日本女子サッカーについて語った宮澤ミシェル 日本女子サッカーについて語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第158回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、日本女子サッカーについて。ついになでしこリーグも開幕し、来年にはプロリーグのスタートも控えるなど盛り上がりを見せる日本女子サッカー。しかし、日本の女子サッカーが世界と戦うためには、ある課題に直面していると宮澤ミシェルは語る

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なでしこリーグの1部と2部のリーグ戦もいよいよ開幕したね。7月18日に1部の3試合、2部の2試合、翌19日に1部の2試合と2部の3試合が行なわれた。

選手たちはこの日を待ち続けていたのがパフォーマンスからも伝わってきたよね。

女子サッカーは来年9月から日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ(Women Empowerment League)』が始まる。

参加チームは6~10チームくらいになって、当面は降格はないらしいね。WEリーグ入りを目指して、多くのクラブが名乗りをあげるだろうし、なでしこリーグからもWEリーグ入りを目指すクラブはあるだろうな。

所属クラブがそのままWEリーグ入りをすれば、そのチームの選手はプロ化に一歩近づくことになるよね。

だけど、いまはどのチームがそうなるかわからないから、選手たちは目の前の一試合に集中しつつも、頭の片隅ではどうしたって来年のプロ化に向けていいプレーをしようという欲があると思うんだ。

その気持ちは僕もよくわかるよ。1993年にJリーグが幕開けするんだけど、5年くらい前からプロ化への動きがあって、1990年頃に具体的なものになっていった。

僕は大学卒業と同時にフジタ工業でプロ契約で入っていたから、当然Jリーグが始まったらプロサッカーでプレーする気マンマン。それなのに、フジタ工業がJリーグの最初の10クラブから外れちゃって、Jクラブとの契約を勝ち取るために必死にアピールしたもんだよ。

たださ、やっぱり目の前の戦いを疎かにして個人プレーに走ったら駄目だよな。チームの勝利に貢献できるように熱い気持ちを抑えて冷静にプレーしてほしいね。

今季のなでしこリーグでは、守備的MFの選手に注目しているんだ。それはなでしこ代表が強くなっていくためには、このポジションの選手がもっともっとスケールアップする必要があるからなんだ。

3月のアメリカ遠征ではスペイン代表に1-3、イングランド代表に0-1、アメリカ代表に1-3で3戦全敗。中盤のボランチのところが、いいようにやられちゃったんだよね。

もちろん守備的MFの選手だけに責任があるわけじゃない。パスコースを絞るためには前線からボールへのチェイスは不可欠だし、最終ラインとの連携も重要。

ただ、これは昨年のW杯でも同じことを感じたんだけど、いま女子サッカーは各国代表が力を入れて強化している。フィジカル勝負になったり、スピード勝負になったりするケースが増えている。

そうした相手をフィジカルで分が悪くてもどう抑えていくのか。そこが大切なんだけど、3月の遠征時点ではまったく対策も取られてなかったし、選手からも成長を感じられなかったんだよな。

なでしこ代表が2010年代に世界の舞台で好成績を収めてこれたのは、やっぱり守備的MFに澤穂希さんや阪口夢穂というワールドクラスの選手がいたからこそ。

彼女たちは外国人選手に比べて、ズバ抜けてフィジカルが強いわけでも、スピードがあったわけでもないけど、賢さがあったよね。

体格やスピードで上回る相手を抑えるために、ボールがないところでしっかり駆け引きしていたし、危険な場面では体を張ったプレーもできた。

でも、いまのなでしこ代表たちは、国内リーグを戦っているときと同じ感覚で、漠然とプレーしている印象を受けるんだ。

ちょっと厳しい言い方になっているけど、澤さんや阪口は、どんな相手でも緊張感を持ってプレーしていた。あれと比べたら、やっぱり厳しくなっちゃうんだよな。

なでしこ代表候補の守備的MFには、ボール扱いやキック精度に優れた選手たちがたくさんいる。だけど、ボール扱いが雑になるケースもたまに見受けられるし、その一瞬を相手は見逃してくれないレベルに、世界の女子サッカー界は進歩しているんだよね。

本当ならば、いまごろは東京五輪が行なわれていたけど、とりあえず来夏までの猶予ができた。だからこそ、守備的MFの選手たちには自分たちの持ち味であるテクニックを伸ばしながら、リスクヘッジの部分でも成長を遂げて、なでしこ代表入りをアピールしてほしいんだ。そこを期待しながら、なでしこリーグをしっかり見守っていきたいですね。

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