クラシコの延期について語った宮澤ミシェル クラシコの延期について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第122回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、クラシコの延期について。カタルーニャ州の治安不安で12月18日に延期になったクラシコ。宮澤ミシェルはそのような状況がとても心配だと語った。

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スポーツと政治を切り離すのが難しいとわかっているけど、綺麗事だとしてもやっぱりスポーツに政治を持ち込まないでほしいと思うな。

10月26日に予定されていたバルセロナ対レアル・マドリードの"エル・クラシコ"が、カタルーニャ州の治安不安で12月18日に延期になったのを見て、改めてその思いを強くしている。

州都バルセロナのあるカタルーニャ自治州の独立運動をめぐって、今年10月にスペイン最高裁は同州の政治家9人に対してそれぞれ懲役9年から13年の有罪判決を下した。この判決に対して独立賛成派市民が大規模デモを繰り広げることになったんだ。日本のテレビではあまり報道されなかったけどね。

現在のカタルーニャの独立運動の引き金になったのは、2010年にスペイン最高裁がカタルーニャ自治憲章を違憲としたことにあるそうなんだ。

それで2017年には中央政府の反対を押し切って、カタルーニャ州首相が住民投票を実施し、独立派が9割を占める結果になった。これは日本でも数多く報じられたので覚えている人も多いと思う。

日本に住んでいると、スペイン国内の歴史的背景はわかりにくいし、それを知るには20世紀初頭まで遡(さかのぼ)らなければならないから大変なんだけど、この問題には歴史的背景に加えて、経済的な逆格差もバルセロナの人たちが背負わされていることに不満を持っているようなんだ。

世界屈指の観光都市として繁栄するバルセロナに住む人々たちの税金によって、ほかの地方都市は恩恵を受けているのに、バルセロナの人たちには恩恵がほとんどない。たとえば地方は高速道路が無料なのに、バルセロナ周辺では有料。自分たちが一生懸命に働いて、他の人が楽をしていると思ったら、不満が積もるのもわかるし、中央政府への不信感も大きくなるのもわかる。

この問題は根深いし、すぐに解決できるものではないから、またいつデモが激しくなっても不思議はないよな。そうしたら12月に延期になったエル・クラシコが、再度延期になる可能性だってある。そうなると他の試合にも影響は必ず出るだろうから心配だよ。

選手たちが何の不安もなくピッチに立てる日が、一日も早く戻ってくることを願うばかりだよ。

そのラ・リーガは、開幕直後はパッとしなかったバルセロナとレアル・マドリードが、地力の高さを発揮して首位と2位につけている。チャンピオンズリーグを戦いながら、リーグ戦の順位をしっかり上げているのは流石だね。

気がかりなのは、アトレティコ・マドリードだよ。週末のエスパニョール戦に勝利して3位に順位を上げたけど、全体的には引き分けが多くて、いまいち勝ちきれない印象が強いんだよな。

2トップにアルバロ・モラタやアンヘル・コレアを使ったりしているけれど、攻撃のコンビネーションが出てこない。リュカ・エルナンデスがバイエルン・ミュンヘンに移籍したことも理由なんだろうけど、そもそも大黒柱のディエゴ・コスタに元気がないんだよな。D・コスタに怖さがなければ、攻撃力は半減と言ってもいいくらいだよ。

さらに、20歳の新鋭ジョアン・フェリックスの使い方も疑問があるんだ。彼はバイタルを攻略できる選手だけど、ディエゴ・シメオネ監督は彼をサイドに起用するから、フェリックスは持ち味を存分に発揮できないという悪循環にハマっているように見えるね。現在は、ケガで離脱中だけど、復帰した際にどう使われるのか注目したいよ。

2011年12月からスタートしたシメオネ体制も、今季で9シーズン目でしょ。ひとつのクラブを長く指導してきた弊害が出てきているようにも感じるだけに、そのあたりは心配だね。

単に選手たちが、ユヴェントス(イタリア)、ロコモティフ・モスクワ(ロシア)、レバークーゼン(ドイツ)という大会屈指の激戦区を戦っているチャンピオンズリーグに集中していたのが理由なら、ここからのリーグ戦ではグッと上向いてくるはずなんだけど、どうなるかだよね。

いずれにしろ、バルセロナもレアル・マドリードも他のクラブも、しっかりとラ・リーガに専念できる状況になってもらいたいよ。

私が現役だった1991年から94年まであったユーゴスラビア紛争のために、ドラガン・ストイコビッチやデヤン・サビチェビッチという稀代の名手たちを擁していた旧ユーゴスラビア代表は、国連の制裁で94年のW杯には出場できなかった。当時の旧ユーゴスラビア監督は、後に日本代表監督にもなったイビチャ・オシムさんだからね。

やっぱり旧ユーゴスラビアに起こったことも、今回のカタルーニャ州のことも、別世界のことと切り離しては考えられないよ。スポーツは平和だからこそできる。だけど、平和が危うい時にスポーツは何ができるのか。

来年は東京五輪が行われるけれど、そうしたことを考え、議論することも、スポーツを文化としてこの国にしっかりと根付かせていくことになるんじゃないかな。みなさんの考えを教えてもらいたいな。

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