アンス・ファティについて語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第171回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、アンス・ファティについて。今シーズン18歳にしてバルセロナのトップチームで活躍を見せるアンス・ファティ。宮澤ミシェルは、「昨シーズン、トップチームに帯同したことで学んだ振る舞いが生きている」と語った。

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10代後半の伸び盛りの選手を預かる監督ってのも、大変な仕事だよな。ケガをさせたら大問題だし、使う時間が短ければ文句も言われる。言うのは好き勝手だけど、監督には責任がついてまわるからね。本当、シンドい職業だよな。

久保建英をスタメンで起用しないことで、ビジャレアルのウナイ・エメリ監督はマドリード系のメディアから強烈な攻撃を受けているでしょ。彼らにしたらレアル・マドリードにやがて戻ってくる「若くて才能豊かな逸材」が、大きく開花させていく様を見たいってのがあるんだろうね。

もちろん久保をスタメンで見たいって気持ちはよくわかる。一気にブレイクしてもらいたいとも思っている。だけど、そのためには下地となる経験値を少しづつ積ませていく時期も不可欠だと思うんだよな。

これはバルセロナのFWアンス・ファティを見ていて、思いを強くしたんだよね。

ファティは今年10月31日で18歳になる選手で、昨シーズンにプロ契約を結んでクラブ史上二番目の16歳298日でデビュー。久保ともバルセロナの育成組織で一緒にプレーしていた逸材は、昨シーズンは大事に、大事に育てられていたんだよね。

トップチームに帯同して短い出場時間で試合経験を積み重ねながら、バルセロナのトップチームのサッカーに慣れるのはもちろん、ピッチ内外での振る舞いを学んだ。その成果が今季の開幕戦でいきなり見られた。

今季初戦となったビジャレアル戦でバルセロナのスタメンに名前を連ねると、左サイドから積極的に仕掛けていって、いきなり2ゴールの活躍。持ってる能力は底知れないよ。

感心したのは、この試合でメッシの決めたPKのシーン。PK自体はファティがファウルをもらって獲得したもの。PKを決めればハットトリックという状況だから、普通なら少しは蹴りたそうな素振りを見せると思うんだ。

だけど、ファティは不満げな表情ひとつしなかったよな。まあ、キッカーがメッシという時点で、「いや、俺が蹴る」なんてことを10代の選手が言えるわけはないんだけどさ(笑)。

それでも得点差が開いたなかでは、長いシーズンを見据えたら"絶対エース"に早々とゴールを決めて気持ちよくスタートを切ってもらわないといけない。開幕前にゴタゴタもあったしね。そういうこともしっかり理解しての振る舞いだったよね。

そして、これこそがバルセロナの将来を担うための英才教育を受けた選手の振る舞いなんだろうね。ファティは昨年の1年間でこういう部分を学んだんだろうな。

こうしたことも久保にも通じるものがあるよね。スタメンで起用されたい思いは誰よりも強いはずだけど、それを微塵も見せない。「目の前のチャンスを全力でつかみ取る」ことに集中している。こういう選手はやがてレギュラーを奪取する日が遠からず来るよ。

ファティについて言えば、クーマン新監督のもとでラ・リーガ第3節まではスタメン出場して途中交代で3得点。第4節のフェタフェ戦は先発の座をデンベレに譲ったものの、途中出場から見せ場も作っていたね。

ファティがスタメンを外れたのは、スペイン代表での活動や、10月21日からチャンピオンズリーグのグループリーグが始まることも関係しているだろうけど、それ以上に来週10月24日のクラシコを見据えてなんじゃないかな。

バルセロナの本拠地カンプ・ノウに宿敵レアル・マドリードを迎えての一戦。去年のカンプ・ノウでのクラシコはバルセロナが5-1でレアルを木っ端微塵に打ち砕いたけど、今年はどうなるのか。

昨シーズンのクラシコは2戦とも新型コロナウイルスの影響を受ける前に終了していたから、今回が史上初めての無観客での開催。ファティは昨シーズンはクラシコ第2戦に途中出場しているけど、スタメンとなれば初めて。アフターコロナに向けた新時代の扉を、この一戦でファティが強烈に開け放す。そんな予感がしているよ。

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