高校サッカー選手権大会について語った宮澤ミシェル氏 高校サッカー選手権大会について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第130回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは高校サッカー選手権大会について。今年も熱戦が繰り広げられている高校サッカー選手権大会。そんな高校サッカー選手権の思い出を宮澤ミシェルが語った。

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みなさま明けましておめでとうございます。日本のサッカー界で新年のイベントといったら、前回の記事でも取り上げた天皇杯。そして、もうひとつはやっぱり高校サッカー選手権だよな。

高校サッカー選手権のレベルは、昔に比べたらやっぱり上がっているよね。現在はJリーグのクラブユースが充実しているから、昔ほどプロへの登竜門という側面はない。それでも選手個々の技術は高くなっているし、戦術的な面でも組織立って戦っている。

なにより高校サッカー選手権はドラマチックだよな。もちろん高校サッカー経由でプロを目指す選手もいるけれど、この舞台が最終目標という選手もいる。そういう選手が一丸となって勝利を目指すからだろうな。

1月13日に埼玉スタジアムで行なわれる決勝戦が、いまから楽しみだよ。

ただ、やっぱり高校サッカー選手権決勝戦の舞台は、国立競技場であってほしいと思うよ。2014年から決勝と準決勝の舞台になっている埼玉スタジアムは、国内屈指のサッカー専用スタジアムだから文句はないんだ。

だけど、高校サッカー選手権が刻んできた歴史を振り返ると、せっかく新しい国立競技場が完成したのだから、そこでやらせてあげたかったなと思ってしまうよ。

僕は高校サッカー選手権に出場できなかったんだよね。日本に生まれ育ったけれど、30歳までフランス国籍だったという理由もあってさ。あの頃の千葉県では習志野高校が強豪校として全国で知られていたけど、八千代松陰高校が創部3年目で全国への切符をつかんで、高校サッカー選手権でもベスト8まで勝ち上がった。彼らの活躍を横目に見ることしかできなかった悔しさはあったよ。

第98回大会の地方予選では、和歌山県大会決勝で解説をしたんだけど、現場に行って高校生の熱いプレーを見ると、当時を思い出して「1度は出たかった」という気持ちになるんだよね。

高校サッカー選手権は、現役引退後に一度だけ深く関わったことがあるんだ。1997年の1年間、帝京高校サッカー部の臨時コーチをしていたから、1998年の第76回大会はいまも鮮明に思い出せるよ。

帝京高校と東福岡高校で行なわれた決勝戦では大雪が降って、黄色いボールが使われてね。試合は2-1で東福岡が優勝して、史上初めてインターハイ、全日本ユースとの高校サッカー三冠を達成した。

僕はスタンドから帝京の選手たちを見守っていたんだけど、試合後に僕のところに来て挨拶してくれたのが懐かしいよ。

帝京のベンチに入らなかったのは、前年12月から臨時コーチにきた李国秀さんがいたから。李さんは1996年いっぱいで桐蔭学園のサッカー部監督を辞めて、その後は清水商高で臨時コーチをしていたんだけど、小野伸二を擁しながら県予選に負けてからは、帝京高の古沼貞雄監督の誘いがあって指導しに来ていたんだ。

当初は李さんが練習を見ることになった時に、ボクは辞めるつもりだったんだ。「船頭多くして船山にのぼる」になるし、そうなると選手を困惑させるだけだからね。でも、選手たちから「最後まで一緒に」と頼まれて。あれはうれしかったなあ。

あの時の帝京のキャプテンが中田浩二で、学業もよくて、高校生ながらもインテリジェンスのあふれるプレーをしていた。後に鹿島アントラーズやバーゼルなどでプレーし、日本代表にまで上り詰めたけど、当時からそれを予感させる選手だったね。

ほかにも2019年までカマタマーレ讃岐で現役だった木島良輔や、ドリブラーの高嶋清善などもいて、個性的な選手たちが揃う魅力的なチームだったよ。

対戦相手の東福岡もメンツがすごかったね。鹿島で中田浩二とチームメイトになる本山雅志がエースで、古賀誠史(元・横浜FMほか)、金古聖司(元・名古屋ほか)、千代反田充(新潟ほか)がいてさ。高校三冠を成し遂げたのも納得のメンバーだったね。

こうやって振り返ると、いまの高校サッカー選手権の方がレベルは高いかもしれないけれど、あの頃よりも魅力的な選手が減っている気がするよ。

小倉隆史は四日市中央工高校からプロ入りすぐのジェフ市原戦で、日本代表に名を連ねていた阪倉裕二をドリブルで振り回してね。阪倉に「四中工の後輩にやられて情けねーな」と言ったら、真顔で「あいつはやばいですよ」って。

城彰二は高校サッカー選手権で活躍して高卒でジェフ市原に入ってきて、デビュー戦から4試合連続ゴール。彼はJリーグ通算1500ゴール目を決めているんだけど、試合前から「今日は俺が記念ゴールを決めるからパスを回せ」と生意気なことを言っていたら、本当に決めちゃってさ。

そんなスケールの大きさを感じさせる高校生は、最近ではなかなかお目にかかれないよな。ただ、大迫勇也や本田圭佑のような凄い選手が時々現れるから、やっぱり高校サッカー選手権はおもしろんだよ。

最近はクラブユースに押されている感もある高校サッカーだけど、これからも日本サッカーが発展していくには、クラブユースと高校サッカーが両輪でないと駄目。そのためにも高校サッカー選手権にはいつまでも、子どもたちが憧れる舞台であってほしいんだ。だからこそ、伝統と歴史を刻んできた国立競技場という舞台を大事にしてもらいたいと思うよ。

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