サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第161回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、柴崎岳について。シーズンが終わり、所属するデポルティボ・ラ・コルーニャの3部降格が決まった柴崎岳。そんな彼に対し宮澤ミシェルは、「来季は岡崎とプレーしてほしい」と願望を語った。
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ラ・リーガの2019-2020シーズンは、どうにか終了したね。6月11日に再開し、そこから約1ヶ月半の間に各チーム11試合を戦うハード・スケジュール。これを乗り切って1部はレアル・マドリードが優勝。2部では岡崎慎司のウエスカが逆転優勝で来季1部昇格を手にした。
ただ、一方で2部リーグの最終節では、柴崎岳のいるデポルティボ・ラ・コルーニャと対戦予定だったフエンラブラダに、新型コロナウイルスの陽性者が出たため、試合延期という事態も起きた。仕方ないとはいえ、不完全燃焼感は否めないよな。
デポルティボは、他力本願ながらも2部残留の芽を最終節に残していたけど、最終節で残留を争っていた他のクラブに波乱が起きなかったから、来季は2部B(実質3部)へ降格が決定しちゃった。ちなみに延期した最終節は、後日行なわれて見事に勝利したんだけど柴崎はベンチ外だったね。
一時は6位まで上がったデポルティボだけど、連勝が止まってからは勝ちきれなかった。そこが悔やまれるよな。
再開してからの試合のほとんどに柴崎は出場していたんだけど、7月6日から最終節前までの4試合で4連敗したのが痛かった。
それにしても、2シーズン前の2017-2018はラ・リーガ1部にいたクラブがだもの。凋落するときは、早いよなぁ。
柴崎はどうするんだろうね。チームから「残ってくれ」と言われたとしても、さすがに彼の実力を考えたら3部リーグでプレーするのはどうかと思うよ。かといって、新型コロナの影響で移籍先を探すのも容易ではないだろうからね。心配だよ。
柴崎がラ・リーガに挑戦して3シーズン半でしょ。テネリフェ、ヘタフェ、デポルティボと渡り歩いてきたけど、思い描いた活躍はできていない印象はあるよな。
柴崎のパスセンスはもちろん素晴らしいんだけど、やっぱり課題となるのは守備だよな。彼の守備のやり方だとやっぱり海外リーグでは、なかなか信頼されないんだと思う。
柴崎の守備が下手と言ってるのではなく、守備のやり方そのものが違うんだよ。わかりやすいのが1対1での守り方。日本では相手に抜かれないように守るのが最優先だけど、ヨーロッパで最初に求められるのは相手からボールを奪うこと。
この価値観の違いは、柴崎だけではなく、ほとんどの日本選手がブチ当たる壁でもあるよ。子どもの頃から教わった守り方と真逆なことを求められるから、なかなか対応はできないんだよね。
ただ、遠藤航はこれをあっさりクリアしちゃったけどね。今シーズンはドイツ2部だったシュツットガルトでものすごく評価されたけど、一番大きかったのは1対1だったと思うよ。決して大きくないけれど、前に出てボールを奪っちゃうもの。
そういう守備を28歳の柴崎に求めるのは酷だよな。子どもの頃からそういうのはやってないわけだし、彼の売りはハードさではなくて、やっぱりパスセンス。本来はトップ下のポジションで輝く選手だからね。
ラ・リーガではトップ下を置くチームはどんどん減っているし、あってもそういうチームには世界有数のスペシャルな選手がいる。そこを上回れなければ、ベンチを温めるだけになっちゃう。
中村俊輔もそうだったけど、テクニックやパスセンスだけなら柴崎もラ・リーガでも十分通用するよ。だけど、ラ・リーガ1部で活躍しようと思ったら、それがあるのは当たり前で、プラスアルファがないと厳しい。
久保建英や乾貴士にはテクニックに加えて、スピードという武器があるから、1部であれだけ活躍ができるわけでしょ。柴崎にはそこが足りないんだよな。
来季1部に昇格するウエスカが、柴崎を獲得してくれたらおもしろいんだけどね。岡崎と柴崎が一緒のチームでプレーしたら、互いに足りない部分を補い合えるし、互いの良さも理解しあっているから出しやすいからね。
2020ー2021シーズンのラ・リーガが開幕するのは、予定では9月12日。勝手な願望だけど、どうか岡崎と柴崎が一緒のチームになることが叶ってほしいな。