川崎フロンターレについて語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第159回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、川崎フロンターレについて。J1が再開するや圧倒的な強さで首位を走る川崎F。その最大の要因は、攻撃の好調にあると宮澤ミッシェルは語る。

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川崎フロンターレの強さが、J1リーグ再開後は圧倒的だね。勝ち星を単に並べるだけではなくて、自分たちの攻撃的なスタイルを貫いて得点を奪っている。そこが素晴らしいよ。

中断明け最初の鹿島戦で2ゴール。続くFC東京戦で4得点、柏戦でも3得点。横浜FC戦では5ゴールだよ。ここまでやられちゃうと、対戦チームのDFにしたら何もさせてもらえなかった感覚しか残らないよな。

その後も仙台戦では3ゴールで逆転勝ち。2点を先に失って、「さすがに川崎Fでも、これは苦しいぞ」と思っていたら、後半から投入されたFW小林悠の目の色が違ったもんな。

さらに、湘南戦も3得点を奪って勝利。本当に攻撃が爆発してるって感じだよな。

2月22日の開幕戦ではサガン鳥栖を相手に、一方的なほど押し込みながら0対0の引き分けだったでしょ。今シーズンもゴールが獲れなくて勝ち点を伸ばし切れずにタイトルを逃した昨季と同じ轍を踏むかもと心配していたんだけど、そこはやっぱり川崎Fだね。中断期間中にしっかりとアジャストしてきたよ。

今季は川崎Fユース育ちで大学経由の選手たちが、着実に成長しているよね。MF脇坂泰斗はフル出場は少ないけど、しっかり攻撃をつくっていて、中村憲剛を故障で欠いている影響を微塵も感じさせない。大卒ルーキーのMF三笘薫やFW旗手怜央も、試合に使われたらしっかり役割を果たしているからね。

ただ、今季のゴール数が増えている要因となると、右サイドバックの山根視来(みき/湘南→)の存在は見落とせないよ。

このポジションは川崎Fにとって、守備はもちろんなんだけど、攻撃でも肝だからね。

2連覇した時の川崎Fは、右SBのエウシーニョ(→清水)が中盤でのパスまわしに積極的に加わって攻撃に厚みをつけることで、FW家長昭博がゴールに近い場所で決定的な仕事ができた。

だけど、2018年シーズン限りでエウシーニョが抜けて、昨季は馬渡和彰(→湘南)やマギーニョ(→横浜FC)に、エウシーニョのような役割を期待したんだけど、これがハマらなかった。それで守田英正や車屋紳太郎、登里享平といった右SBが本職ではない選手たちがプレーすることになったんだよね。

今季、湘南から加入した山根は、味方がボールを持つと積極的にスペースへ走り出していくんだけど、これが効いているね。彼のところにパスが出てくることもあるけど、出てこなくても、この動きで相手DFを引きつけるから、ほかの選手が使えるスペースが生まれる。

時間とスペースをつくるために汗をかける選手がいれば、技術力の高い選手が揃う川崎Fの攻撃陣にしたら「あとは任せろ!」ってなもんだろうね。精度の高い崩しができるから、必然的に決定力も高まっているんだと思う。

湘南時代は約4年間、チョウキジェ前監督のもとでのランニング・サッカーで鍛えられた選手だからね。ここから暑い夏に向かっていくけれど、山根の走力が落ちる心配はないんじゃないかな。

連携面ではまだまだ成長の余地はあるけれど、そもそも川崎Fのサッカーは簡単にフィットできるようなスタイルではないからね。シーズンが進んでいけばもっと良くなるはずだよ。そうなれば、川崎Fの得点力はさらに高まっていくだろうね。

ここまでの戦いを見れば、川崎Fが優勝争いを牽引していくのは間違いないよね。ただ、心配なのはCBの選手層が厚くないこと。谷口彰悟とジェジエウが万全なら問題はない。だけど、柏戦で怪我をしたジェジエウがその後2試合を欠場すると、失点シーンが目についたからね。

シーズンは長くて、スケジュールもタイトになっているから、ひとたび歯車が噛み合わなくなると、ガタガタと崩れる可能性はある。そうした懸念を、圧倒的な攻撃力で吹き飛ばしていくことができるのか。それができれば川崎Fの2年ぶりJ1王者は近づくだろうね。

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