来る6月19日、プロ野球がいよいよ開幕。今季のレギュラーシーズンは、昨年より23試合少ない120試合制で行なわれる。予測不能なシーズンとなるが、当初の予定より開幕が約3ヵ月遅れたことにより、新人王レースの行方にも大きな影響を与えることが予想される。
過去10年間の両リーグ新人王の総勢20名のうち、16名は大学・社会人出身のルーキーが占めてきた。残る4名はプロ2年目以降の選手。つまり、高卒新人が手にするのはかなり至難の業なのだ。
直近の高卒ルーキー新人王は2007年パ・リーグの田中将大(楽天・11勝7敗、防3.82)。それ以前となれば1999年の松坂大輔(西武・16勝5敗、防2.60)までさかのぼる。
まだ10代の彼らは、まず体づくり。今も昔も変わらない球界の定説だ。おおよそ春先までは土台となる下半身や体幹強化に励み、気温が上がってくる頃からどんどん試合に出始める。それがまさに今の時期だ。
しかし今年に限っては、開幕が大きくずれ込んだことで、高卒新人が1軍で活躍できる環境が整ったというわけだ。
となれば、当然あの男に注目が集まる。最速163キロ右腕、佐々木朗希(大船渡高→ロッテ)だ。"球界の宝"を預かったロッテは焦らず、急がず佐々木を育てている。ただ、英才教育の一環として2月のキャンプも3月のオープン戦もずっと1軍に同行させて、その空気感を味わわせてきた。
そして5月26日には、プロ初の実戦形式のマウンドとなるシート打撃に登板。最初の打者にはオール直球で臨み、4球目を右中間本塁打されるプロの洗礼を浴びたが、ふたり目の藤岡裕大への初球で160キロを計測。3球目も同じ160キロで空振り三振を奪った。
藤岡は2年前に143試合フル出場した実力者だ。その打者が「本当に速かった。打てませんよ」と脱帽するほど。大事に育てられながらも、着実に前進する怪物。パ・リーグの新人王レースの本命に急浮上だ。
ただ、即戦力ルーキーたちも黙っていない。河野竜生(JFE西日本→日本ハム)は、5月30日のケース打撃で最速147キロをマークするなど順調さをアピール。貴重な左腕だけにローテーション入りが有力だ。
右腕では宮川哲(東芝→西武)だ。キャンプ中に右太ももの張りを訴えて出遅れたが、自主練習期間を経てもう万全。5月27日の紅白戦では3者連続三振を奪い、最速154キロ投手の名に恥じない投球を見せた。
打者では春のオープン戦で3本塁打の福田光輝(法政大→ロッテ)や、攻守で存在感を示す小深田大翔(大阪ガス→楽天)も面白い。レギュラーとして1年間プレーすることができれば、十分に射程圏内となる。
また、新人王は支配下登録から5年以内の選手にも資格がある。投手は通算30投球回以下、打者なら通算60打席以下が条件だ。
有力候補は3年目の平良海馬(西武)だ。昨季1軍初登板を果たし26試合に投げて2勝を挙げたが、投球回は24。最速158キロの直球で相手をねじ伏せる若獅子(わかじし)リリーバーからも目が離せない。
オリックスの育成出身のふたりの右腕も興味深い。巨人・陽 岱鋼(よう・だいかん)のいとこに当たる張 奕(ちょう・やく)は、外野手として16年育成ドラフトでプロ入りし、昨季から投手に本格転向した。ただの変わり種ではない。
昨年はプロ初勝利、秋のプレミア12で台湾代表として活躍。大会で先発投手部門のベストナインに選ばれたのだ。高い身体能力から150キロ級の伸びのある直球を投げ込む。
そしてもうひとり、昨季ウエスタンで23セーブを挙げてタイトルを獲得した漆原大晟。今年2月に背番号127から65番への変更を勝ち取った。低迷の続くチームの救世主となれば、新人王も十分ありうる。
一方のセ・リーグ。こちらの高卒新人といえば、奥川恭伸(星稜高→ヤクルト)が楽しみだが、5月31日にプロ初のフリー打撃に登板したばかりで、佐々木よりもスロー調整だ。1軍までもう少し時間が必要か。
となると、大本命は最速154キロを誇る森下暢仁(明治大→広島)。完成度が高く、5月30日の紅白戦も主力が並ぶ打線に対し3回0封。佐々岡真司監督から「カットボールの曲がりがスライダーのように大きくなってしまっている」と指摘を受けると、きっちり修正して赤ヘルの主砲・鈴木誠也を138キロのカットボールで右飛に仕留めた。開幕ローテーション入りは確実で、2桁勝利の期待がかかる。
対抗は、巨人・原 辰徳監督が大きな期待を寄せる2年目の戸郷翔征。昨季終盤に彗星(すいせい)のごとく現れ、プロ初勝利を挙げると、日本シリーズにも登板した期待の右腕だ。
セ・リーグの打者はやや手薄な印象。楽しみにしていた同じく巨人2年目の山下航汰が故障したのが残念だ。育成枠でプロ入りも天才的な打撃センスを持ち、昨季イースタンで首位打者を獲得。球団初の高卒1年目途中での支配下入りを果たした。
そして今シーズンは坂本勇人以来となる10代での開幕スタメンも期待されていたが、5月21日に右手有鈎骨の骨折が判明。しばらく戦線離脱となった。とはいえ、復帰後にインパクト大の活躍をすれば、まだまだチャンスはある。
開幕するとはいえ、無観客開催のため球場で声を張り上げることはできない。だが、球界の未来を担う若手たちの活躍は、われわれに大きな希望を与えてくれるに違いない。