日本国籍を取得して注目度が上がったブレックスのロシター。身長は206cmと、W杯メンバーのファジーカス(210cm)より少し低いが、攻守共に能力が高い

華やかに開かれた北海道・札幌でのオールスターゲームが終わり、Bリーグはポストシーズンに向けた後半戦に入った。

熾烈(しれつ)さが増す戦いの先には東京五輪が控えているため、代表入りを狙う選手たちはそれを意識してプレーすることになるだろう。

八村 塁(はちむら・るい/ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)ら、NBAでプレーする選手が出てきている一方で、現在の代表選手の大半はBリーグ所属だ。

昨夏のW杯で世界トップクラスの国々と対戦し、フィジカル面の差を見せつけられた経験から、リーグ創設から4シーズン目となる今季はコンタクトの激しいプレーが目立つようになった。

そのいい例が、ここまで26勝6敗(第19節終了時点)とリーグトップの勝率を残している川崎ブレイブサンダース。新HC(ヘッド・コーチ)である佐藤賢次氏による指導と、補強によって厚みを増した選手層を生かし、ローテーションで起用することでディフェンスを強化することに成功した。

ほかにも、今季に躍進しているサンロッカーズ渋谷など、バックコートからボール保持者に「プレス」を仕掛ける頻度が高くなっている印象がある。個々の選手も、五輪という"にんじん"を狙ったハードなプレーが目立ち、川崎でPG(ポイントガード)を担う篠山竜青(りゅうせい)は「今年のほうが疲れる」と話す。

「昨年と今年とではディフェンスの強度が全然違うので、(1クォーターを)10分連続で出るのは本当にしんどいな、と思います」(篠山)

5戦全敗に終わったW杯が、Bリーグに影響を及ぼしているのは篠山も認めている。一方で、Bリーグでのフィジカルは、世界トップクラスの国々におけるそれとは「質が異なる」と指摘する。

例えば、ディフェンスで相手選手に密着するなどして、パスを受けさせないようにする「ディナイ」というプレーがある。海外の選手はそれをされても「(ディフェンスを)ぶっ壊して、いい位置でボールをもらって3Pシュートを打っちゃう」と篠山が言うように、体の強さと"当たり"に対処する方法がわかっているという。

「ひとつの接触でプレーに影響が出てしまうのがBリーグ。気にせずにプレーを続けるのが世界なのかな、という感じがします」(篠山)

NCAA1部のノースカロライナ大ウィルミントン校から、宇都宮に電撃加入したテーブス海。アシスト能力が高い188cmのPGとして代表入りも期待

そういった日本選手の"プレーの質"が、東京五輪までの短期間で劇的に変わることはないかもしれない。しかし、W杯メンバーに入らなかった選手や、新戦力の加入がチームを改善する可能性はある。

2月21日に開幕する「FIBA アジアカップ2021予選」から今年の代表活動が始まるが、そこでの新戦力として候補に名が挙がるのは、昨年12月に日本国籍を取得したライアン・ロシター(宇都宮ブレックス)や、アメリカの大学を離れて今年1月に宇都宮に電撃加入したテーブス海(かい)といった面々だ。

なかでも注目は、ロシターが代表に入った場合に生じる、ニック・ファジーカス(川崎、18年4月に日本国籍を取得)との「帰化選手枠1」をめぐる争いだろう。

どちらが代表にとっていいオプションとなるのか――。ロシターの帰化が認められて以降、ファンやメディアの間では議論が尽きない。難しいのは、共にBリーグでトップクラスの選手ではあるが、まったく違うクオリティを持っているということだ。

今季で来日7年目のロシターは、ブレックスがまだNBL(のちにbjリーグと合併する形でBリーグが誕生)に在籍していた13-14年シーズンからプレー。15-16年シーズンにはNBLでMVPに輝いている。

得点は常に20点前後、リバウンドも10本近く記録しながら、ビッグマンとしてはドリブルがうまくアシストも多い。ディフェンスも巧みで、現在30歳とファジーカスより4歳若いことも好材料とされている。

一方のファジーカスは、3Pシュートを含めた正確なシュートによる得点力、リバウンド力が突出している。しかし足首に古傷を抱えて機動力に欠けるため、"オールラウンダー"という点ではロシターが上回っているだろう。

さらにロシターはリーダーシップにも優れ、試合のタイムアウト中には積極的に味方に指示を出し、鼓舞することもしばしば。おとなしい選手が多い日本代表でも、戦う姿勢を植えつける点で重要な存在となるかもしれない。

そんなロシターに加えて、32歳のギャビン・エドワーズという、千葉ジェッツふなばしのビッグマンも帰化が認可された。アメリカの名門・コネチカット大学出身で、身体能力はファジーカスやロシターよりも上。外のシュートも年々向上している。代表への意欲を示している彼も、候補として俎上(そじょう)に上がりそうだ。

本稿執筆時点では、帰化枠について3選手を競わせるのかなど、代表監督のフリオ・ラマス氏の考えは不明。ただ、ロシターの帰化認可の際、「東京五輪は彼になるのでは」という声が出ていることに対して、W杯進出など代表で尽力してきたファジーカスは「(自分にとって)フェアじゃない」と、不満とも取れる言葉を口にしている。"競わせる"としても単純なことではなさそうだ。

いずれにせよ、東京五輪ではW杯のような惨憺(さんたん)たる内容での負けは許されない。成否は、Bリーグでプレーする選手たちがどれだけ成長するかにかかっている。