伊藤(中央)の五輪出場が確定し、シングルスの残りひと枠は石川(左)と平野(右)が争う。12月のワールドツアーグランドファイナル後に笑うのはどちらか

東京五輪に向け、卓球の「シングルス代表争い」が佳境を迎えている。

その枠は男女2枠ずつで、2020年年1月2日に発表される世界ランキング(WR)の上位2名が選出。それに、強化本部が「団体戦のシングルスおよびダブルスで活躍が期待できる選手」として選出した1名を加えた3名が、東京五輪の舞台に立つ。

世界ランキングは、世界選手権やワールドツアーなど、国際大会の成績により獲得できるランキングポイントで決定。獲得ポイントの高い上位8大会の合計で順位が決まる。

ただし、大会で獲得したポイントは原則として1年間のみ有効(世界選手権など一部大会を除く)。来年1月時点で適用されるポイントで"東京五輪用のランキング"が決定する仕組みだ。

張本(左)が五輪出場を決め、シングルス枠の争いは丹羽(中央)と水谷(右)の一騎打ちに。腰に不安がある水谷が出場しないW杯で、丹羽は一気にそれを近づけたいところだ

男女共にシングルス代表を争うのは、3選手に絞られている。来年1月まで有効なポイントのみで算出したランキングで、男子は張本智和(WR5位/1万975p)、水谷 隼(同13位/8425p)、丹羽孝希(同11位/7960p)の"3強"状態(※ポイントは10月のドイツOP終了時点)。

なかでも張本は、ポイントで2番手の水谷と2000ポイント以上の差がある独走状態で、いち早くシングルス代表権を獲得した。

となると、残るシングルスの枠はひとつ。水谷が一歩リードしているが、順位が入れ替わる可能性は十分にある。

ここまで水谷は、3大会連続で五輪に出場している経験と鋼(はがね)のメンタルで、東京五輪に標準を合わせながら着々とポイントを上積みしてきた。しかし、11月6日~10日に、本番と同じ会場の東京体育館で開催されたW杯団体戦では、腰痛のため全試合欠場。男子チームの倉嶋洋介監督は、水谷について「試合に出られる状態ではなかったので、練習もしていなかった」と説明した。

11月12日から行なわれたオーストリアOPには出場したものの、シングルスでは初戦敗退。今後のコンディションが心配される。

僅差で水谷を追う丹羽も、今季のワールドツアーでは苦しい試合が続いていた。9月には、少しでもポイントを加算するため、ワールドツアーと比べて得られるポイントが少ないパラグアイOPに出場するも、1回戦で敗退。10月のスウェーデンOP、ドイツOPもベスト16止まりと、不振から脱却できずにいた。

それでも、水谷が欠場したW杯団体戦にダブルス、シングルス共に出場した丹羽は「ポジティブな気持ちにはなれた」と、多少なりとも手応えをつかめた様子だ。

オーストリアOPでもベスト8入りで405ポイントを加え、水谷に60ポイント差と迫り、さらに水谷が出場できない男子W杯(11月29日~12月1日)にも参戦するため、同大会でどれだけポイントを得られるかが大きなカギを握りそうだ。

日本男子4番手は、パラグアイOPで優勝した森薗政崇(WR44位/5195p)。世界ランキングだけを見れば、吉村和弘が38位と上回るが、来年1月まで有効なポイントで集計すると、吉村は4830ポイントで森薗のほうが五輪に近い。

上位3選手とはかなり開きがあるが、どちらも「ダブルス要員」として選出される可能性も残っているため、少しでもポイントを重ねておきたい。

シングルス2名に加える「ダブルス要員」は、ランキングに関係なく選ばれる。実績があり、サウスポーの早田はその有力候補だ

一方の女子は、伊藤美誠(WR7位/1万2430p)が、2位の平野美宇(同10位/1万295p)と3位の石川佳純(同8位/1万230p)を約2000ポイント突き放してトップ。さらに伊藤は、W杯団体戦で6戦5勝、オーストリアOPで優勝を飾り、295ポイントを上乗せ。

平野と石川が残りの大会を全勝してもポイントで届かないため、張本と同じく五輪出場を決めた。

W杯団体戦の後には、この圧倒的な成績を見てわかるとおり「この短期間で自分の実力が上がっている」と自信を深めており、「(中国選手含めて)どんな選手にも勝てるようにしていきたい」と、われわれの予想よりはるか上を見据えていた。彼女の19歳とは思えない抜群の勝負度胸と巧みな戦術に、さらに磨きをかけていく。

そして、女子のポイント2位争いも、男子同様に熾烈(しれつ)を極めている。その差はわずか65ポイントで、石川が平野より大会でひとつでも上の順位を獲得すれば、一気に逆転できる。

石川は過去2大会の五輪出場経験があり、現在も代表のキャプテンとしてチームの精神的支柱を担っているが、シングルスの代表枠から漏れる不安は拭えない。平野も、日本女子の参加が見込まれる残り3大会、特に獲得ポイントが高い、選考レース最後の大会であるワールドツアーグランドファイナル(12月12日~15日)まで緊張の糸を緩めることは許されない状況だ。

4番手には7月のT2ダイヤモンド・マレーシア大会準々決勝で、世界ランキング1位の陳夢(中国)を破る大金星を挙げるなど、今季大ブレイクを果たした加藤美優(WR21位/7545p)がつける。

しかし、3位の石川とのポイント差は3000弱。ダブルスを重視した1名が選ばれるとしても、伊藤との相性を考えると第1候補は早田ひな(WR25位/7070p)になりそうだが、それを覆すインパクトを残せるか。

世界ランキング発表まで残り1ヵ月余り。11月末の各大陸代表で争われる男子W杯、12月の年間王者を決めるワールドツアーグランドファイナルを戦い抜き、東京五輪代表の切符を勝ち取るのは誰なのか。選手たちが演じるハイレベルな戦いは、最後まで見逃せない。