サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第164回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、バイエルン・ミュンヘンについて。その強さを見せつけて、チャンピオンズリーグを制覇したバイエルン。その中でも、レバンドフスキのパフォーマンスは圧倒的だったと宮澤ミシェルは語った。
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やっぱり特殊な状況での試合になると、ドイツっていうのは強さを発揮するよね。
新型コロナウイルスの影響で異例のシーズンとなった2019-2020の締めくくりとなったチャンピオンズリーグは、バイエルン・ミュンヘンが決勝でパリ/サンジェルマンを1-0で下して7年ぶりに優勝した。
2012-2013シーズン以来の三冠達成もすごいことだけど、グループリーグから決勝戦までの11試合で1度も負けなかったんだから、バイエルンは王者に相応しいチームだったということだよな。
PSGはクラブ創立50周年でのCL優勝という悲願達成まであと一歩に迫ったけれど、一発勝負やトーナメント戦で見せるドイツ勢の強さの前に屈してしまったな。
このレベルの戦いで"タラ・レバ"を言い出したらキリはないけど、前半の決定的なシーンで1本でも決まっていたら、勝負は違う展開になっていたと思っちゃうよ。
前半18分にGKマヌエル・ノイアーに防がれたネイマールのシュートも惜しかったし、前半24分のアンヘル・ディマリアが右足で打ったシュート。あれが枠内に飛んでいたらとか、左足で打てていたらとかって思っちゃうよ。
ただ、やっぱりバイエルンが強かった。なにより圧倒的だったのは、ロベルト・レバンドフスキだよな。あの存在感。決勝ではゴールこそなかったけど、PSGの守備陣を苦しめていたね。
味方がボールを持ったときの動き出しの回数とクオリティーは、『世界最高の9番』と言われるのがよくわかる。ちょっと目を離したらゴール前のポジション取りでやられちゃう。それで勝負ありだから、レバンドフスキをマークするCBにしたら、たまったもんじゃないよ。
トップ下のトーマス・ミュラーがピッチを自在に走り回って存在感を発揮できるのも、最前線にはCL10試合で15得点6アシストを記録するストライカーが構えていることも大きい。ボールを奪って最前線に送れば、誰よりもゴールを決めるのが上手いストライカーがいるんだもの。
決勝ゴールのシーンだって、右サイドからの入ってきたボールを、左サイドで先発起用されたコマンが決めたけど、ゴール前中央にレバンドフスキがいたことが大きかった。PSGのCBにしろ、GKにしろ、意識はやっぱりレバンドフスキに向かっちゃったよな。
それにしてもドイツっていうのは、サッカー漬けの環境に置かれると不思議なほど強さを発揮するね。今回のCLは準々決勝からポルトガルのリスボンでの集中開催だからね。W杯と同じでサッカーしかない環境だったわけでしょ。
その昔、リトバルスキーに聞いたら、「ドイツ人はカードゲームが大好きで、それで気分転換をはかってる」って言ってたね。ホテルに缶詰状態になってもカードゲームはできるから、ストレスは溜まらないらしいんだよ。
街に繰り出して、お酒を飲んだり、騒いだりしないと気分転換ができない国民性の選手たちは、そうはいかないもんな。
直接的ではないにしろ、今回のPSGとの勝敗でも、そういうところの差が少しは影響したのかもしれないね。
あと、今回は無観客での開催だったけれど、大勢のサポーターでスタンドが埋め尽くされたなかでプレーさせてあげたかったよな。無観客でもあれだけ緊張感が高く、ハードな内容の試合ができることも、世界トップレベルの選手たちが集まる大会の決勝戦だからこそ。
だけど、その彼らを奮い立たせるサポーターがいたら、また違った試合展開になったのかもしれないなって思っちゃうんだよ。
CL決勝がようやく終わって、選手たちは一段落つきたいところだけど、2020-2021シーズンはスタートなんだよな。フランスのリーグ・アンはすでに始まっているし、ブンデスリーガも9月18日に開幕。CLのグループステージも10月から行なわれる。
海外でプレーする日本選手たちも含めて、今シーズンもしっかり世界中のサッカーを追っかけていきますよ!