フランスのトゥールーズからガンバ大阪に移籍したDFの昌子。しっかり守備を補強でき、得点能力が高い攻撃陣がより躍動しそうだ

咋年のラグビーW杯以降、すっかり存在感が薄れた印象のサッカー界だが、昨季はリーグ主催全試合の総入場者数が過去最多の1100万人を突破。

特に元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタを筆頭とするスター外国人選手が集結した"ヴィッセル神戸効果"もあり、J1の1試合平均入場者数が初めて2万人の大台に乗るなど、実はJリーグもひそかな盛り上がりを見せている。

しかも、下馬評では完全ノーマークだった横浜F・マリノスが15年ぶりの優勝を遂げたように、近年のJ1は群雄割拠の戦国時代。もはやどのチームがタイトルを手にしても不思議ではないという状況なだけに、2月21日に幕を開ける今季もさらなる盛り上がりが期待できそうだ。

そんななか、J1全18チームは新シーズンの開幕に向け、新戦力を補強して着々と準備を進めている。注目の王者・横浜Fマは現有戦力を維持しながら、即戦力として古巣に戻った水沼宏太、大分トリニータで飛躍したFWオナイウ阿道(あど)を加えて戦力アップ。

昨季2位に終わったFC東京も、鹿島アントラーズからレアンドロ、ジュビロ磐田からアダイウトンと、Jリーグで実績十分の助っ人外国人を確保し、開幕前からライバル心を燃やしている。

その一方で、優勝候補に挙げられる有力チームを脅かしそうなダークホースが注目を浴びている。シーズン前のキャンプから高い評価を集めている昇格組の柏レイソルと、近年の成績低迷から名門復活が期待されるガンバ大阪の2チームだ。

まずJ2を圧倒的な強さで制した柏は、昨季27得点を記録したオルンガと19得点のクリスティアーノの助っ人コンビが残留。

爆発的な攻撃力を誇ったJ2優勝メンバーをベースにして、横浜FCのJ1昇格に大きく貢献した右SB北爪健吾、昨季のJ2で22得点を挙げた呉屋大翔(元V・ファーレン長崎)といった即戦力を新たに加え、選手層は確実に増している。

プレシーズンマッチでGK中村航輔が負傷したのは誤算だが、そこには元神戸の韓国代表GKキム・スンギュを獲得していたため、大きな痛手とはならないはずだ。

何より心強いのは、昨季のJ2で5年ぶりにチームの指揮を執り、1年でのJ1復帰に導いたネルシーニョ監督の存在だろう。Jクラブ指導経験も豊富な百戦錬磨のブラジル人監督は、2011年には昇格初年度ながら柏をJ1初優勝に導いた実績の持ち主。今回も当時と同じ井原正巳ヘッドコーチとの二人三脚体制ゆえ、9年前の再現も十分にありうる話だ。

路線継続の柏とは対照的に、ひとりの大物獲得で一気に期待感を増しているのがガンバ大阪だ。

今オフは例年に比べてビッグネームの移籍が少なかったが、開幕直前の2月3日、G大阪はトゥールーズ(フランス)から日本代表DF昌子 源の獲得を発表。常勝軍団・鹿島で成長し、昨年の冬に欧州へ旅立った大物CBの加入で、懸案事項だった守備改善は一気に解決した。

攻撃面では、同じく昨季にドイツから帰国したFW宇佐美貴史を筆頭に、アデミウソン、パトリック、小野瀬康介といったリーグ屈指の得点源が存在する上、新たにサガン鳥栖から小野裕二を補強。2チーム分の攻撃陣を擁するだけに、優勝を狙えるだけの陣容は整ったといえる。

逆に、準備不足により不安の声が聞こえてくるのが、鹿島と川崎フロンターレだ。

昨季は大事な終盤に失速し、3位に終わった鹿島を苦しめる最大の原因は、元日に天皇杯決勝を戦いながら、1月28日にはアジアチャンピオンズリーグのプレーオフを戦ったことで十分なオフを確保できなかった点だ。

主力組のキャンプ合流を遅らせたこともあり、各選手のコンディションは開幕直前になってもバラバラ。補強ポイントだった守備陣には奈良竜樹、杉岡大暉、永戸勝也といった即戦力を大量獲得して戦力アップを図っただけに、チームに疲労が蔓延(まんえん)していることだけが不安の種となっている。

しかも、今季はザーゴ新監督の下で新しいサッカーに取り組み始めたことが重なり、遅々としてチームづくりは進んでいない。チームの強化部も、後半戦に勝負をかけるべく、前半戦は苦戦覚悟で臨む決意を固めているだけに、開幕ダッシュは期待できそうにないというのが現状だ。

一方、ルヴァン杯は獲得したものの、リーグ戦では3連覇を逃して4位に沈んだ川崎は、将来有望な若手を獲得したとはいえ、これといった即戦力を補強しなかった点が不安材料になっている。SBの新戦力ジオゴ・マテウスにしても、横浜FCにレンタル移籍したマギーニョの穴埋めにすぎず、実質的な戦力アップはゼロといっていい。

もともと優勝を狙えるだけの戦力を保持し、長年培った攻撃サッカーの成熟度が高い川崎ではあるが、そこにマンネリ感が漂い始めていることも事実。

大物FWレアンドロ・ダミアンがなかなかチームにフィットできず、家長昭博、小林 悠、中村憲剛といった2連覇の主軸となった攻撃陣の高齢化の問題もあるだけに、期待よりも不安が上回る状態で開幕を迎えることになってしまった。

もっとも、鹿島も川崎も優勝候補の一角であることは間違いなく、開幕後の補強も考えられる。いずれにしても、ヴィッセル神戸やセレッソ大阪といった有力チームもタイトルを狙える今季のJ1は混戦必至。シーズン序盤から目が離せそうにない。