サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第151回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは印象深かった過去の試合について。コロナでの外出自粛中に過去のサッカーの試合を改めて見直していたという宮澤ミシェル氏。その中でも特に印象に残った一戦とは?
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緊急事態宣言は全国で解除されたけど、まだまだ大手を振って出掛けるのは気が引けるよね。だから、週末などでも家で古いサッカーの試合を見たりして過ごしているんだ。
これがおもしろいんだよ。始めは「ステイホーム」期間に観るものに困っちゃって、それで昔の試合を見返したんだよね。WOWOWでラ・リーガの解説をやらせてもらって長いから、こういうタイミングで振り返っておこうってことで。
試合のレポートはどの試合でも丁寧につけているんだよ。スタメンやベンチ入りの選手、交代選手などの基本情報はもちろん、ゴールが生まれた展開までメモしている。目を引いた選手の特徴や、気になった戦術的な部分、例えばサイドバックの選手がどういう動きをしたら、まわりの選手がどこにポジショニングを取るかなどね。
テレビ中継では求められる役割が進行的な部分が多いから、あまり披露できないけれど、ちゃんと勉強しているし、研究もしているんだぜ。
いろんなリーグのたくさんの試合を見直したんだけど、やっぱりクラシコは格別だったよね。なかでも2008-2009シーズンのクラシコ第2戦、サンチャゴ・ベルナベウでの一戦は面白かったな。この試合は現地で見ているんだよね。当時のメモを見ながら振り返ったんだけど、すごい試合展開に飲まれて見逃していたり、時間が経ったことで改めて気づいたことがたくさんあったよ。
このシーズン最初のクラシコで、レアル・マドリードは0-2で負けたんだけど、そこからチームを立て直して勝ち点差4に縮めて宿敵を本拠地に迎えたんだ。そこで14分にゴンサロ・イグアインが先制ゴールを決めるのよ。スタジアムのサポーターの歓喜のどよめきを思い出したね。
だけど、その4分後にティエリー・アンリのゴールでバルサが同点に追いつくと、そこからはバルサの一方的な展開。前半だけでプジョルとメッシが決めて、後半にはアンリ、メッシ、ピケが決めたからね。終わってみたらバルサが6対2で勝利。凄まじい試合だった。
レアル・マドリードの2点目は、セルヒオ・ラモスなんだけど、この頃はサイドバックをやっていたんだよな。2005年にセビージャから移籍したときにフェルナンド・イエロの背番号をつけて、すぐにCBのポジションで起用されていたから、SBをやっていた時期があったことをすっかり忘れていたね。
メッシにぶっちぎられたりしていたけど、攻撃面では今も見せる高い得点力を発揮していて、いいクロスも上げてるんだよな。現役時代に同じポジションだった者として、彼のサッカー・センスは羨ましい限りだよ。
それにしても、この時のレアル・マドリードのCBにはファビオ・カンナバーロや、クリストフ・メッツェルダーがいて、GKはイケル・カシージャスなのに6失点だもの。この頃のバルセロナの破壊力は本当に凄まじかったよね。
4-3-3の最前線がメッシ、エトー、アンリ。メッシが中央にポジションを取ることが多くて、右サイドをエトーがカバーしているんだけど、この頃のバルセロナがゼロ・トップの始まりだったような気がするよね。
なにが今と全然違うかと言ったら、試合運びだよ。やっぱりシャビとイニエスタが作り出すメリハリは格別だったね。そして忘れがちだけど、ヤヤ・トゥーレ。ブスケツはいい選手だけど、ヤヤ・トゥーレと比べると見劣りしちゃうんだよな。
こうやって昔の試合を見て思うのは、同じメソッドで選手を育てて、それをベースにしてチームをつくるバルセロナでも、選手が変われば戦い方は少しずつ変化しているってこと。バルセロナはメッシがそろそろ年齢的に厳しくなるかもしれないし、彼が抜ける日に向けたチーム作りを始めないといけないよね。
逆に昔から資金力にモノを言わせて世界トップの選手をかき集めてきたレアル・マドリードは、ずっと堅守速攻のサッカーだったけど、最近は選手を育てようとしているよね。若くて将来有望な選手が多くいるし、どう舵を切るかによって久保建英や中井卓大君という日本の宝の未来が変わってしまうからね。
ラ・リーガもそろそろ再開されるようだけど、みなさんも時間があるときは昔の試合を見てもらいたいな。そこを知ったうえで、これからのラ・リーガやクラシコを見れば、数倍おもしろくなるのは間違いないからね。時間があるとき、みなさんもぜひ!