前回は僕が選んだJリーグの歴代ベストイレブンを紹介したけど、今回はそのなかでも僕が特に好きな選手について語ろう。ズバリ、小野伸二。プロとして"魅せる"ナンバーワンだね。
初めて見たのは彼が中学1年生のときだったと思う。サッカー教室の仕事で沼津を訪れたときに、静岡県サッカー協会の人が「面白い子が手伝いに来ますよ」と言って、やって来たのが彼だった。
体は小さくても、テクニックがずばぬけていて、ボールを持つと敵も味方も見入ってしまうほど。後日、彼が当時の僕のボールさばきを見たときに「めちゃくちゃうまい」と言っていたと伝え聞いたけど、それはこっちのセリフ。日本にもこんな子がいるのかと驚いたものだよ。
だから、彼が清水市商(現・清水桜が丘)に入学したと聞いたときには、専門誌の担当編集者に「インターハイを絶対に見に行けよ。清商にスゴいのがいるから」と勧めたんだ。そうしたら、「セルジオさん、あの選手は怪物ですよ」と興奮しながら帰ってきたっけね。
当時はスター選手のプレー映像をネットなどで気軽に見られる時代ではなかった。彼の技術は誰かのマネをしたのではなく、自分で身につけたもの。だから彼にしかできない。もちろん、相当な努力をしたのだろう。
両足を同じレベルで自由自在に使えるから、相手は次のプレーを予測しづらいし、守りづらい。ファウルすることすら難しい。戦術眼も高く、一瞬のひらめきもあるから、味方のFWはラク。動きだせば、決定的なチャンスにつながるパスがどんどん出てくる。今、Jリーグではイニエスタ(神戸)のプレーが注目を集めているけど、小野も全然負けていないよ。
あれだけの技術があれば、自分でも面白いだろうし、楽しいだろうね。だから、彼はいつも笑顔でプレーしているのかもしれない。
実は僕は小野とちゃんと話をしたことがないんだけど、いろいろな人から礼儀正しい好青年だと聞く。フェイエノールト在籍時、UEFA杯(現・ヨーロッパリーグ)で優勝した試合を僕が取材に行った際のことだ。前日練習が終わってほかの選手がロッカールームに戻るなか、彼はチームのホペイロ(用具係)と一緒にボールを片づけていた。そういう振る舞いを自然にできるから、どこのチームに行っても皆に好かれるのだと思う。
残念だったのは、シドニー五輪アジア1次予選のフィリピン戦(1999年)でのこと。実力差のある相手の悪質なタックルを受け、左膝靱帯断裂という大ケガを負ってしまった。"たられば"を言っても仕方ないけど、あのケガがなければ、フェイエノールト以上に大きなクラブでも活躍できたんじゃないかな。
Jリーグ史上、彼よりもっと数字を残し、タイトルを獲得した選手はたくさんいる。でも、彼ほどサッカーの面白さ、魅力をわかりやすく伝えてきた選手はなかなかいない。プロのお手本といえる存在だ。
小野は昨季からJ2の琉球でプレーしているけど、デビュー戦には1万2000人以上のお客さんが集まり、スタジアムは超満員だったそうだ。40歳になった今でもそれだけの存在感を発揮できるのだから素晴らしいよ。少しでも長く現役を続けて、サッカーの楽しさを伝えてほしいね。