男子プロバスケットボールリーグの「Bリーグ」が、5年目という節目のシーズンの開幕を迎えた。
政府の大規模イベントにおけるガイドラインに従い、各アリーナに入場できる観客数はキャパシティの50%までとなっているため、十全な形とはいえないかもしれない。それでも、通常の10月からの日程が延期される可能性もあっただけに、船が港を出たことは喜ばしいことだ。
ただ、スタンドが埋まらない状況に加え、大半のチームの外国籍選手がそろっていないことによる戦力差が出てしまっているなど、例年とはかなり様相が違っている。
入国が遅れているのは、主に日本での在留実績がない、新規の外国籍の選手やコーチらだ。
例えば、昨季B1でわずか5勝(36敗)で最低勝率だった三遠ネオフェニックスは、セルビア出身のブラニスラフ・ヴィチェンティッチHC、同じセルビア出身の外国籍選手ふたりと新契約。しかも軒並み在留実績がないため、10月2日にようやく日本に入国することができた。
ちなみにヴィチェンティッチ氏は、入国まで練習の指示をオンラインで行なっていたという。
入国できても、そこから2週間の隔離期間を経てのチームへの合流となる。三遠は開幕シリーズの2戦とも、外国籍選手なしの先発メンバーで臨んだ。多くのチームで、高さと強さのある外国籍選手は主力であるため、これは相当に異様なことだといえる。
リーグも「外国籍選手追加契約ルール」を設定し、入国制限を受ける選手の不在期間中、特別にほかの選手との契約を許可している(前者が登録された時点で、その選手の登録は抹消される)。
B1全20球団中、川崎ブレイブサンダースとB2から昇格した広島ドラゴンフライズだけが完全なロースターで開幕を迎えたという。政府方針で、10月に入って外国からの入国が緩和されており、開幕に間に合わなかった選手たちの合流も、ここ数週間から1ヵ月程度で完了すると予想される。
だが、いずれにしても外国籍選手の在否がチームの明暗を左右することに異論の余地はない。この数週間程度の「空白期間」が、プレーオフへの出場権やシード順などに影響する可能性もある。
しかしコロナ禍という状況に、どのチームも不平はのみ込んでいる。10月2日、リーグ優勝2度のアルバルク東京と川崎が対戦。戦力がそろっている川崎を相手に、外国籍選手ふたりを欠く東京は日本人選手らの奮闘で勝利した。
同軍キャプテンの安藤誓哉は「全員がそろって100パーセントだとしたらそれには届いていない」と認めつつ、現状プレーする選手が「危機感を感じて120パーセントが出たかもしれない」と述べ、不在の2選手が合流した暁には「もっと強くなれる、そういう気持ちでいます」と話した。
また、昨季に天皇杯を制したサンロッカーズ渋谷は、合流が遅れているジェームズ・マイケル・マカドゥの代わりに、前出の制度を使って別の外国籍選手を加入させた。しかし、やるべきバスケは「1ミリも変わらない」と強調する同軍の伊佐勉HCによると、追加選手の獲得にあたってマカドゥに似たタイプの選手を選んだという。
今季は特殊な状況のなかで、リスクやマイナスをいかに最小限に抑えるかという、球団のマネジメント能力も試されそうだ。
他方、各クラブの運営面でも奮闘ぶりがうかがえる。筆者が取材で訪れた、10月3日に宇都宮で行なわれた宇都宮ブレックスvs琉球ゴールデンキングスの開幕戦も、思いのほか観客が入っていることに驚かされた。
実際には最大収容人数の半分以下となる2200人弱の観衆だったが、アリーナの構造的な理由もあってか、かなり埋まっているように見え、いわゆる「密」の状態のようにも感じられた。
主催者側が入場者数を抑えたのか、ファンが来場を控えたのかは定かではないが、チケット売り上げが全体の収益に占める割合が高い宇都宮(18-19年シーズンの宇都宮のチケット売り上げ約4億3000万円は、全体の営業利益の約3割強。B1平均の2割強よりも割合がかなり高い)のようなチームにとって、チケット収入をどれだけ増やせるかは球団経営にとって死活問題。収容人数の判断も容易ではなかっただろう。
川崎、宇都宮、千葉ジェッツは、売れ行きや対戦カードなどによってチケット価格が変動する「ダイナミックプライシング制」を導入。損失を抑えられる可能性はあるが、最大で「箱」の半分までしかファンを入れられないため、チケット売り上げは例年よりも落ちることが予想される。
今夏、新たにリーグチェアマンに就任した島田慎二氏によれば、新型コロナウイルスの影響が中長期的に続くことを想定し、リーグのトップパートナー、ソフトバンクが運営するライブ配信サイト「バスケットLIVE」で多くの視聴者数を獲得した球団により手厚い分配金を配分し、チケット売り上げを補う考えだ。
また、屋内競技のバスケットボールは、野球、サッカーなどと比べて天候に左右されず、女性のファンが多く、エンターテインメントやITとの親和性が高いといった優位性がある。コロナ禍で「ひとつの球団も破綻させない」という重責を担う島田氏だが、このこの危機的状況を「むしろ新たなビジネスモデルを形成するチャンス」と言う。
Bリーグが、野球やサッカーにはない取り組みによって危機を乗り越えたとき、スポーツ界で独自の存在感を獲得しているかもしれない。