サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第134回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、海外取材での食事について。サッカーの取材で海外に行くことも多い宮澤ミシェルが、海外のビール事情や印象に残っている食事などについて語った。
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ちょっと前の話になっちゃうんだけど、ラグビーW杯でのビールの消費量が、凄まじかったらしいね。
ハイネケンはラグビーW杯期間中に前年比340%を記録したんだってよ。すごい伸び率だよな。ただ、ハイネケンがラグビーW杯のワールドパートナーで、スタジアムではハイネケンしか飲めなかったから当然の数字とも言えるよな。
でも、それ以外の会社のビールも大きく売り上げを伸ばしたっていうよね。スタジアムだけではなくて、あるニュースでは繁華街のビール消費量も、前年より大きく売上げが伸びたと言ってたな。
ヨーロッパの人たちの声のデカさを考えれば、そりゃビールも売れるよ。ラグビーもだけど、サッカーでも、スコットランド・サポーターなんて、体のなかに拡声器でも仕込んでるんじゃないかってくらい声がデカイ。腹の底から声を出しているから、ビールも底なしで飲めるんだろうな(笑)。
彼らの声って単に大きいだけじゃなくて、響くんだよな。聞いたところによれば、スコットランドの人たちは、子供の頃に合唱団に入っていたからだっていうんだよ。本当かね?
私もサッカーの取材でヨーロッパに行くことがあるけど、どの国に行ってもみんなビールを飲んでる印象があるよ。イングランドでも、ドイツでも、スペインでも、ブラジルでも、みんなビール。「とりあえずビール」は万国共通かもね。
ビールの銘柄を覚えないから銘柄はわからないけど、ブラジルで飲んだビールは最高だったね。あとドイツで飲んだ白ビールも美味しかった。だけど、ドイツではぬるいビールが出されたこともあってさ。店の手抜きだったのか、そういうビールなのか、いまだに本当のところはわからないまま。やっぱりビールはキンキンに冷えてる方が美味しいな。
スペインはつまみが抜群だね。だから、ビールはほどほどで、ワインが飲みたくなるんだよね。何を食べても美味しかったのがサンセバスチャン。マドリードもバルセロナも、あの味には歯が立たないよ。機会があれば一度行ってもらいたな。
ロシアでもビールを飲んだね。一昨年のコンフェデレーションズカップや、昨年のサッカーW杯で行ったときには、飲食店へ行くと世界中から来た人たちがビールを片手にサッカーの話題で盛り上がっていた。懐かしいなあ。
思い出した! そのロシアに行った時に日本のうどんチェーン店に行ったんだよ。テレビ中継のスタッフと一緒に、しばらくぶりの日本の味を楽しもうっていうことで。
うどんとかカレーライスとかを、みんなは注文したんだよね。でも、私はなんとなく牛丼が食べたくて注文したのよ。そうしたら出てきたのは丼の上に肉片が3切れ載っているものでさ。どうみても牛丼じゃないし、ポジティブな表現をすればステーキ丼かな(笑)。
実際はビーフジャーキーを水でふやかしたみたいな肉片が載っているだけで、牛丼らしさは皆無。あれには参ったけど、いろんな国に行かせてもらってきた経験もあるから、だいたいのことは許容できるんだよね。
サッカーの仕事で海外に行くと長期滞在になることも多くて、食事に慣れるのに数日かかるし、お腹を下すこともある。ただ、どういう食べ物だとなりやすいかわかっているから、対処できるんだよね。
そういう対応力って、子どもの頃から夏休みになると親父と地方のアパートで暮らしたのが大きかったなと思うんだ。音楽家だった親父が地方のホテルでショーをやる時は、ホテルの近所にアパートを借りるんだけど、そこで2週間くらい親父とふたりきり。
音楽家なんて言うと聞こえはいいけど、偏屈で面倒くさいの極みのようなオヤジだからね。ビールもワインも焼酎も、目の前にあるアルコールはすべて飲み干しちゃう人との生活によって、どんな場所でも暮らしていける能力が磨かれた気がするな。
とはいえ、サッカーW杯のときにロシアで宿泊したホテルのハーフスゥイートのように、下水管が壊れていて部屋中が排泄物のニオイだったのは、二度と無理。あれだけはゴメンだけどね(笑)