川内優輝選手が東京マラソンを大予想!

新型コロナ問題によって一般ランナー抜きでの開催が決まったが、東京五輪・マラソン代表の「最後の1枠」のかかった大一番であることに変わりはない。日本陸連の設定記録は、日本記録を1秒上回る2時間5分49秒。

果たして、"失速上等"の高速レースを制するのは? おなじみのプロランナー・川内優輝(かわうち・ゆうき)選手にズバリ予想してもらった!

■ハイペースで最後に残った選手が勝つ

東京五輪・男子マラソン代表の残り1枠を争う注目のレース、東京マラソンが3月1日に行なわれる。

昨年9月に開催されたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で、東京五輪に出場可能な3枠のうち、2枠は中村匠吾(しょうご/富士通)と服部勇馬(トヨタ自動車)に決定。

残る1枠は東京マラソン、もしくはその翌週のびわ湖毎日マラソン(3月8日)で2時間5分50秒の日本記録を更新した最速選手となるが、該当者が出なければMGC3位で現日本記録保持者の大迫傑(すぐる/ナイキ)となる。

東京マラソンではその大迫をはじめ、設楽(したら)悠太(Honda、自己ベスト2時間6分11秒)、井上大仁(ひろと/MHPS、同2時間6分54秒)と日本のトップ3がそろうほか、今月2日の香川丸亀国際ハーフマラソンで1時間0分0秒のハーフ日本記録をマークした小椋(おぐら)裕介(ヤクルト)も出場予定。

MGCに出場した30人中16人が名を連ねるなど有力選手が集い、アップダウンの少ないコースで好結果も期待される。果たしてどんな展開に!?

──東京マラソンでの日本記録更新の可能性についてはどう考えますか?

川内 いいメンバーがそろいましたし、寒すぎたり暑すぎたり、雨が降ることがなければ、その可能性は十分あると思います。私も出場した丸亀国際ハーフは天気に恵まれ、東京マラソンの調整として出た何人かの選手が序盤からハイペースで突っ込む展開となり、小椋選手がそれまで設楽選手が持っていたハーフの日本記録を17秒も更新する走りを見せました。

東京マラソンでも日本記録を更新しなければ五輪の切符を手にできないわけですから、腹はくくりやすい。仮に途中で失速するにしてもいくしかない。五輪を狙う選手が全員突っ込めば、歴史が変わるかもしれない。

2月2日にハーフマラソンの日本記録を更新した小椋裕介。意外な選手が好タイムを出す可能性も

──有力選手が集まるなか、川内さん自身は出場を見送りましたが、その理由は?

川内 昨年の世界陸上の後は調子が上がらず、今出ても勝負にならないですから。加えて、今年も4月にボストン・マラソンに招待されている関係でいろいろありまして(苦笑)。プロ転向後なかなか結果を出せていないですが、びわ湖も走りますし、なんとかボストンに向けて調子を上げていければと思っています。

──今回の東京マラソンは2時間2分台と2時間4分40秒から5分30秒くらいをターゲットにした2段階のペースメーカーが用意されるようで、ハイペースな展開が予想されます。

川内 2時間2分台は速すぎる気もしますが、ついていけないペースでもないので、有力選手はどちらにつくか迷うかもしれません。ただ、ペースメーカーはけっこう崩れますからね(苦笑)。もし誰かが前に出れば、周りの選手もついていくしかない。それで残った選手が勝つんだと思います。

昨年のMGCはタイム度外視で勝てばいいというレースでしたので、選手同士の牽制(けんせい)など事前に読めない部分もありましたが、今回はそんな余裕はない。東京マラソンのコースは前半に下るので、そこを利用して突っ込むはず。前半を抑えて終盤で上げるのは、なかなか難しいですから。

──まさに失速上等。ハマれば好タイムが期待できる?

川内 もともと東京は平坦(へいたん)でタイムを狙いやすいコースですからね。海外招待選手も、2時間2分台のビルハヌ・レゲセ選手(エチオピア)をはじめ実力者がそろったので条件はいい。

ただ、ハーフと違って、フルで経験のない選手がいきなり2時間5分50秒を切れるかといえば、そんなに簡単じゃない気はします。2時間8分とか9分台なら、無名の選手がいきなりハマって勝つ可能性はありますが......。

──そうなると、やはり大迫選手、設楽選手、井上選手が中心になる?

川内 そう思います。注目は、誰も日本記録を破れなければ五輪の残り1枠に決まる大迫選手がどう走るのか。(ペースを)かき乱すだけかき乱すのか、調子が悪ければ途中でやめるのか。(同じく東京マラソンを走る)神野(大地)選手(セルソース)とケニアで合同合宿をやってきたようですが、いつもと違うことをやった結果がどう出るか。

──設楽選手は「日本記録更新でも5分台なら五輪は辞退」と発言しています。

川内 本音は暑い時期に走りたくないだけかもしれません(笑)。設楽選手は丸亀国際ハーフでは1時間0分49秒で優勝を逃しましたが、タイムとしては悪くなかった。

ただ、15㎞から20㎞のラップで、意図せず30秒以上もタイムが落ちていたのをどう見るか。いずれにしても、何かを計算して走るタイプでもないし、東京マラソンも最初からいくだけでしょうね。

──井上選手は昨年のMGCで川内さんもイチ押ししていましたが、まさかの完走27人中最下位。ただ、その後シューズをアシックスからナイキの厚底に変え、元日のニューイヤー駅伝ではエース区間の4区(22.4㎞)で、2年前に設楽選手が作った区間記録を22秒も更新する快走を見せました。

川内 井上選手は17年、18年と過去2度、東京マラソンを走っていて、それぞれ2時間8分台と6分台と相性がいい。今回もいつもどおりニュージーランドで調整をしたようで、MGCの失敗でプレッシャーから解放され、開き直って走れれば案外いけるんじゃないですか。あちこちから「よく練習をしている」との声も聞こえてきますし、性格的にも悔しさをバネにしそう。

──小椋選手はダークホースになりうる?

川内 小椋選手は丸亀国際のラスト(1.0975㎞)も3分5秒と上げていましたし、タイムを見ればこの上ない。極端な話、ハーフを前半とすれば、後半は1時間5分かかっても2時間5分台で走れるわけですから。

ただ、さっきも言いましたが、ハーフで1回よかったからマラソンでそのままいけるかといえば、また別問題。実際に、ハーフで強い佐藤(悠基)選手(日清食品グループ)や髙久(たかく/龍)選手(ヤクルト)、菊地(賢人[まさと])選手(コニカミノルタ)や岡本(直己)選手(中国電力)も東京マラソンに出ますが、フルで強いかといえばそこまでじゃない。

そうなると大迫選手、設楽選手、井上選手の勝負になるのかなと。予想としてはまったく面白くありませんが(苦笑)。

■厚底は「ルールができてよかった」

ちなみにその大迫や設楽、井上らも愛用する、近年マラソン界を席巻してきたナイキのいわゆる厚底シューズについては一時、規制の是非が議論になっていた。

だが、世界陸連は先月末に「靴底の厚さは4㎝以下」「反発力を生む埋め込みプレートは1枚まで」「今年4月30日以降のレースでは4ヵ月以上前から市販されているものでなければならない」などの新ルールを発表。条件を満たせば着用OKとの見解を示した。

──川内選手はアシックスと契約していますが、この見解については。

川内 まだ不明確な部分がないとは言えないですが、ひとまずルールができたことはよかったと思います。ナイキのシューズを履いている選手は安心したんじゃないですか。

一方で、他メーカーのカスタムシューズを履いている選手は、それが履けなくなり、頭を悩ましているのかなと思います。私自身はプロトタイプ(試作品)も使わず、市販のシューズを履いているので影響はないですが、ナイキ以外のシューズを履いている選手にとって、打撃は小さくないかもしれませんね。

──川内さんは厚底に興味はないんですか?

川内 公務員時代にナイキの初代の厚底(ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%)を練習で試したことはあります。確かに速く走れるような気はしたのですが、アキレス健に負担がかかるような気もして。

レースで履こうとは思わなかったですね。まあ、私が何か言っても、「アシックスと契約しているからだろ」と言われるだけでしょう(苦笑)。

●川内優輝(かわうち・ゆうき)
1987年生まれ、東京都出身。学習院大学を卒業後、埼玉県庁へ。市民ランナーとして力を伸ばし、昨年4月にプロ転向。2011年、13年、17年、19年の世界選手権に出場。マラソン自己ベストは2時間8分14秒(13年)