サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第145回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマはサッカークラブの経営状況について。新型コロナの影響で苦しくなるサッカークラブの経営に宮澤ミシェルは、「いまは、選手と球団が手を取り合うことが重要」と語った。
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新型コロナウイルスの猛威はいつまで続くのだろうか。このままだと、あらゆることがすっかり干上がってしまうんじゃないかって不安になるよ。
私も講演会などの仕事がほとんど延期になっているし、Jリーグや海外サッカーが中断しているから、解説の仕事もストップしている。困っちゃうよな。
サッカーに関わる仕事をしていて、この状態だからね。クラブ経営の面を想像すると、リーグ戦の中断が長引くほどに深刻さは増すし、ゾッとしちゃうよ。
スイスでは1部リーグのFCシオンが、給与カット拒否の9選手をいきなり解雇したけど、これもリーグ戦の再開が見込めないなかで起きた悲劇だよな。まあ、一方的に解雇を通告するクラブの姿勢はどうかと思うけれど、クラブ存続を優先させるなかでは、こういう事態は起こり得ることだよな。
スコットランドでも食野亮太郎の所属するハーツが経営難から、選手を含めた関係者全員の月給50%カットを決めた。試合をできないなかで、クラブを持続させるためには、全員で痛みを分け合っていくってことだよな。
驚いたのはウルグアイのサッカー協会の判断だった。オスカル・タバレス代表監督を含めた代表スタッフや協会職員400名を3月末で解雇。このニュースを聞いたときは、ウルグアイの代表チームはどうなっちゃうことかと心配したよ。
でも、これは協会の支出金を節約する目的の解雇らしいんだ。解雇された人たちはレイオフ期間は失業保険給付手続きを受けられるし、時期が来れば復職もできる。協会にしたらW杯予選が延期になって放映権料の入らない期間の、スタッフへの給与支払い節約になる。そういう判断で行なわれたようだね。
ただ、これも新型コロナウイルスの状況によっては、活動できない期間が長引くと、本格的に解雇されてしまうスタッフも出てくる可能性はあるよね。
ドイツではボルシア・メンヘングラードバッハの選手たちが給与の一部をクラブに返上し、これにブレーメン、シャルケ、ドルトムント、バイエルンが続いている。ここまでくると、収益が無いなかで、サッカークラブが生き残るための「共闘」な気がするよ。
急場しのぎをしなければならないほど、財政が逼迫して経営が苦しいのは海外のクラブだけじゃないよ。日本でも報酬をめぐる動きはあった。
4月上旬にコンサドーレ札幌に所属する選手28名が、2020年シーズンの4月から9月までの報酬の一部返納を球団に申し入れたそうだ。1億円くらいの額になるらしいけど、いまは生き残っていくためには、選手と球団が手を取り合うのは重要だからね。
公式戦の試合数が減るということは、入場料や興行収入、グッズの販売収入が得られないということ。収入はなく、試合もない。だけど、選手への給料は生じる。経営がズタボロになるのも当たり前な状況なんだよな。
もちろん、本来ならばどんな状況だろうと、選手は契約で決められた報酬を受け取るのは当然の権利。そもそも、Jリーガーの給料なんて、たかがしれているからね。28選手で1億円分という部分にフォーカスしたら、どれほどかわかるってものだから。
でも、こうした事態にあっては、それでもクラブ存続を優先させる考えは大切。こんな時でも自己主張ばかりを続けていくと、来年以降になって消滅するクラブが現れたときには、結果的には自分の働き口を減らすことになりかねないんだよ。
まあ、そこの判断は難しいものではあるんだけれど、コンサドーレ札幌の選手たちの判断や動きは、すごく共感できるよ。
痛みを一部の人たちだけに背負わせずに、みんなで少しずつわけ合いながら、力強く前に進んでいくための力に変えていく。そうやって事態を乗り越えた先で、必ずそのパワーはクラブや選手たちにものすごい大きなものをもたらしてくれる。そう信じて、いまは結束力をもっていきましょう!