昨年、日本人として初めてエックスゲームズを制覇。世界選手権でも準優勝を飾るなど、東京五輪での金メダル獲得へ期待が高まっている 昨年、日本人として初めてエックスゲームズを制覇。世界選手権でも準優勝を飾るなど、東京五輪での金メダル獲得へ期待が高まっている

今夏に開催予定だった東京五輪は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、1年間の延期が決まった。状況次第ではさらなる延期、中止も考えられるなか、練習環境やモチベーションの保ち方に悩むアスリートも多いだろう。

東京大会の追加種目のひとつ、スケートボードでメダル獲得が期待される堀米雄斗(XFLAG)は、活動拠点のアメリカ・ロサンゼルスでその一報を耳にした。

「今はボードのスポンサーさんが運営しているスケートパークで練習ができていますが、少し前までは公園も完全に封鎖されていたので、自分の家の駐車場で練習せざるをえない状況でした。毎日縄跳びばかりしていて、技の練習がほとんどできなかったですから、ストレスがたまることもありましたね。

五輪は延期が決まりましたが、その分、新しいトリック(技)に挑戦する期間も増えるということ。今よりもいい状態で本番に臨めると思うので、今はポジティブにとらえています」

これまで幾多のチャレンジを乗り越え、「挫折はなかった」と語る21歳は、予想だにしなかった状況も冷静にとらえていた。

堀米は、スケーターだった父・亮太氏の影響もあり、6歳でスケートボードを始めた。「公園で遊ぶ延長で、スケートボードを続けていました。初めてボードに立って乗れたときの喜びは今でも忘れません」と幼少期を振り返る。

その後、10代前半で選手として頭角を現し、15歳で迎えた2014年にはAJSA(日本スケートボード協会)年間総合王者に輝く。国内の大会で圧倒的な強さを見せ、17年には活動の拠点を現在のアメリカ・ロサンゼルスに移した。

「日本のコンテストで勝てるようになってから、小さい頃からの目標でもある、『アメリカでプロになる』という夢を叶(かな)えたいと思うようになったんです。

日本でもYouTubeでアメリカの大会の様子を見ていましたし、実力差があることもわかっていました。でも、やはり本場のボーダーの滑りや活躍を生で見ると、動画とは比べ物にならないほどすごくて、刺激を受けましたね。(渡米は)僕のすべてを変えてくれるターニングポイントでした」

東京五輪で行なわれるのは、街の中のようなコースで技を競う「ストリート」と、複雑な形のコースで技を競う「パーク」。堀米は「ストリート」のトップ選手だ 東京五輪で行なわれるのは、街の中のようなコースで技を競う「ストリート」と、複雑な形のコースで技を競う「パーク」。堀米は「ストリート」のトップ選手だ

異国で生活を始めた当初は、言葉や食生活など、思わぬ苦労が多かったという。そんなときに堀米の目に留まったのは、堀米が「常にレコードを乗り越えていこうとしている姿が素晴らしい。尊敬しています」と語る、当時現役のメジャーリーガーだったイチローだった。競技は違えど、同じアメリカで、トップレベルで活躍を続ける姿に感銘を受け、それが支えになったという。

すると渡米1年目で、世界最高峰の選手たちが競い合う「ストリートリーグ・スケートボーディング」への挑戦権を獲得。初参戦のバルセロナ大会でいきなり3位になり、日本人初の表彰台獲得という衝撃のデビューを果たす。さらに翌18年シーズンは、リーグ開幕戦のロンドン大会で初優勝を成し遂げ、そこから3連勝。瞬く間にトップ選手へと上り詰めた。

「憧れだったコンテストでの優勝はすごくうれしかったです。でも、高い壁を乗り越えるとか、試合に勝つことよりも、『常に新しい技を覚えたい』という好奇心を持って練習していました。もちろんプレッシャーはありますし、試合に勝つたびにそれが増していると感じることもありますが、それを乗り越えて自分のスケートを楽しむことを一番意識しています」

日本人選手として前人未到の領域で勝負を続けてきた堀米は、3年間の海外挑戦をそう振り返った。

並み居る強豪選手と渡り合える理由は、高難度のトリックにある。自身の滑りを支えるトリックへの思いを、堀米は次のように話した。

「大会では常に、これまでに誰もやったことも、見たこともないオリジナルのトリックで会場を沸かせたいと思っています。なので、新しいトリックができるまではつらい思いをすることも多いですが、完成したときは本当にうれしい。新しいことに挑戦するのはリスクもありますけど、どれだけ恐れずに取り組めるかが大事。それが自分のやり方です」

本来であれば、今年の5月31日までの大会成績を踏まえ、東京五輪に出場する日本代表選手が決定する予定だった。それも延期され、大舞台での勇姿が見られるのも少し先になったが、堀米に迷いはない。

「何より、自分がいい滑りをすることを心がけたい。そのためにはスケートボードの楽しさを忘れず、自身をレベルアップさせることに尽きると思います」

続けて、日本ではまだメジャースポーツとは言い難いスケートボードの普及について次のように述べた。

「東京五輪をきっかけに、スケートボード界をもっと盛り上げていきたいです。スケートボードのことを皆さんに知っていただいて、好きなスケーターを見つけたり、各スケーターのスタイルやファッションの違いを楽しんでもらえるようになったらうれしいですね。コンテストでは見られないような、スケートボード本来の姿やカルチャーを伝えられるように、僕も頂点を目指して頑張ります」

新型コロナウイルスとの戦いは長期戦の様相を呈しており、先行き不透明な状況が続いている。しかし来夏、再び日常にスポーツの活気が戻り、東京五輪の歓喜の中心に堀米雄斗がいることを願わずにはいられない。

●堀米雄斗(ほりごめ・ゆうと) 
1999年1月7日生まれ、東京都出身。6歳でスケートボードを始め、高校卒業後にアメリカ・ロサンゼルスに活動の拠点を移す。2018年、2019年に「ストリートリーグ・スケートボーディング」で優勝。2019年のストリート部門の世界ランキングは、日本人トップの2位