内田にとっては今が辞めるタイミングだったと語るセルジオ越後氏

サイドバックという目立ちにくいポジションなのに、プレーや立ち居振る舞いにあれだけ華がある選手も珍しい。皆から認められ、愛された選手だったね。僕も心からお疲れさまと言いたい。

鹿島の元日本代表DF内田が現役を引退した。そのキャリアは決して順風満帆ではなかったと思う。2010年南アフリカW杯では、大会直前にポジションを失い、出番がなかった。

そして大会前に右膝を負傷しながらも強行出場した14年ブラジルW杯以降の故障との闘い。それでも、鹿島で多くのタイトル獲得に貢献し、欧州でも素晴らしい実績を残し、日本代表でも74試合出場と頑張ってくれた。

ただ守るだけではなく、スピードと運動量があって、クロスの精度も高く、何より攻め上がりのタイミングが素晴らしい。現代サッカーのお手本のようなサイドバックだった。

長くプレーしたドイツではフィジカル中心の激しい環境にあって苦労も多かったと思う。それでも、人気クラブのシャルケでポジションを奪い、結果を出した。

2010-11シーズンの欧州チャンピオンズリーグ準決勝進出は、日本人でもこの舞台でプレーできると勇気を与えてくれた。日本代表ではタイプの違う長友とサイドバックを組み、一時代を築いた。

32歳での引退決断にはまだ早すぎるという声も多い。実際、現役ラストマッチとなったG大阪戦でのプレーを見ると、右膝のテーピングは痛々しかったものの、相変わらず攻め上がりのタイミングがいいし、運動量もほかの選手よりも多いくらい。正直、僕もまだまだできると感じたよ。

ただ、どんな選手でもいつかは引退を決断するときが来るもの。そのタイミングは周りが決めることではない。

例えば、僕自身の話をすると、ブラジルにいた24歳のときにプロ選手としての現役を引退した。まだまだやれる自信もあったし、周りも「辞めるな」と言うから葛藤や未練もあった。

でも、その一方で、もう今からセレソン(ブラジル代表)に選ばれてスーパースターになるのは難しいとも感じていた。いろんなクラブを渡り歩けば30歳過ぎまでプレーできるかもしれないけど、引退後に続く長い人生を考えれば、早く次のキャリアの準備をしたほうがいいと考え、決断したんだ。

同様に、内田にとっては今が辞めるタイミングだったということ。長年にわたる故障との闘いはそれだけ過酷で、元に戻らないことに対するジレンマは相当だったと思う。アップダウンを繰り返すサイドバックは負担の大きいポジションだし、彼の中ではむしろよくここまで続けられたという気持ちのほうが大きいかもしれない。

また、彼ほどの経験と人気があれば、膝の調子を見ながらダラダラと現役を続けることもできたはず。少なくともシーズン末まで辞める必要はなかった。でも、彼はそれをよしとしなかった。

給料をもらっているチームのために働けないのなら、シーズン途中でもスパッと辞める。"常勝"鹿島でプレーすることへの覚悟を見せた。若手にはこれ以上ないメッセージだ。

ひとつ残念だったのは、コロナの影響でラストマッチを満員のスタジアムで行なえなかったこと。コロナが終息したら大々的に引退試合をやらせてあげたい。鹿島でJリーグ3連覇を達成したときのメンバーが集まれば、相当盛り上がるだろうね。

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