Jリーグの再開について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第146回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマはJリーグの再開について。先日の『新型コロナウイルス対策連絡会議』で可能性として示された無観客での開催。リーグの再開はクラブにとっていいことだが、無観客試合には、「ひとつ心配なことがある」と宮澤ミシェルは語る。

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収束の先行きが見えてこないなかでは、無観客開催もやむなしの判断になるだろうね。

4月23日にJリーグとプロ野球が合同設置した『新型コロナウイルス対策連絡会議』がオンラインで開かれて、その席でJリーグの村井満チェアマンが、「公式戦再開のためには無観客開催を方法論のひとつとして想定しないといけない」というのを示したそうなんだよね。

それ以前は、感染拡大防止策として観客の収容率を50%以下に制限する案も検討していたけれど、新型コロナウイルスの脅威はまったく減ってない。減るどころか、現在は全国に緊急事態宣言が出されている。

観客と選手たち、スタッフなどの試合会場にいるすべての人たちの『健康』と『安全』を守る保証が持てない以上は、無観客開催への方針転換も仕方ないと思うよ。

「収束を待ってから再開すればいい」という意見もあるかもしれないけれど、このままリーグ戦の中断が続いたら、クラブ経営に甚大な打撃が出るのは目に見えている。倒産するクラブが出てきても不思議ではないんだよ。

実際のところは、無観客で開催したってクラブ経営が大幅に改善されるわけではないよ。でも、少なくともリーグ戦やカップ戦が行なわれれば、リーグに放映権料が入るし、そこからの分配金もアテにできる。

焼け石に水という考えもあるかもしれないけれど、無いよりは間違いなくいい。

大相撲は3月場所を無観客で開催したけど、普段なら気付きようがない新発見があった。Jリーグでも無観客での開催になって初めて気付くこともあるだろうね。

そのひとつが選手の声だろうな。普段なら大勢のサポーターの声援でかき消されてしまうけど、こんな時だからこそ中継ではピッチ上の音を拾ってもらいたいし、観る人たちには選手たちが試合中に、普段どんな言葉を交わしているのかにも興味を持ってほしいよ。

まあ、Jリーグ創設前を知っている私たちの世代にしたら、サッカーは閑古鳥が鳴くスタジアムでやるのが当たり前だったから、ピッチ上の声が聞こえると懐かしさを覚えるだろうね。

でも、サッカーの場合は大きな心配事がひとつあるんだ。

プロ野球は3月中旬までオープン戦を無観客で開催していたでしょ。あの時にグラウンドに立つ選手やベンチからの声は、味方を後押しする言葉ばかり。昭和の野球場の野次を知っている人間にすると、驚くくらいキレイだった(笑)。

時代の変化に合わせて野球界が変わったのか、無観客での中継用に意識的に変えていたのかはわからない。でも、サッカー界の場合は、僕らが現役だった頃は、それはもうここでは書けないくらい汚い言葉で罵り合いながらプレーしていた。いまの時代でもあの頃と大して変わっていないとしたら、中継が拾う選手の言葉には不安を覚えるんだ。

まあ、いまの時代は国内外を問わずに差別的な発言に対しては厳しい時代になっているから、そこへの懸念は少ないんだけど、相手を罵る幼稚な言葉はいまでもピッチ上には溢れていると思うんだよな。

プレーに集中して頭に血が上ってカッカしたら、「バカ」「アホ」「フザケンナ!」って、小学生の喧嘩かっていうような言葉を吐き出してしまう可能性は高いだろうな(笑)。

ただ、こういう言葉は相手に向かって言う場合もあるけど、自分の不甲斐ないプレーに対して言うこともあるんだよね。だからこそ、無観客試合がどういう中継になるかわからないけれど、先に寛容さを持って見ていただけるようお願いしておきたいと思います。

実際のところ、ピッチ上の音声まで拾われるのは、選手にはやりにくいだろうね。汚い言葉を発しないように変に意識しちゃうと、本来のパフォーマンスが出せなくなるかもしれない。でも、それもサッカーができる喜びに比べたら小さなことだけどな。

とはいえ、Jリーグを無観客で開催するには、スタジアムの入場制限以外にもハードルはある。選手やスタッフたちの試合のための移動の問題や、試合に関わる中継スタッフの健康把握も大切になってくる。

なにより、普段なら練習の時はクラブ練習場に多くのサポーターが詰めかけるけど、そこでの選手とファンとの交流も規制しなければならない。切ないよな。自分たちを応援してくれているファンともっとも身近に接する機会だっていうのに。

だけど、いまはさまざまなことを我慢しながら、乗り越えていくしないよな。日常にJリーグが戻ってくる。いまはただ、その日が訪れるまで、『ステイホーム』で参りましょう!

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