サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第174回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、清水エスパルスについて。リーグ戦での低迷が続き、シーズン途中にして監督交代に踏み切った清水エスパルス。宮澤ミシェルはその判断を評価すると語った。
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清水エスパルスが、ピーター・クラモフスキー監督を事実上の解任にして、後任に平岡宏章コーチを据えたけど、妥当な判断だと思うよ。
こういう難しいシーズンだから、結果が出なくても監督交代せずに乗り切ろうというクラブが多いのかもしれないけど、チームが低迷していたら監督の求心力はガタ落ちだからね。
「観客に対してどうなんだ」って考えたら、清水が監督を代えたことは評価していいんじゃないかな。
クラモフスキー監督は昨季まで横浜F.マリノスでヘッドコーチをつとめていて、清水も横浜FMでのスタイルを取り入れようとして招聘した。
ポゼッションをベースにして、リアクションではない攻撃的なサッカーをつくりたいという監督の意欲は、今季のチームからは伝わってきたよね。
開幕戦から攻撃的でおもしろいなと注目していたんだけど、清水の限られた選手層だと、あのサッカーを継続していくのは厳しかったね。
開幕から5連敗もあったし、クラモフスキー体制ラスト7試合は白星なしで25試合3勝17敗5分け。失点はリーグ最多の54失点。得点は23得点で、得失点差がマイナス23だもの。これだと解任もやむなしだよな。
横浜FMもアンジ・ポステコグルー監督を招聘した1年目は、新たなスタイルを浸透させようとしたことで、攻守のバランスを欠いて降格争いに巻き込まれたけど、2年目は15年ぶりのリーグ優勝したじゃない。
この前例があるから、清水も我慢強く継続すべきだったという意見もあるみたいだね。特に今シーズンは新型コロナ禍の影響でJ1からの降格はないんだから、「チャレンジはどんどんするべきだ」ってね。
でも、Jリーグはプロリーグで、お金を払って試合を観てもらっているんだぜ。チームの発展のためという理由で、実験みたいなサッカーを見せられても観客は困ると思うよ。
それに横浜FMと清水では、スタイル変更にかける覚悟がまったく違うから、そこを一緒にしたら横浜FMがかわいそうな気がするな。
横浜FMは今季は苦しいシーズンを送っているけど、ポステコグルー監督のもとでパワーフットボールを継続している。このスタイルは選手一人ひとりのクオリティーはもちろん、肉体的な負荷がハンパなく大きいから、選手層だって必要になる。それをクラブがしっかり理解しているから、選手を次から次へと獲得してくる。
じゃあ、それと比べて清水はどうなんだっていうことよ。ポゼッションサッカーを軸にしながら流行のサッカーを取り入れようとするのは簡単。だけど、それを本気で浸透させていくには、継続する覚悟がないと出来るものではないんだよな。
監督だけを連れてきたってどうにかなるものではないし、選手の質と層はそういうサッカーには不可欠だってことをクラブが理解していたのかは疑問が残るよな。
どこもかしこも、やれポゼッションサッカーだ、やれパワーフットボールだと理想を追いかけなくていいんじゃないか? 自分たちのクラブの身の丈に合ったサッカーをやって、勝ち点を稼ぐというのも立派なクラブマネージメントだからね。
極端な話をすれば、とびきり足の速い選手だけ集めてきて、カウンターサッカーに特化したチームをつくるのだっていいんだよ。それがJリーグのなかで、自分たちのクラブの特色として打ち出すことになるんだから。
サポーターだって、よそのクラブを矮小化した自分たちのチームを応援するよりは、こういうチームづくりの方が「自分たちのサッカーはこういうものだ」と胸を張れると思うんだけど、どうだろう。
清水は平岡新監督の初陣となったヴィッセル神戸戦に、クラモフスキー監督の時よりも攻守のバランスを守備に比重を置いたことが奏功して、3-1で勝利した。いま彼らにもっとも必要なのは勝利だから、いいスタートを切れたよね。
清水の残り試合は8試合。平岡新監督のもとで、来季につながるサッカーをしっかり構築して、来シーズンに強い清水を取り戻していくための自信を手にしてもらいたいね。