今年は「夏のセンバツ」が開催される――。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アマチュアスポーツのイベントはことごとく中止に。高校野球も春の選抜高校野球大会(センバツ)、夏の全国高校野球選手権大会が中止になった。
しかし6月10日、高校野球界に一筋の光が差した。春のセンバツの出場権を得ていた32校を8月10~12日、15~17日の間の1日だけ甲子園に招き、1チーム1試合限定の交流試合をすることが発表されたのだ。
例年のようなトーナメントではなく、原則無観客での開催。しかし高校球児にとっては、「甲子園で戦う」ことに意味がある。また、プロを目指す選手にとっては、自身の進路をかけてアピールする場にもなる。
オンラインで行なわれた組み合わせ抽選会では、いくつもの好カードが誕生した。大阪桐蔭(大阪)対東海大相模(神奈川)という、現代高校野球の"東西横綱"がいきなり対戦。しかも最終日の17日に組まれて、いかにも「千秋楽」という趣がある。
春のセンバツが開催されていれば、共に優勝候補に挙がっていたはずの戦力を擁する。特に攻撃力は、両校とも近年の高校野球界でも屈指のレベルである。
大阪桐蔭は仲三河(なかみがわ)優太、西野力矢とプロ志望の左右の強打者が中心になる。大阪桐蔭の打者は伝統的にバットヘッドを利かせたスイングが特徴で、打球音が違う。
一方の東海大相模も豪華な陣容だ。下級生時から甲子園経験がある西川僚祐(りょうすけ)、山村崇嘉(たかよし)、鵜沼魁斗(うぬま・かいと)と逸材が並ぶ。昨秋時点での高校通算本塁打数は、西川が53本、山村が44本、鵜沼が27本。攻撃的な走塁でも敵を圧倒する。
共に投手力に課題を残すものの、レベルが低いわけではない。冬場のトレーニングや自粛期間明けの調整で仕上げられるかがカギになる。
履正社(大阪)対星稜(石川)という昨夏の甲子園決勝対決も見ものだ。なお、両校は昨春のセンバツ初戦でも対決しており、今夏を含めれば甲子園で3回連続で激突。昨年は奥川恭伸(ヤクルト)を擁した星稜が春に完勝し、夏は履正社が雪辱を果たした。
履正社も大阪桐蔭に負けず劣らずの陣容を誇る。小深田(こぶかた)大地、関本勇輔の中軸には破壊力があり、岩崎峻典(しゅんすけ)、内星龍(せいりゅう)らで構成される投手陣もポテンシャルが高い。
星稜は1年夏からすべての甲子園大会に出場する内山壮真(そうま)が捕手として戻ってくる。遊撃手での経験を生かした軽やかな握り替えと、試合の流れを敏感にくみ取るリードをアピールできるか。
一部マニアの間で「隠れた好カード」と注目されるのは、鹿児島城西(じょうせい/鹿児島)対加藤学園(静岡)。共に甲子園まであと一歩に迫りながら、出場できていなかった「悲願校」として知られる。
鹿児島城西はプロで首位打者になった佐々木誠監督に率いられ、短期間に力をつけた。加藤学園は亜細亜大出身で元大学日本代表の米山学監督による、泥くさく細部に魂を込める野球で台頭した。
ユニークなチームとして注目したいのは、21世紀枠に選ばれていた帯広農(北海道)。NHK連続テレビ小説『なつぞら』に登場する「十勝農」のモデルになった高校で、野球部員の多くは農業、酪農の跡取りだ。
もともと今年のセンバツ出場校にはドラフト候補が多く、選手個々に目を移しても楽しみは広がる。最注目は1年時から甲子園で活躍する中森俊介、来田涼斗(きた・りょうと)の明石商(兵庫)コンビである。
中森は投球センスに優れた総合力の高い右腕で、タイプ的には昨年の奥川に近い。投球にすごみが加わってくれば、ドラフト1位候補になるだろう。来田は柳田悠岐(ソフトバンク)を彷彿(ほうふつ)とさせる内蔵エンジンの大きな外野手。
名物指揮官・狭間善徳監督は「あいつは時間を感じられない男なんです」と、タイミングの取り方に課題があることを示唆していたが、どこまで改善した姿を見せられるか。
昨秋の明治神宮大会を制した中京大中京(愛知)のエース・高橋宏斗は、強い球質のストレートと変化球も意外と器用に操る。智弁和歌山(和歌山)のエース・小林樹斗(たつと)は粗削りながら、将来性を高く評価するプロのスカウトも多い。智弁和歌山には快足プレーヤーの細川凌平ら、今年も有望選手がひしめく。
8月10日の開幕戦は本格派右腕の川瀬堅斗を擁する大分商(大分)と、右の強打者・井上朋也を擁する花咲徳栄(とくはる/埼玉)が対決する。
川瀬は兄・晃(ひかる)がソフトバンクで内野手としてプレーする。最速150キロ近い球速を計測し、馬力あふれる投げっぷりが魅力だ。今夏が全国デビューになるだけに、緊張感のあるマウンドで力を発揮できるか。井上はパンチ力抜群の打撃に加え、外野から三塁にコンバートされた守備面でも評価を高めたい。
野手では仙台育英(宮城)の大型遊撃手・入江大樹も体に力があり、スカウト陣の熱視線を浴びそうだ。
最後に紹介したいのは、一冬越えて大きく成長したと評判の片山楽生(らいく)(白樺学園/北海道)。昨秋までは常時130キロ台前半だった球速が、最速147キロまで増速。全身を連動させた投球フォームには可能性が詰まっている。
コロナ禍によって日常を奪われ、先行きの見えない日々を送る人々にとって、交流試合は一服の清涼剤になるかもしれない。今夏は高校球児の底知れないバイタリティに触れてみてはどうだろうか。