■最近サッカーを見始めて長谷部選手はすごいなと
バレーボール男子日本代表で主将を務める柳田将洋(やなぎだ・まさひろ/27歳)がプロに転向し、欧州でプレーするようになって3シーズン目を迎えている。
最初のシーズンはドイツ南西部の田舎町ビュールを拠点とするビゾンス・ビュールで、2シーズン目は代表チームが2018年世界選手権優勝、19年ワールドカップ準優勝と近年復調しているポーランドのクプルム・ルビンで、そして3シーズン目となる今季はドイツ・フランクフルトを拠点とするユナイテッド・バレーズ・フランクフルトでプレーしている。同チームはドイツ1部で現在首位争いを演じ、欧州全域で争うカップ戦にも出場する強豪だ。
東京五輪という大きな目標が目の前に迫る時期ではあるが、柳田はあえて欧州でプロとしての生活を続けている。自身の変化や成長をどのようにとらえているのか。
また、男子の日本代表にとって3大会ぶりの出場となる五輪を迎える心境はいかなるものなのか。現地で直撃した。
――欧州での3シーズン目ですね。ご自身の変化など感じますか?
柳田 1年目はまず環境や文化に慣れることに力を注いでからバレーボールに取り組まなければならなかったんですけど、2年目、3年目はそれがあまりなくなりました。その分、バレーボールにフォーカスできるし、逆にあまり考えすぎずに、うまく競技に集中できるようになっているかな。
今季フランクフルトに来てからは、とにかく自分らしさを出そうとしています。自分のパーソナリティをアピールするほうが早くチームの一員になれると感じたので。
――それはいつ頃から感じるようになったのですか?
柳田 フランクフルトに合流して2戦くらいしたときに、自分自身もうまく動けてないし、チームもギクシャクしている感じがして、吹っ切れないままプレーをしていたんです。僕がチームに求めているものがあるんだけど、たぶん自分も求められていることができていない、みたいな。
これまで僕は周りの人を見て、バランスを整えていきたいというような考え方をしていたんですけど、チームのバランスをとることを一度やめて、「俺が、俺が」じゃないけど、ちょっとエゴイストになってみようと。
自分が決めるとか、自分がこのチームで一番だと思うプレーを押し出していったら、チームメイトが認めてくれて、自分に合わせたプレーをしてくれるようになりました。最初の頃は、少し優先順位を間違えていたなと。
――今季は五輪直前のシーズンです。日本でプレーするという選択肢もあったと思いますが、ポーランドからドイツへ移籍したのはなぜ?
柳田 大前提として、僕が選ばなかったほうの選択肢を「悪い」とは思っていません。ただ、僕自身に関していえば、東京五輪後も競技生活は続くし、競技を終えた後も、バレーボールに向き合っていくつもりです。
そう考えたときに五輪もものすごく大事なものだけど、今まで欧州でプロとして挑戦し続けてきたこの2年間をさらに前進させようと思ったんです。日本にいればすごくよい調整ができるのかもしれないけど、よい調整ができて五輪に挑めるということ自体は、あまり僕にとっては魅力がないのかなと。
――調整よりも挑戦と。
柳田 海外でやることで見識が広がったりするのを実感しているので、今、日本に帰るのはどうなのかなと。こっちにいるほうがワクワクできるかなと思って選択しました。
――ドイツでの生活について聞かせてください。こちらでほかの競技を見たりすることはあるのですか?
柳田 最近、サッカーを見始めました。何しろフランクフルトには長谷部 誠選手と鎌田大地選手がいますからね。
――スタジアムに行ったり?
柳田 行きました、2回。すごかったですね。2年前にもシュツットガルトで1回行ったんですけど、フランクフルトはまた違う雰囲気でした。でも、毎回思うのが、サッカーって5万人とか観客が入っているじゃないですか。5万人に見られてプレーする気分ってどうなんだろうって。このブーイングの中で何を感じるのだろうって。
ブーイングって僕たちも受けますけど、あんな何万人という単位ではないので。僕もよく他競技の人に「ワールドカップみたいな大舞台のサーバーの場面で何を考えてる?」とか聞かれるんですけど、別に普段どおりなんですよね。だから逆にサッカー選手は何を考えているのかなと思います。
5万人の中で平然とプレーして、長谷部選手なんて味方にどんどん指示を出しているし、すごいなって。
■男性ファンも増えてこそ、じゃないかなと思います
――日本代表チームについても伺いたいです。昨秋のワールドカップ(日本開催)では1991年大会以来の4位と大躍進を遂げました。
柳田 手応えよりも、もう少し行けそうだという感覚があるのに行けなかった悔しさのほうが上回りますけど、ワールドカップはゴールではないので、その気持ちで各自が所属チームに戻って、また代表に集まれればいい。次のステップがイメージしやすくなったし、そのイメージを持てたことは収穫だと思います。
ただ、今までやってきたことだけじゃ勝てないとも思いましたし、結局、3位以上に食い込めませんでしたね。
――足りないものはなんだと思いますか?
柳田 しびれる場面、相手とのタイトな場面でどういうプレーをするかというところです。例えばブラジル戦(1-3で敗れ、4位が確定した試合)などは細かいプレーで差が出ました。圧倒的に苦しかったというわけではなくて、逆にこっちがプレッシャーをかけていたのに押し込みきれなかった。
五輪でもそういう場面は絶対あると思うので、そこで押し切れるかどうかが、4位から先に行くための課題なのかなと。
――そのワールドカップと同時期、国内ではラグビーのワールドカップも行なわれ、大ブームになりました。
柳田 ラグビーはすごかったですね。バレーとは大会の規模が違うのは知っていましたけど、ラグビーを見ていると、ルールに詳しくない方でも一緒に盛り上がっていましたよね。
もちろん、バレーも競技として面白いと思っていますけど、同じエンターテインメントのひとつとして、幅広い層の方に来てもらって、みんなに楽しんでもらえるようにしていくべきなのかなと。選手の価値の限界、競技の価値の限界への挑戦という意味で、勉強になりました。
――バレーボールはサッカーやほかの種目に比べて、男性よりも女性からの人気が圧倒的に高い印象があります。
柳田 それはそう思います。競技人口で比較しても、圧倒的に女性が多いんじゃないですか? だから会場まで足を運んでくれる方も女性が多いんだと思います。
――週プレは男性誌ですが、男性ファンもウエルカム?
柳田 もちろん必要です! 男性ファンも増えてこそ、じゃないかなと思います。応援とかも含めて"熱"がもっと必要という意味で。
――さて、あらためて東京五輪まであと約4ヵ月です。
柳田 今の代表チームは主体性を持っている選手ばかりなので、全員が自然に同じ方向を向けています。僕は自分がドイツでやっているのと同じように、プレーすることに集中しながら、その上で与えられた役割を果たせればと思います。
チームとしては、ほとんどの選手に五輪経験がないので、まず初戦の入り方、次にグループリーグを突破したらどう戦うのか、ステップバイステップでしょうね。ひとつずつ乗り越えていければ、見えてくるものがある。そういう意味でチームがひとつになる......というと抽象的ですけど、ひとつずつステップを踏むということに対して、全員が疑いなく結束することが必要だと思います。
結果はその後についてくるもの。先に結果を意識しすぎないようにして、自分たちがどうやるかにフォーカスをしたいです。とはいえ、もちろん、メダルも狙いますし、ひとつずつステップを踏んだ先に見えてくるのが(メダルの)色だと思っています。
●柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)
1992年生まれ、東京都出身。東洋高校時代から注目を集め、慶應義塾大学在籍時の2013年に全日本メンバーに初登録。Vリーグのサントリーを経て、17年にプロ転向し、ドイツへ。現在の所属はユナイテッド・バレーズ(ドイツ1部)。身長186cm