性はハミルトンとボッタスに絞られ、メルセデスのダブルタイトルも確定したことになる。ハミルトンは次回のメキシコ(決勝は10月27日)でボッタスに14ポイント差以上をつければ、通算6度目のチャンピオンに輝くことになる。
■山本尚貴がF1初ドライブで好タイム
また今年は、10月11日に行なわれた金曜日フリー走行1回目に、2018年の全日本スーパーフォーミュラ、SUPER GT(GT500クラス)のダブルタイトルを獲得した山本尚貴選手がトロロッソ・ホンダから出走。F1初ドライブでミスのない着実な走りを見せ、同チームのダニエル・クビアトからコンマ一秒落ちの好タイムを記録。日本のファンを大いに盛り上げた。
そして翌12日の土曜日に予定されていたフリー走行3回目と予選のセッションは台風19号の接近により中止され、予選と決勝は日曜日の1日で行なわれることになった。
土曜日のセッションがキャンセルされたことで、各チームともにプログラム通りにセットアップやタイヤの評価ができなくなった。しかも土曜日の雨で路面のゴムがすっかり流されたことで、タイヤのグリップや摩耗状況が読みづらい状況になってしまった。さらに、台風は過ぎ去ったものの、日曜日のサーキットには非常に強い風が吹いていた。
限られた時間の中、金曜日から激変したコンディションに、いかにマシンと戦略を合わせていくか......。そこが勝負のポイントになった。
■ハミルトンの"ワガママ"を許さなかったメルセデス
フェラーリは予選では一発のタイムを出し、フロントローを独占するものの、決勝ではタイヤの摩耗に苦労し、ペースを上げることができなかった。一方のメルセデスは決勝にマシンをしっかり合わせ、優勝したボッタスが「マシンは本当に良かった」と笑顔で語るように、終始安定したペースで周回を重ね、レースを完全に支配する。王者メルセデスが底力を見せつけた格好だ。
もうひとつ、メルセデスのチームとしての強さの一端を感じたシーンがあった。ハミルトンは3位を走行していたレース中盤、逆転勝利を狙って多少のリスク覚悟で「戦略を1ストップから2ストップに変更したい」とチームに無線を通して何度か訴えてきたが、メルセデスは彼の"ワガママ"を決して許さなかった。
前述したようにタイヤの摩耗状況が読みづらい中で、メルセデスはたとえエースのハミルトンの要求であったとしても無駄なリスクを背負うことはよしとせず、チームの指示に従わせた。最終的にハミルトンは3位のままでフィニッシュし、レース後も不満そうな表情を浮かべていたが、メルセデスのダブルタイトル獲得というリザルトを見れば、その選択が正しかったともいえる。
■ホンダの前に立ちはだかるハードルはまだまだ高い
注目のホンダ勢は、レッドブルのアレックス・アルボンの4位が最高位。昨年までスーパーフォーミュラに参戦していたトロロッソ・ホンダのピエール・ガスリーも健闘し、8位入賞を果たしている。フェルスタッペンはスタート直後の接触によるマシンのダメージが大きく、結局15周目にリタイアしている。
ホンダの母国グランプリ制覇は2020年以降に持ち越しとなったが、今回の日本GPで王者メルセデスのスキのない戦いを目の当たりにして、レッドブル・ホンダの前に立ちはだかるハードルはまだまだ高いと思わざるを得なかった。
ホンダF1を率いる田辺豊治テクニカルディレクターは、シーズン後半を前にした8月のインタビューで「メルセデスには現状でマシン、パワーユニット(PU)、ドライバー、チーム戦略、マネージメント、あらゆる面で負けています」と語っていたが、その言葉をリアルに感じた日本GPだった。
text by Tsuyoshi Kawarada Photographs by Masanobu Ikenohira , Ryo Higuchi