サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第157回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、ベンゼマについて。現在、ラ・リーガで首位を走るレアル・マドリード。そんな、チームを牽引するFW・ベンゼマのすごさについて宮澤ミシェルが語る。
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ラ・リーガ再開後に好調を維持していたレアル・マドリードがついに首位の座をバルセロナから奪還した。残り試合の対戦相手を考えれば、優勝の確率はかなり高いんじゃないかな。
2016-17年シーズン以来34回目となる優勝が決まれば、MVPはカリム・ベンゼマと言ってもいいかもしれないね。それくらい彼の貢献度は大きいよ。
2009年からレアル・マドリードのユニフォームに袖を通し、今季の6月18日のバレンシア戦では2ゴールを決めて、クラブでの通算得点数を243に伸ばした。これはフェレンツ・プスカシュを抜いてクラブ歴代5位の記録。だけど、その割にはベンゼマに対する評価は低い気がするんだよな。
その理由は、ベンゼマが「俺が、俺が」というタイプのFWではなく、味方を上手に生かしていくFWということにあるのかもしれないね。
たとえば、ゴール前を他の選手が使えるようにサイドに流れて相手CBを引き出したりする。こうしたプレーはボールのある場所だけを追いかけていると見逃してしまいがちなんだよね。
長いことクリスティアーノ・ロナウドと一緒にプレーしたことも、ベンゼマの評価に影響している気がするよね。
C・ロナウドは試合を決めるゴールを何度も決めて勝負強さが際立った。そのゴールをお膳立てする黒子にベンゼマは徹していたけど、やっぱりゴールは目に見えてわかりやすいものだからね。勝負どころでの得点数の差がC・ロナウドと大きかったこともあって、ベンゼマはゴールを決めないFWのイメージが強くなっている気がするよ。
たださ、今季もベンゼマはラ・リーガの得点ランキングでメッシに次いで2位。昨シーズンだって21ゴールも決めているんだぜ。印象に引っ張られすぎると、選手の評価を見誤る典型的なケースな気がするよな。
それもこれもレアル・マドリードというクラブだから起きることでもあるよな。
2000年代の銀河系をはじめ、いつの時代も世界中から各国代表のトップスターをかき集めたのが『白い巨人』。そのポジションで世界ナンバー1でないと、あの白いユニフォームにはなかなか袖を通せなかった。
ベンゼマもリオンで売り出した頃は飛ぶ鳥を落とす勢いで、レアル・マドリードのユニフォームに見合う活躍をしていた。でも、人というものには慣れてしまうと変化を欲する残酷さがある。「ベンゼマはいい選手だけど、もっとレアル・マドリードに相応しいFWがいるんじゃないか?」って。
そうすると、レヴァンドフスキ(バイエルン・ミュンヘン)やハリー・ケイン(トッテナム)などの実績組だったり、いまなら売出し中のハーランド(ドルトムント)まで、ラ・リーガ以外で活躍するFWが輝いて見えるんだよな。
でもね、彼らがレアル・マドリードに移籍しても、ベンゼマよりも働けないんじゃないかな。バルセロナよりはハードルは低いけど、レアル・マドリードで結果を出すっていうのは、そんな簡単なものじゃないからね。
芝が青いのは隣にあるからで、「前の方が青かった」って気づいても、それはもう取り戻せないもの。計算の立つFWという観点からチーム構成を考えれば、やっぱりベンゼマに優る選手はなかなかいないんだよ。
ベンゼマは今年12月で33歳。契約は2022年まであるけれど、クラブが新たなFWを獲得する可能性は高いよな。だって、レアル・マドリードだからね。
それによってすぐベンゼマが押し出されるということはないだろうけど、誰を獲得するかによっては出番が減少する可能性はあるんじゃないかな。
いずれにしろ、レアル・マドリードは、シーズンオフこそが本当の勝負とも言えるクラブだからね。激動の2019-2020シーズンが終わっても、彼らがどんな戦力補強をしていくのかからは目が離せないよ。