香川真司について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第163回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、香川真司について。所属するサラゴサが、プレーオフで敗れ1部昇格を逃してしまった香川真司。そんな彼の来季の去就に宮澤ミシェルは注目しているという。

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香川真司のいるサラゴサは2部リーグ戦3位からの昇格を目指していたけど、プレーオフ準決勝で敗退。香川がチームと一緒に来季を1部で戦う芽は潰(つい)えてしまった。

だけど、プレーオフで見せた香川のパフォーマンスは、ほかのクラブが獲得したくなるほどだったよ。

不運だったのは22歳のコロンビア人のルイス・スアレスがプレーオフ直前にレンタル元のワトフォードに帰還しちゃったことだよな。38試合で19ゴール6アシストの得点源が抜けたら、香川がどれだけいいプレーを見せても、厳しい戦いを強いられるってものだよ。

香川に関して言えば、リーグ戦再開後やプレーオフでの試合を見て感じたのは、やっぱりトップ下やシャドーのポジションだと生き生きと働くってこと。

スルーパスを出したり、パスを受けて素早く反転してのシュートだったり、そういう部分での技術力は、まったく衰えてはいないね。とても31歳になったなんて思えないよ。

2019-2020シーズンは、公式戦36試合に出場して4ゴール2アシスト。ディビジョン2とはいえ、スペイン1年目ではいい働きをしたよ。

それでもシーズン中に何度も移籍の噂が出たのは、香川の注目度の高さがあるからだよな。それに監督がチームが勝てない時期にフォーメーションを変更して、香川をサイドで使ったことにも原因がある。

そのポジションは、香川の弱点であるフィジカル強度だったり、守備へのハードワークが求められるんだけど、誰だって苦手なことで結果を残せるものではないからね。

香川はもっとゴールに近いエリアで、アシストをしたり、決定的な仕事をしたりすることで評価されてきた選手。ないものねだりをしたって、無理なものは無理なんだよ。

香川が2020-2021シーズンをどのクラブでプレーするかはわからないけれど、シーズン最初の3ヶ月はゴール数にこだわってほしい。アシストじゃなくてね。

昨季の香川は、開幕戦でゴールこそなかったものの攻守で圧倒的な存在感を発揮して、第2節のポンフェラディーナ戦でリーガ初得点。9月15日の第5節エストレマドゥーラ戦でも得点を決めた。

だけど、次の3ゴール目は6月17日の第33節ルーゴ戦。これだけ間隔が空いたらダメだよ。香川が3点目を2019年度中に決めていたら、シーズンでの起用のされ方だって違ったはずなんだよ。

監督の側に立てば、どれだけチーム状況が悪くても、ゴールを決めているMFをスタメンから外す決断はそうそう出来るものではない。もしそれで負けたら監督自身の責任が問われるのが早まるだけだから。

でも、そうじゃないからフォーメーションに手を加えて、チームとしての得点力を高めようとしたんだよね。

ヨーロッパ、特にスペインでは攻撃的なポジションの選手の評価は、ゴール数という結果に優るものはないんだよ。攻撃的MFの場合はFW選手ほど求められるハードルは高くないけれど、それでもシーズン序盤で3~4ゴールは決めたいね。

これは香川に限らず、海外でプレーする攻撃的なポジションの日本選手全員に求めたいことだな。これだけのゴールをシーズン序盤に決めることができれば、チーム内でのヒエラルキーは否応なく高まるから、チームの調子が悪くても中盤戦以降もスタメンのチャンスは続くんだよ。

それにしても香川の去就はどうなるんだろうな。サラゴサは新監督の就任が決まったことも大きく影響するだろうしね。新シーズン開幕も迫っているから、しばらく目が離せないよ。個人的には岡崎慎司のいるウエスカが、香川と柴崎岳を獲得してリーガ1部を戦ってくれたらいいなと思うよ。

クラブ財政面などを考えたら現実的ではないし、そもそもウエスカに香川の生きるトップ下のポジションがないんだけれど、それでも夢を見ちゃうんだよ。だって、それがシーズンオフのサッカーの楽しみ方のひとつだからね。

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