『スポーツ・コンプライアンス・オフィサー』について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第144回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは『スポーツ・コンプライアンス・オフィサー』について。宮澤ミシェルも受講したというこの養成講座は、いったいどのようなものなのか? 宮澤ミシェルが解説する。

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『スポーツ・コンプライアンス・オフィサー』って聞いたことあるかな? 

一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構が行なっているスポーツ界のコンプライアンスの徹底を図り、スポーツの価値と力を守り、育んでいくための教育や啓蒙活動を担う専門的人材を養成するっていうものなんだよ。

養成講座が開かれるのは今年で2回目。知名度はまだ高くはないけど、近年のスポーツ界にまつわるドーピングや暴力、違法薬物などの問題や、組織運営におけるコンプライアンスなどについて学べる場なんだよね。

その講座を2日間受講して、最後のテストも無事に合格。スポーツ・コンプライアンス・オフィサーに認定されたんだ。

何が大変だったって、最後のテスト。学生時代からテスト慣れしていないし、不慣れな用語が多く出てくるから、まいっちゃったよ。

講義はしっかり聞いていたし、グループワークも積極的に参加したけれど、いざテスト問題を前にすると、正解が咄嗟(とっさ)に浮かばないんだよ。どういう事例かはわかっているのに、問題の解としての専門的な用語に詰まっちゃう。

受講者は30人ほどいたんだけど、ほかの人たちはテストの制限時間の途中で終わって席を立つの。みんなテストに慣れしているんだよね。それがこっちの焦りにもなったけど、なんとか時間いっぱいを使って問題を終わらせることができた。

合格発表はドキドキしたよ。少し不安だったけど、無事に合格していてホッとしたね。

今回の受講は、私が2010年から務めている教育委員で、「こういう資格を持っている人がいるといいな」という話題になったんだよね。

私の時代は指導のなかで叩かれたり、蹴られたりするのは当たり前だったし、そういうことをされて「なにくそ」という反骨心でメンタル面もたくましくなった。だけど、いまの時代はやっぱり暴力はアウトだからね。選手との距離感の取り方も難しい時代になっている。

そんな現在のスポーツ界の実情や、コンプライアンスに興味があったから、受講することにしたんだ。まぁ、その時点では最後にテストがあると知っていたら、受けたかわからないけどね(笑)。

でも、歳を重ねると、新たなことを勉強する機会が減っていくなかで、新たなことを学べたし、本当に貴重な機会だったよ。

サッカーだけに限らず、国内のあらゆるスポーツの事例を元にして、コーチと選手の間の暴力や、ドーピング問題など、トラブルが起きた場合の対処の仕方や罰則の規定、協会のあり方などを幅広く学べたからね。

興味深かったのが、マテリアル・ドーピングの講座。薬物ドーピングの認知度は高くなっているけれど、マテリアル=道具を使ったドーピングへの意識と対策などは勉強になったよ。

水泳でのレーザーレーサーの水着や、東京五輪のマラソン代表選考レースで話題になった厚底シューズは、マテリアル・ドーピングになるのか、ならないのか? マテリアル・ドーピングはサッカー界だけにいると、あまり現実味がないからね。

ナイキの厚底シューズは、国際陸連がカーボンプレートの規定値を発表したわずか数日後に、規定値を知っていたかのうように違反にならない新作を発表したでしょ。マテリアル・ドーピングもだけど、ロビー活動で情報がきちんと扱われていたのかの問題もあるよな。そういうことへの問題意識を持つようになったよね。

ハンマー投げの室伏広治さんの妹である室伏由佳さんが講師を務めた講義では、招致活動の末に2016年に五輪の開催地に東京になった最後の後押しが、「日本選手団のドーピング数がゼロだったから」という話を聞いて、やっぱりスポーツはフェアでないといけないなと改めて思ったよね。

科学や技術の進歩を否定する気はないよ。「世界新記録」や「人類初」という言葉は刺激的だけど、やっぱりスポーツの大前提は、フェアに戦うことだからね。そこが守られるからこそ、多くの人々が夢中になるんじゃないかな。

フェアを守ってきた日本で行なわれるはずだった東京五輪は延期になってしまった。残念なことだけど、中止になったわけではないからね。来年夏に世界でもっとも公平なオリンピックを開催できるように、いまは目の前にあるルールをしっかり守ってフェアな社会生活を送りましょう。

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