E-1選手権について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第128回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマはE-1選手権について。韓国に敗れ、6年ぶりの優勝を逃してしまったE-1選手権だが、「森保監督には優勝以外にも狙いがあったのではないか」と宮澤ミシェルは語る。

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日本代表にとって年内最後の戦いとなったE-1選手権で、中国代表に2-1、香港代表に5-0と勝利したものの、韓国には0-1で敗戦。韓国戦で引き分け以上なら6年ぶりの優勝だったわけだから残念だよな。

この大会のレベルを考えると、いまの中国代表は昔に比べて怖さはないからね。ソン・フンミンなどがいないとはいえ、強化につながる相手は韓国代表だけというなかで、日本代表はほとんど何もさせてもらえずに敗れた。若さがモロに出た試合になってしまったよ。

今回は海外クラブ所属の選手を招集できないためにJリーグ組22名で臨んだ。そのうち12名が東京五輪世代というメンバー構成。東京五輪代表を目指す選手たちとともに、この大会が初代表で今季のJリーグMVPになった仲川輝人に注目していたけれど、先発起用された香港戦ではリーグ戦で見せたようなプレーが全然できなかったね。

初めて一緒にやるメンバーだった難しさがあったと思うけれど、彼にはもっとゴールの近くでプレーしてほしかった。守備も攻撃もバランスよくやろうとしすぎているように見えたよ。大事なことだけど、相手のレベルを考えたらもっと攻撃に軸足を置いてよかったんじゃないかな。

韓国戦も途中から出場したけれど、ゲームチェンジャーにはなれなかった。でも、この2試合の内容は、今後の仲川に期待したくなるよ。彼はJリーグでも苦労して遠回りしながら才能を開花させた選手だからね。今回の悔しさを糧にして、次回代表に収集されたときに本領発揮してもらいたいよ。

一方で、改めて存在をアピールしたのは大島僚太だったね。スタメン出場した香港戦は相手のレベルが低かったから当然なんだけど、途中出場した韓国戦でも攻撃のリズムをつくりだしていた。やっぱり大島の場合、故障が彼のキャリアアップを阻んでいるよな。

もし大島が故障の少ない選手だったら、いまごろ日本代表のボランチの軸は、柴崎岳ではなくて大島であっても不思議はないからね。来シーズンは故障せずに万全の体調でフルメンバーのそろう日本代表のなかでプレーしてくれるのを期待しているよ。

それにしてもE-1選手権の韓国戦での森保一監督は我慢強かった。前半から相手に一方的に押し込まれたら、普通ならフォーメーションの変更を指示したり、選手を代えたりして対応する。だけど、森保監督はそれをしなかった。それは日本代表が次のレベルに向上するために必要なものがあると考えているからだと思うよ。

いまは日本代表や東京五輪代表はチームをつくっている真っ只中。だから、森保監督は勝利を求めているけれど、それよりも選手たちが自分たちでピッチの状況を判断して自主的に対応する柔軟性を育ませたい狙いがあったんじゃないかな。

森保監督はW杯ロシア大会のベルギー戦での敗戦を、コーチとして経験しているからね。ベンチからの指示がなければ相手の変化に対応できないようでは、W杯ベスト8以上には進めないことを身を持って感じているからこそ、選手たちの自主的な柔軟性を大事にしているんだと思う。最終的にサッカーは、ピッチにいる選手たちが瞬時に判断しながらコミュニケーションを取っていかないと、強いチームを相手にしたときには守りきれないからね。

日本代表ならベネズエラ戦、東京五輪世代ならコロンビア戦も、E-1選手権と同じような部分はあったよな。日本代表はベストメンバーがそろえば、そうした戦い方はある程度はできる。だけど、いつもベストメンバーで戦えるわけではないし、五輪世代も東京五輪以降に日本代表入りを目指すには、そこの力を伸ばしておかないとW杯カタール大会は夢に終わっちゃう。

極端なことを言えば、E-1選手権での日本代表の収穫らしい収穫は、韓国代表とアウェーで戦えたことくらいだろうな。日韓戦でしか味わえない特殊な重圧を、多くの選手たちが新たに初体験した。そこでの悔しさをバネにして、代表で2020年に飛躍する選手が数多く台頭してくると信じているよ。

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