ソフトバンクに悪夢の4連敗を喫して日本一を逃した翌日、巨人・原辰徳監督は記者団にこう話した。
「セ・リーグはDH制がないからね。そのうちDH制は使うべきだろう。相当、差をつけられている感じがあるね」
日本のプロ野球では、パ・リーグだけが1975年からDH制を採用し、セ・リーグでは投手が打席に入っている。スポーツ紙デスクが言う。
「DH制のほうがリーグのレベルが上がるという説は以前からあり、特に近年は盛んに議論されています。守備がダメでも打撃が得意な"専任打者"が加われば、打線の破壊力は当然上がる。それを抑えるために投手たちもレベルアップする......という理屈です」
原監督の提言に対し、現場からも「守備が未熟な若い野手の出番が増えるし、投手の打撃練習も必要なくなる」(セ・リーグ関係者)といった歓迎の声は少なくない。
ちなみに"野球先進国"といわれる国・地域のプロ野球で、DH制を採用していないのは米メジャーのナショナル・リーグと日本のセ・リーグだけ。アマチュアでも、日本では東京六大学や高校野球などがDH制不採用だが、他国ではほとんどがDH制だ。
「アメリカン・リーグより先に発足したナ・リーグには"メジャーの発祥"という自負があり、現在もDH制を採っていない。ア・リーグが強かった時代もありましたが、近年はナ・リーグが巻き返し、ここ10年のワールドシリーズの勝敗は互角です」(スポーツ紙メジャー担当記者)
それに比べて日本では、パが日本シリーズ7連覇、交流戦も10年連続勝ち越しと明らかにセを圧倒している状況だが、いずれにせよ、巨人=読売の指揮官による提言は多くの波紋を呼んでいる。
「取材した感触では負け惜しみの感も強く、どこまで本気の発言かはわかりません。ただ、原監督はDH制に否定的ではなく、むしろ新しいもの好き。自らの発言をきっかけにルールが変わるのなら本望でしょう」(前出・デスク)
では、実際のところセ各球団の意思はどうなのか?
「現状ではDH賛成派が巨人、阪神、DeNAで、反対・消極派が広島、中日、ヤクルトと、真っぷたつに分かれているようです。これはセの伝統がどうこうよりも、DH制になるとレギュラーがひとり増え、チームの運営予算高騰に直結するとの考えからです。
ルール変更のためには、まず基本的に満場一致が条件となるセの理事会で承認され、議論を12球団の実行委員会(賛成3分の2以上で可決)、そしてオーナー会議(賛成4分の3以上で可決)へと進める必要があります。
パの球団が積極的に反対するとは考えづらいので、最大の障壁は最初のセ理事会。巨人が本気になって各球団を説得できれば、案外すんなり決まる可能性もあります」(デスク)
ただし、野球解説者の伊勢孝夫氏は「DHの有無がすべてではない」と指摘する。
「DH制の採用がリーグ全体の実力アップに直接結びつくわけではありません。パの打者が優れているのは、対する投手のレベルが高く、その攻略に取り組んできた成果です。
私は、最大の問題はスカウティングだと思います。パの球団は、少々あらがあっても長所が秀でた選手を獲(と)って鍛える。しかし、セは概して"無難な選手"を獲る傾向がある。その違いが選手の実力差になっていると思いますね」
今秋のドラフトで163キロ右腕・佐々木朗希(ろうき)を1位指名した4球団も、すべてパだった。ニワトリが先か、卵が先か......というような話だが、今後の議論に注目だ。