2017年に初めてワールドシリーズを制覇した米メジャーリーグのアストロズが、チームぐるみでサイン盗みをしていたとの疑惑に米球界が大騒ぎになっている。
当時在籍していたマイク・ファイアーズ投手(現アスレチックス)が米メディアに告発した内容によれば、サイン盗みはドジャースとのワールドシリーズでも行なわれたという。このワールドシリーズでは、最終戦にダルビッシュ有(当時ドジャース、現カブス)が先発するも、2回途中でKOされている。
現地報道によれば、球団幹部がサイン盗みを指示したメールも流出。これが動かぬ証拠と判定されれば、MLB機構が王座剥奪を含む厳罰を下す可能性もある。スポーツ紙メジャー担当記者が言う。
「情報源が元選手だけに信憑性は高い。同時期にカージナルスも不正行為で200万ドル(約2億1800万円)の罰金を支払っていますが、それ以上の額の罰金やドラフト上位指名権の剥奪などが科されるのではともいわれています」
告発されたサイン盗みの手口も非常に手が込んでいる。外野席に設置された高解像度のカメラでキャッチャーを撮影し、その映像をリアルタイムにベンチ裏で再生。そこで球種が判明すれば、ベンチからバットケースやごみ箱を叩くなどして打者に伝えていたのだという。
機器を使用したサイン盗みは、もちろん日米問わず禁止行為だ。今の日本球界で、同様の行為が行なわれている可能性はあるのか? 野球解説者の伊勢孝夫氏はこう言う。
「それこそ大昔は、センター方向から双眼鏡でキャッチャーのサインを見て、うちわで打者に合図を送るなどの行為を一部のチームがやっていた。それ以降も、捕手のクセをベンチが見抜き、打者に声で指示を送る手口がありました。例えば『行け!』ならカーブ、といった伝え方です。
しかし、1990年代前半にはベンチからメガホンで声をかけること自体が違反になり、現在ではバックネット裏のスコアラーから試合中にベンチへ報告を送ることも禁止です。ましてや機器を使ってチームぐるみでサイン盗みを行なうなど考えられません」
また、日本球界にはサイン盗みが横行しない理由がもうひとつあるという。
「日本ではバッテリーが常に警戒しています。少しでも打者のしぐさに不自然な点があったり、打たれるはずのないボールが打たれたりすれば、すぐにサインを変える。1試合で5度、6度と変えますから、盗もうにも対応しきれないんです」(伊勢氏)
ともあれ、やはり打者にとって球種があらかじめわかることのメリットは大きいと伊勢氏はつけ加える。
「もし配球がわかっていれば、好打者なら4割から5割の確率で打てます。ソフトバンクの甲斐野 央(かいの・ひろし)のように、わかっていても打てない投球ができる投手なら話は別ですが(笑)」
勝てば天国、負ければ地獄の世界だけに、誘惑は常にあるということだ。あるメジャー関係者はこう語る。
「サイン盗みも要はドーピングと同じです。勝ちたい思いが強いほど手段を選ばなくなり、一度やってしまえば次第に罪悪感は薄れていく。日本と比べて、メジャーには今もそういった空気が色濃くあるように感じます」
メジャー王者がサイン盗みで決まっていたとなれば、ワールドシリーズの権威は丸つぶれだ。続報を待ちたい。