新型コロナウイルス感染症による影響で中断されていたテニスツアーが、5ヶ月ぶりに再開した。そして8月31日からは、ついにグランドスラム・全米オープンテニス(米・ニューヨーク)が開催される。
今年のグランドスラムは、ウィンブルドンが第2次世界大戦以降で初めて中止となり、全仏オープンテニスは9月へ日程変更されるなど異例づくめ。そんななか予定通り開催される全米オープンテニスの注目ポイントを、プロテニスプレーヤー、さらに解説者としても活躍し、『ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか』(集英社新書)などの著書を持つ鈴木貴男さんに聞いた。
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今年の全米オープンは、今後のテニス界を占う上で非常に重要な大会になるでしょう。
初の無観客試合による開催が、常に大歓声に包まれプレーしてきた選手たちにどういう影響を与えるのかは未知数です。また例年であれば、ウィンブルドン後、アメリカやカナダで2〜4試合の前哨戦を挟んで体調のピークを作り全米オープンに臨むのが恒例でした。
しかし、今年はアメリカでの前哨戦は男女ともに1試合のみ。コンディショニングが非常に難しく、特に現在ヨーロッパを拠点とする選手が6〜7割を占めるため、前哨戦なしで全米オープンに出場する選手も多く、実績や実力以上に、コンディショニングが勝敗を大きく分ける大会になりそうです。
では、男女別に今大会の注目選手を挙げていこうと思います。まずは男子から。
今年2月に右膝の内視鏡手術を受けたロジャー・フェデラー(世界ランク4位/スイス)、ラファエル・ナダル(世界ランク2位/スペイン)らが欠場を表明し、今シーズン負けなしのノバク・ジョコビッチ(世界ランク1位・セルビア)が、今大会の不動の大本命と言っていいでしょう。
しかし、前述したように全選手にとって未体験の環境で行なわれる今大会は、何が起こってもおかしくありません。ランキング通りの結果になるとは到底思えず、例年以上に多くの選手に優勝のチャンスがあります。
注目すべきひとり目の選手は、ドミニク・ティーム(世界ランク3位/オーストリア)。グランドスラム優勝の経験こそありませんが、いつ優勝してもおかしくない実力を持ち、「今、最も初優勝に近い選手」と呼ばれる存在です。ナダルと同じくクレーコートを得意とし"次世代クレーキング"とも呼ばれますが、彼はハードコートもオッケー。ツアー中断中も試合勘を鈍らせないためにエキシビジョンに積極的に出場するなど、今大会に標準を合わせているのがわかります。
若手有望株の筆頭、19歳のヤニク・シンネル(世界ランク73位/イタリア)にも注目が必要です。2018年にプロ転向したばかりですが、メキメキと実力をつけ、昨年21歳以下のファイナルズで優勝。若さに似合わず弱点らしい弱点がないのが大きな武器です。世界ランクはまだ低いので、シード上位選手と1回戦で当たってしまう可能性も高いですが、大物食いの可能性も十分です。
昨年右ひじの手術を受け、約1年ぶりの復帰戦となる予定だった錦織圭(世界ランク30位/日本)ですが、新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出たため前哨戦は不出場。さらに8月21日に行なった2回目の検査でも陽性だったため、8月24日時点では全米オープンの出場を保留にしています。
(※アメリカ時間の8月26日、錦織選手は自身の公式アプリで「3度目の検査で陰性になった」と発表。しかし、31日に開幕する全米オープンについては欠場することを決定した)
ただ、前向きに考えるならば不出場になったとしても、1大会分多く休めたと考えられますし、もし出場できるのなら周囲から過度の期待をかけられることのない状況でプレーできます。出場が叶うなら、練習不足などでコンディションに不安は残しますが、2014年に全米で準優勝した際も、右足に不安を抱いた状態でした。相性のいい全米オープンで、驚くような好結果をたたき出しても不思議ではありません。
また、錦織のほかにも日本人選手は、世界ランク48位の西岡良仁、同87位の杉田祐一、同90位の内山靖崇、同112位のダニエル太郎、同117位の添田豪と5人もの選手が本戦に出場します。私がコーチしている内山はハードコートが得意で、パワーで外国人選手に対抗できる選手です。試合序盤で流れをつかめば勝機はあるでしょう。本戦での初勝利を掴み取って欲しいです。
一方の女子ですが、選手の実力が拮抗し、さらに今大会は世界ランク1位のアシュリー・バーティ(オーストラリア)、同5位のエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)、昨年の全米オープン覇者で同6位のビアンカ・アンドレスク(カナダ)らが欠場することが決まり、男子以上に多くの選手に優勝の可能性があります。
当然、一昨年の全米オープンの覇者、大坂なおみ(世界ランク10位)は今大会も優勝候補の一角です。パワー、スピードだけでなくサーブも抜群。精神面の安定性が課題と言われることがありますが、私はそうは思いません。それよりもフィジカルコンディションが優勝の鍵になるのではないでしょうか。好調時の彼女は、左右に大きく振られてもバランスを崩しません。観戦の際、彼女のフットワークに注目すると、彼女の好不調が判断できるのではないでしょうか。
そんな大坂のライバルとなる選手を挙げるなら、まずは四大大会通算23勝、そのうち全米で6度の優勝と断然の実績を誇るセレナ・ウイリアムズ(世界ランク9位/アメリカ)。セレナは前哨戦となったトップシード・オープンの準々決勝で格下相手に敗れていますが、彼女ほどのベテランになると前哨戦はコンディショニングの一環ととらえている場合が多く、取りこぼしにさほど意味がありません。コンディションを上げてくることが必至な本戦では当然、怖い存在です。
また今年、初出場の全豪オープンの3回戦で前年覇者である大坂を破った16歳のココ・ガウフ(世界ランク53位/アメリカ)は今大会も侮れません。さらに、今年の全豪オープンでグランドスラム初優勝を飾ったソフィア・ケニン(世界ランク4位/アメリカ)も勢いに乗る選手です。不確定要素も多く予測するのが難しい大会ではありますが、ぜひ大坂には全米オープン2度目の優勝を果たして欲しいです。
選手は会場、ホテル、空港以外の移動が禁止され、例年のようはリフレッシュすることも難しく、2週間に及ぶ長丁場でオンとオフを上手に切り替えられる選手でなくては優勝に手が届かないでしょう。
無観客試合のため、地元の大声援に助けられた大番狂わせは起こらない一方、静かな状態でより実力を発揮出来る選手もいるはずです。今後、しばらく大会期間中に行動が制限されることや無観客試合は続くでしょうから、今大会の優勝選手は、今後の大会でも主役を演じる可能性が高いはずです。
「全米オープンテニス」はWOWOWで連日独占生中継!
5ヶ月のツアー休止を経て、トッププレーヤー達が晩夏のニューヨークに集結! 激戦の模様を連日生中継でお届けする。グランドスラムの栄冠を手にするのは誰だ?
テニスの2020シーズンは新型コロナウイルス感染症の影響で、3月よりツアーを中断。ウィンブルドンは第2次世界大戦後初の中止に、5月に行なわれる予定だった全仏オープンは9月末開催への日程変更を余儀なくされるなど、グランドスラムにも大きく波及している。
そんな中、全米オープンは、完全無観客、検査の徹底や関係者の人数制限など、万全の感染防止対策を取った運営プランが承認。当初予定した通りの日程にて開催されることが決まった。一方で人数制限の観点から、男女シングルス、ダブルス(ドロー数縮小)、車いすの試合は行なわれるが、予選やミックスダブルス、ジュニア、レジェンドは開催されない。
注目の日本人選手は、2018年に日本人初のグランドスラムシングルス制覇を成し遂げ、2年ぶりの優勝を狙う大坂なおみと、昨年10月に右肘を手術し、実戦は約1年ぶりとなる錦織圭。ともに出場の意向を表明しており、ハードコートでのプレーを得意としている2人の活躍に期待したい。
そして、久々となるテニスコートでの息詰まる戦いと、グランドスラムの栄冠を熱望している、トッププレーヤーたちにも注目だ。
世界的な難局にある中、選手たちは最高のプレーでファンに感動と興奮をお届けする。熱戦を制し、グランドスラムの栄冠を手にするのは果たして誰になるのか!? 連日生中継でお届けする。