少年時代はケンカに明け暮れ、暴走族の副総長になり、少年院に収容されたことも。ニックネームは"路上の伝説"。今、最も注目される総合格闘家、朝倉未来(みくる)のことだ。
現在27歳の朝倉は、対戦相手への徹底的な分析と、それに基づく緻密な作戦で、RIZINで6連勝中。その明晰な頭脳にも注目が集まっている。同時に、彼はチャンネル登録者数70万超のユーチューバーでもある。今までにいなかったタイプの格闘家、朝倉未来とは何者なのか? 前編に続き、独占インタビューで深堀り!
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――「鑑別所に行ったときから少年院に行くことを決めていた」と語った動画がありました。少年院行きを避けるために少年鑑別所で反省したように振る舞うことを良しとしなかった?
朝倉 昔から僕は、自分を客観的に見てカッコ悪いことはやりたくないんです。だから、あのケンカの日々も、少年院に入ったことも後悔していない。自分がやっていたことに対して嘘をつくと自分を否定することになるから、(少年院に)行こうと思っていました。
――常識や法律にとらわれない、流儀みたいなものが朝倉選手の中にはあるように思います。その中で自分なりの善悪の区別がある?
朝倉 はい。ケンカとか、無免許でバイクに乗るとか、それは世間的には悪いことなんですけど、ケンカにしてもイジメでなければ悪いとは思っていなかったですね。逆に、暴走族には武器を持つヤツが多かったけど、それは違うと思ったし、集団でひとりをイジメるとか、物を盗むとかは悪いことだと思っていました。
――それが今や「街中で誰かに絡まれたら負け」と思うようになったとか。
朝倉 それは、格闘技という世界で生きてきたからだと思います。それまでは自分が最強だと思っていたけど(笑)、世界は広いことを知って、ケンカなんてしょうもないもんだって気づいたってことですね。
――本業の格闘技の話を聞かせてください。昨年大晦日の試合の率直な感想は?
朝倉 勝ちにこだわっていたし、(対戦相手のジョン・マカパは)世界的に実績のある選手だったので、勝って自分の実力を証明できたかなと思います。
――しかし、中継の視聴率は過去の大晦日大会の中で最低でした。これはどう分析しますか?
朝倉 選手ひとりひとりがもっと頑張らなきゃダメだと思いますね。格闘家の価値っていうのは、どれだけ観たい人がいるかってことだと思う。自分の試合をどれだけの人に観たいと思わせるか。圧倒的に強くなるとか、試合前から煽(あお)り合うとか、違う分野に手を広げて興味を持たせるとか、やり方はいろいろあると思う。練習して、淡々と試合をするだけじゃ、人は振り向かないと思いますね。
――近年最も注目を集めた試合としては、2018年大晦日にフロイド・メイウェザーJr.×那須川天心がありましたが、どう見ましたか?
朝倉 あれはメイウェザーのひとり勝ちっていう感じですかね。
――もしメイウェザー戦のオファーがあったら受けますか?
朝倉 ボクシングルールですか?
――ええ。
朝倉 やらないですね。総合格闘家としての僕を応援してくれているファンを幻滅させてしまうと思うから。総合格闘技のルールならやります。
――K-1やPRIDEが全盛の頃は、例えば曙×ボブ・サップ戦のような変化球を投げることで世間の注目を集めていた。ある意味、メイウェザー×天心もそうだったと思うんです。
朝倉 そういう点ではいいと思います。だけど、どっちかが不利な状況でやるのはダメだと思います。
――話題性のあるカードで注目を集めるという従来のビジネスモデルとは違って、朝倉選手はYouTubeで裾野を広げ、新しいお客さんを集めています。
朝倉 そこは時代の変化が大きいと思う。格闘技ブームといわれた当時はまだSNSがほとんど機能していなくて、テレビが一番だった。だから生放送でなくてもよかったけど、今は結果やフィニッシュシーンの動画がすぐにSNSで広まってしまう。そうなるとわざわざ生放送ではない地上波の中継を見る必要がなくなる。それも(視聴率が低い理由に)あると思います。
――なるほど......。
朝倉 だったらSNSで有名になったほうが視聴率にも結びつくのかな、というのが現代的な考え方だと思う。僕がYouTubeで街のケンカ自慢とスパーリングをすると炎上する。僕的には炎上商法を使ったんですけど、なかには「試合で勝てないからそんなことをしているんだろ」というコメントもある。そういったネガティブなコメントも、興味を持ってくれている証拠だから、炎上商法は成功したのかなと。実際、今は僕が一番RIZINの存在を広めているんじゃないですかね。
――例えば、朝倉選手より体がずっと大きい女子格闘家のギャビ・ガルシアと試合してほしいというオファーがあったら受けますか?
朝倉 やらないです。カッコ悪いので。勝っても損する試合はしないです。僕は、自分が損をしない選択をしていく。試合を見ていただいてもそうだと思うんですけど、成功するやり方というよりは、すべてにおいて失敗しないやり方を選んでいる。だから慎重だと思います。
――なるほど。では、五味隆典選手や青木真也選手といったレジェンドとの対戦はどうですか?
朝倉 どうなんでしょうね? わからない。そのときの自分の気分次第ですけど、やりたくない試合は、僕はやらないって言うし。誰に言われてもやりたくないものはやらないので。そこはブレない。現状として、青木選手も五味選手も階級が上(ライト級)じゃないですか。僕は(フェザー級なので)昨年のライト級GPにも出なかったわけだから、やらないですね。
――RIZINフェザー級GPが開催されたら参戦しますか?
朝倉 ありえますね、十分。
――もうひとつ、UFCについてはどう考えていますか?
朝倉 どうなんでしょうね。現役を辞めるって決めたら狙いたいかもしれない。あと1年間、本気で格闘技に集中して自分の限界を確かめたいとか、そういうモチベーションが湧いてくればあるかもしれないですね。
――格闘技の試合にしても、YouTubeの動画製作にしても、朝倉選手は目標達成のために必要なものを見極めて、着実にこなしていく。その過程を見てみたい気もします。
朝倉 僕は努力をしている姿を見せるのは好きじゃない。練習でも、「これだけやって疲れた」とかってSNSに上げている選手が多いんですけど、何がしたいのかなと思いますね。僕らが評価される場所は試合がすべて。試合で勝つヤツが評価されるし、稼ぐ。どれだけ練習したかでファイトマネーが決まるわけじゃない。結果がすべてなので、過程を見せる必要はないかなと。
――格闘技に限らず、人生の目標はなんですか?
朝倉 なんでしょうね。30歳までに年収1億円っていうのは、20歳のときから考えていましたけど、今のまま行けば達成できそうなので。それと、30歳までに格闘技を辞めるっていうのも、プロになったときに決めたんですけど、それ以降のことはふわっといろいろと考えていますね。人生ずっとやりがいのあることに挑戦していたい。お金だけあってやりたいことがないのってつまらないですから。人生いつでも勉強はできると思うので、この先、何かやりたいことが他に見つかったら、その道で成功できる自信もありますね。
――ここまで話を聞いてきて、朝倉選手は独自の美学を持っている気がしました。
朝倉 僕は、自分を客観視することをすごく重要だと思っていて。
――カッコ悪いことはしないとか、案外シンプルですよね。
朝倉 そうだと思います。だから、あまりブレないですし。人の意見を聞き入れることはするけど、流されず、最終的には自分で判断していますし。
――しかも、正しい道を見極める能力が高そうですね。
朝倉 それはよく言われます。未来(みらい)から来たの?って。選択のセンスが良くて(笑)。
――逆に、これ失敗したなって思うことは最近ありましたか?
朝倉 ないですね。というか、そこ(失敗)で止まらないんですよ。何か不測の事態が起きたとしても、すぐに策を立てて動いていくのでイライラすることもないし。
――失敗を失敗で終わらせず、いかに修正するかを考えると。
朝倉 そう。それが得意なのかもしれない。だから、失敗のまま終わることがないんです。
●朝倉未来(あさくら・みくる)
1992年生まれ、愛知県豊橋市出身。177cm、66kg。中学・高校時代は、刺激と強者を求めてケンカに明け暮れる日々を過ごす。あまりの強さに地元では敵無し状態に。プロ格闘家デビューは2012年。以降12勝1敗1無効試合の戦績を誇る。2月22日には浜松アリーナでの「RIZIN.21」でダニエル・サラス戦(68kg契約)が決定!