デビスカップ・ファイナルズ2019に出場するジョコビッチ
11月18日~24日にスペイン・マドリードで開催される男子テニスの国別対抗戦「デビスカップ・ファイナルズ2019」。

かつてはホーム&アウェイ方式だったが、今年から18チームが6グループに分かれて戦う集中開催方式となり、グループAの日本は20日にフランス、21日にセルビアと準々決勝進出をかけて戦う(いずれも日本時間19時から)。この大会の見どころを、テレビ解説者としてファンから絶大な支持を受ける鈴木貴男(すずき・たかお)氏に聞いた。

■デ杯は番狂わせが起きやすい

日本代表選手として、デ杯の歴代最多試合出場、シングルスとダブルス両方の最多勝といった記録を持つ鈴木貴男氏は、「デ杯を知り尽くした男」といっていいだろう。刊行されたばかりの著書『ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか』(集英社新書)の中でも、デ杯の話に一章を割いている。

「ふだん個人で戦っている選手たちが国の代表としてチームで戦うデ杯には、ATPツアーとは違う面白さがあります。本番の数日前にドローが決まるツアーと違って、デ杯は何ヵ月も前から対戦相手の見当がつくので、そこに照準を絞った準備ができる。

そのため、ランキング下位の選手が上位の選手に勝つ番狂わせが起きやすいといわれています。また、監督の選手起用が勝負を左右するのも団体戦ならではの要素ですよね」

日本が戦うフランスとセルビアは、モンフィス(10位)、ペール(24位)、ツォンガ(29位)、そしてジョコビッチ(2位)といった世界ランキング上位の選手たちがずらりと並ぶ(※ランキングは11/11現在)。日本は頼みのエース・錦織圭(13位)が不在なだけに、番狂わせが起きやすいと聞くと期待感も高まるというものだ。

■選手起用に要注目!

しかも日本はメンバーのランキングに大差がないので、岩渕聡監督が誰をシングルスに投入するかが最初の見どころになる。西岡良仁(69位)、内山靖崇(78位)、杉田祐一(102位)、ダニエル太郎(112位)と、ダブルス専門のマクラクラン勉以外は誰がシングルスに起用されてもおかしくない。

ちなみに鈴木氏は、今シーズンの前半は杉田、後半は内山のコーチとして彼らのランキング・アップに貢献した。とくに、ダブルス要員と思われていた内山がシングルスで「ナンバー2」のポジションまで上がったことで、選手起用はさらに興味深いものとなっている。

「わざわざマドリードまで行く以上、みんな試合に出たいに決まっています。たとえば神和住純監督の時代は、基本的にランキング上位の選手を使うと決めていましたね。それがいちばん、不満が出ないやり方です。とはいえ当然、現地に入ってからのコンディション、サーフェスやボールとの相性なども考慮しなければいけません。たとえばクレーコートの大会なら、ランキングは低くてもクレーが得意なダニエルを使いたい。

しかし今回はインドアのハードコートです。自分がコーチをしているから言うわけではなく(笑)、ふつうに考えれば、シングルスのナンバー1は西岡、ナンバー2は内山でしょう。試合はナンバー2、ナンバー1、ダブルスの順なので、内山はシングルスに出場しても、ダブルスまで少し休めます。おそらく本人も、両方に出るつもりだと思いますよ。

ただ、フランス戦とセルビア戦は2日続きなので、選手の疲労度などに応じてメンバーを変える可能性はあります。たとえばフランス戦で西岡が疲れてしまったら、セルビア戦は杉田やダニエルで行く。あるいは、2日目のジョコビッチ戦に向けて、フランス戦では西岡を温存するという考え方もあるでしょう。ツアーでの実績のある選手ばかりですから、シングルス4試合を4人で1試合ずつ戦うのも面白いかもしれませんね」

『ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか』の著者である鈴木貴男氏

●優勝候補フランス、日本のジャイアントキリングはあるのか

大会は、まず6グループのラウンドロビン(総当たり戦)を行ない、各グループの1位チームと、6つの2位チームのうちセット獲得率、ゲーム獲得率の高い2ヵ国が準々決勝に進出する。鈴木氏が「正直、錦織がいても突破するのはキツい」という日本のラウンドロビンは、どんな戦いになるだろうか。

「フランスは優勝候補の筆頭なので、勝つのは容易ではありません。ダブルスがすごく強いし、シングルスもモンフィスとツォンガがこのところ調子を上げています。ランキングはペールのほうが上ですが、ナンバー2でツォンガを使う可能性もあるでしょう。仮に第1試合が内山対ツォンガになったとすると、お互いのパワーが前面に出る激しい試合になりそうです。内山がプレッシャーを感じずに落ち着いて自分のプレーをすれば、サービスゲームは互角に戦えるはずなので、勝つチャンスはあると思いますよ。

第2試合は、西岡のプレーをモンフィスがどれだけ嫌がってくれるかがポイントですね。西岡は小柄な分、フットワークのスピードがありますし、ボールのコースや緩急の変化で駆け引きをするのがうまい。サーブにも左利き特有の癖があるので、海外の大柄な選手が対戦を嫌がるタイプです。実際、今年の全仏オープンではデルポトロ(アルゼンチン)をフルセットまで追い詰めました。ダブルスでフランスに勝つのは難しいので、シングルス2試合のうち1つでも取ることができれば、たとえ1ー2で負けても最低2セットは取ることになる。2位通過の望みを残してセルビア戦を迎えられると思います」

本来、テニスは0ー3でも2ー3でも負けは負け。セットも0-6だろうが6-6のタイブレークだろうが、結果には関係ない。セット獲得率やゲーム獲得率が最後に物をいうかもしれない点も、デ杯がふだんのATPツアーと大きく違うところだ。

■絶対に見逃せないジョコビッチとの駆け引き

「セルビア戦は、まず相手がジョコビッチを使ってくるかどうか。錦織がいれば間違いなく出てくるでしょうが、彼はデ杯の直前までATPファイナルの試合があるので、疲れているようなら『日本戦はジョコビッチを休ませよう』と考える可能性もあります。でも、ジョコビッチが出ようが出まいが、セルビアのダブルスはフランスほど強くはないので、シングルスをひとつ取れれば勝つチャンスはある。その意味では、シングルスの第1試合に出場するナンバー2の出来が大きな鍵を握ることになると思います。

もちろん、ジョコビッチが出てきたときに西岡がどんな試合を見せてくれるのかも楽しみですよ。『ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか』という本でも詳しく書きましたが、テニスは、ネットをはさんで向かい合う2人の駆け引きがいちばんの見どころです。ジョコビッチはそのずる賢さも含めて、駆け引きに長けた選手。しかし西岡もそれが武器ですからね。序盤はブレークされずに食いついて、焦らずにジョコビッチを左右に動かすプレーができれば、面白い試合になるでしょう」

■「デ杯を知り尽くした男」の優勝予想

さて、楽しみなのは日本チームの活躍だけではない。集中開催方式に変更され、強豪国のスター選手たちが一堂に会することになった今回のデ杯は、テニスファンにとって極上のエンターテインメントだ。6つのグループすべてに、見逃せない好カードがある。その大会を制するのは、いったいどの国になるだろうか。

「これがクレーコートの大会だったら、優勝候補筆頭はホームのスペインだったでしょう。ホーム&アウェイ方式の時代は、ホーム側が好きなサーフェスを選べたので、スペインは必ず得意なクレーにしていました。逆に、ホームでスペインと戦う国は絶対にクレーを使わない。

テニスではサーフェスの違いがプレーに与える影響がとても大きいので、インドアのハードコートで行われる今回のデ杯は、スペインにとってはホームとは思えないかもしれませんね(笑)。でも、やや調子が上がっていないとはいえスペインにはナダルがいますし、バウティスタ・アグートもランキング9位まで上がっています。フランスに次ぐ優勝候補であることは間違いないでしょう。

それ以外に僕がとくに注目しているのは、イタリア。今季はベテランのフォニーニが好調でしたし、心境著しい若手のベレッティーニはランキング8位まで上昇してATPファイナル出場も果たしました。もっとも、同じグループFのカナダにはシャポバロフ(15位)やオジェ・アリアシム(21位)という若手成長株がいますし、フリッツ(32位)やティアフォー(47位)のいるアメリカも侮れません。このグループを突破するのは簡単ではないでしょうね。

スペインも、チリッチ(39位)のいるクロアチア、メドベージェフ(4位)のいるロシアと同じグループBですから、決して楽ではないと思います。ラウンドロビンから、目の離せない試合ばかりですよ」

豪華なメンバーが集い、さまざまな「駆け引き」をくり広げるデビスカップ。いろいろなプレースタイルに触れることもできるので、これまであまり見なかった人にとっても、テニスの面白さを知る良い機会になるだろう。

鈴木氏は著書の中で「その国のテニスが発展するかどうかは、社会におけるテニス文化の成熟度にかかっている」と語っている。各国の総合力が問われるデビスカップで日本が勝つには、応援するファンがテニスへの理解を深めることも必要だ。その意味でも、この大会が日本国内でも広く注目されることを期待したい。

■『ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか』 

(集英社新書 780円+税)