AEW初代女子王座、スターダム・ハイスピード王座と日米でベルトを持つ女子プロレスラー・里歩

アメリカのプロレス界で、日本人女子選手の活躍が目立つようになってきた。そのなかでアスカ、カイリ・セイン、紫雷イオに続き、注目を集めているのが里歩(りほ)だ。

一見、フツーの女のコというルックス。しかしプロレスデビューはなんと8歳で、22歳の若さにして13年というキャリアを持つ。今年7月に所属団体「我闘雲舞(ガトームーブ)」からフリーになり、そのわずか3ヶ月後には、アメリカでケニー・オメガが今年1月に立ち上げたばかりのAEW(オール・エリート・レスリング)のチャンピオンベルトを獲得するというアメリカン・ドリームを成し遂げた。そして国内ではスターダムに参戦中。こちらもブシロードとの提携を発表し、女子プロレス界No.1が予見される団体だ。

日米でもっとも勢いのある団体のリングに上がっているという環境も追い風に、"世界の里歩"として羽ばたき始めた彼女に、今の想いを語ってもらった。

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――「初代AEW女子王座」獲得おめでとうございます!

里歩 ありがとうございます!

――まさかフリー歴3ヶ月でアメリカでチャンピオンになり、世界に名前を轟かせるとは! 

里歩 自分がそうなるなんて思いもしなかったです! 5月にアメリカで試合し始めた頃は、マイナーなゲスト選手のつもりでした(笑)。

――しかも、対戦相手のナイラ・ローズ選手とは大人と子供ぐらいの体格差でした。

里歩 それが、私の方が声援が大きくて「これは負けられないな」って! それに男子選手とも試合経験はいっぱいあるので、もともと体格差に対する恐れってないんですよ。

――確かに男女ミックスマッチもたくさん経験されてますよね。ケニー・オメガ選手(AEW副社長)ともタッグを組んでいたとか。

里歩 12歳の頃ですね。それ以来、ずっと気にかけてくださっていて。

*試合写真は、2019年11月4日・スターダム後楽園ホール大会より

――今や世界のケニー・オメガですが、かつては日本で路上プロレスなどインディらしいチャレンジャー精神で人気でしたよね。......にしても12歳でケニー・オメガとタッグとは(笑)。AEWへの参戦も、そのつながりから?

里歩 ケニーさんから「もしかしたらアメリカで試合をやるかもしれないんだけど、里歩は興味ある?」って携帯にメッセージが来て、「出たいでーす♪」って軽いノリで返信したら、まさかこんな大規模な新団体の大会だったなんて! 日本では60人ぐらいの小さな会場で試合していたのに、2万人近い観客がいるんです。おまけにアメリカには今まで応援してくれていた人もいないし、入場前はいつも孤独ですごく緊張して「家に帰りたい......」と思ってました(笑)。

――チャンピオンになって状況は変わった?

里歩 すごく変わりました! 最初は控室でも「よそ者が来た」って感じがあったけど、チャンピオンになったら「RIHO〜」って名前を呼んでもらえるようになって、認めてもらえたのかな。道やホテルでも気づかれるし、空港で手荷物に入れていたチャンピオンベルトを見た検査官の人が「Oh、RIHO! コングラッチュレーション(おめでとう)!」って。アメリカではプロレスってすごく人気があるんですね!

――手荷物からチャンピオンベルトが出てきたら驚くでしょうね(笑)。ちなみにAEWの待遇は?

里歩 空港に着いたら会場までちゃんと車が手配されていて、ホテルの部屋も豪華で「枕が6個もあって使い切れな~い」って(笑)。日本では深夜に車で出発してそのまま試合して、一泊もせずに帰るようなツアーをしていたのに、すごい差ですよね。

――まさにアメリカン・ドリーム! でも、1年半前のインタビューでは「今が楽しい」と特に目標を立てていませんでしたが、何がきっかけでフリーに?

里歩 首を痛めて1ヶ月休んだ時、初めて自分を客観的に見ることができたんです。プロレスを13年やってきたけど、この後さらに13年やるかというと、それはやらないかなと。だったら同じ場所で"楽しく"やるよりも、もうちょっと挑戦をしたいという気持ちになったんです。ちょうど他団体にも出始めていた時期で、初対戦の選手との試合に新しいファンの方が声援を送ってくれることに「新しい出会いってこんなにうれしいんだ!」って。

――その時期にイギリス、台湾など海外にも活躍の場を広げ、シンガポールではチャンピオンに。自信を深めた部分も?

里歩 自信というより、プロレスラーとしての土台を作り上げた感じがしました。それをいろんな場所で見せていきたいなって。それで、その思いを正直に師匠のさくらさん(「我闘雲舞」代表:さくらえみ選手)に伝えたら「ちゃんとタイミングが来たから、安心して送り出せる」って。

――師匠からの卒業証書ですね! さくら選手からは子供の頃から指導を受けていますが、そもそもなぜプロレスを始めた?

里歩 小学1、2年の頃、さくらさんが教える体操教室に行き始めたんです。習い事感覚だったけど、いつの間にかプロレスの受け身ができるようになっていて(笑)。

――知らないうちにレスラーとしての英才教育を(笑)。加えてキャリアが長いだけに試合経験は圧倒的で、2012年10月から2017年5月の間だけでも約300試合あり、2006年のデビューから数えるとすごい数になりますね。

里歩 確かに練習より試合の方が磨ける部分はあって、たとえば「今!」と思った瞬間に足を出さないと丸め込めないみたいなタイミングとか、お客さんの心に響くタイミングもあるし、感覚的なところは試合経験が大きいですね。あと私は小さいので、体をどう動かせば大きな相手でも転がせるかとか、体重のかけ方は研究してるつもりです。

――散々やられても、ここぞで反撃するスタミナもお持ちですよね! 技の多彩さとスピード感にも観客は熱狂してしまうわけですが、一方でその愛らしいルックスから「アイドルレスラー」とも称されます。それについて思うところは?

里歩 師匠のさくらさんからも言われるし、アメリカでも「日本のアイドル文化」みたいな部分で受け入れてもらって応援されている部分もあると思うので、自分の強みなのかなとは思うんですけど、複雑ですね。私もプロのレスラーなので、「なめんな!」って思ったりもします(笑)。

――その見た目によらない勝ち気さは強みかと! 国内で主戦場として選んだスターダムでも、すぐハイスピード王座のベルトを獲得されています。

里歩 私みたいなフリーの選手って、お客さんもどう見ていいのか分からないだろうし、そこで一番意思表示ができるのはベルトなので、すぐ獲れてよかったです。

――スターダムを選んだ理由は?

里歩 オファーを頂いたのもありますけど、自分が一番変われる場所かなって。

海外では「女子プロレスをやっている」と言うと必ず「スターダム?」って聞かれるぐらい有名で、そういう意味では世界に一番近いと思います。それにブシロードと提携して、女子では一強になる可能性がありますよね。そんな団体に出られるのはうれしいです。

――まずは好奇心だったんですね。一方でAEWに参戦してみてどうですか?

里歩 一人ひとりが自分がスターだと自覚していて、特に女子選手の「私を見て!」ってオーラは勉強になります。お客さんすらも自分が主役だと思っている節があって声援もすごく大きいんです。

あと、選手全員もとにかく自由で、好きなようにやっている雰囲気があってワクワクします。そういう意味ではスターダムも女子校みたいに自由で、自分には合っていると思います。

――やりたいことを自由にできるかどうかが大事なんですね。さて最後に、今後は?

里歩 AEWに月2回は出るので、日本とアメリカを行き来する忙しい生活になりそうです。でもプロレスが楽しくて充実しているので仕事ひと筋って感じです。

今のプロレスって昔のプロレスとは全然変わっていて、私みたいなフツーっぽい人もやっているんですよ。それを知ったらもっとたくさんの人に楽しんでもらえるだろうから、それを伝えたい気持ちもありますね。

前はこんなことは思いもしなかったけど、フリーになってたくさんの人に見られるようになってから「私に何ができるんだろう?」って考えるようになって。プロレスを知ってもらえる可能性があるなら、何でもやりたいです!

里歩(りほ)
1997年6月4日生まれ、東京都出身。身長155㎝。得意技=蒼魔刀、くるくるリボン、ジャンピングニー●2019年、アメリカの人気団体AEWで初代女子チャンピオンに輝く。日本ではスターダムに定期参戦中。ハイスピード王座第18代チャンピオン。