打撃の調子が上がらなくても4番で起用され続けたロッテの安田は、来期以降の覚醒が期待される。1年後輩の藤原と共に、ロッテに黄金時代をもたらす選手になれるか

人間は年を重ねるなかで怖さを知り、慎重になっていく。だが、時には怖いもの知らずの「若さ」が武器になることもある。コロナ禍に見舞われた今年のプロ野球でも、20歳前後の若武者が鮮烈な輝きを放った。

出世魚の代表格は、巨人の独走優勝に貢献した戸郷翔征(とごう・しょうせい)だろう。宮崎の聖心ウルスラ学園から入団して2年目の20歳。右腕をダイナミックに回して、横手に近い角度からボールを投げ込む変則右腕だ。

投法については入団前から、プロ関係者の間で「肩・ヒジに負担がかかる故障しやすいフォーム」といわれていた。そのため2018年のドラフト会議では上位指名されず、巨人の支配下最下位となる6位指名でプロ入りしている。

だが、巨人首脳陣は戸郷の特異なフォームを短所ではなく、長所ととらえた。「1年目は彼の持ち味と考えていじらないようにしよう」と、1軍から3軍まで投手コーチ全員の間で周知徹底。過去にはプロで変則フォームを矯正されてなんの変哲もない投手に成り下がるケースもあり、球団を挙げて戸郷の個性を守ったのだ。

すると、戸郷は1年目からファームで活躍。2年目の今季は先発ローテーションに加わり、9勝6敗、防御率2.76の好成績を収めた。

変則フォームは打者に恐怖心を与え、プロで球威もアップ。ドラフト下位指名とは思えないような存在感を発揮した。シーズン終盤に息切れしたものの、来季も重要な戦力になることは間違いない。

今季、パ・リーグ2位と躍進したロッテも若手の台頭が目立った。なかでも、井口資仁監督に4番打者に抜擢(ばってき)された安田尚憲は、根気強い起用に助けられる形で1軍定着を果たした。

履正社時代は「東の清宮幸太郎(現日本ハム)、西の安田」と並び称されたスラッガーで、しっかりとらえた打球は一瞬でスタンドへと消えていく馬力の持ち主だ。

17年のドラフト会議では清宮の外れ1位とはいえ、3球団の重複入札の末にロッテに入団している。タイミングの取り方に難があったものの、実戦のなかで改善されつつある。

今季は113試合に出場して規定打席に到達し、打率2割2分1厘、6本塁打、54打点。87試合で4番に起用された打者としては物足りない数字だ。

プロでは同期入団の村上宗隆(ヤクルト)に水をあけられた感は否めないが、「ウサギとカメ」でいえば安田は「カメ」タイプ。地道にコツコツと身につけたものが実を結ぶのは来季以降だろう。

さらにロッテでは、高卒2年目の藤原恭大も飛躍のきっかけをつかんだ。名門・大阪桐蔭で甲子園春夏連覇を成し遂げ、18年のドラフト会議では3球団から1位指名を受けたエリートだ。

1軍選手にコロナ感染者が続出するという非常事態で、10月6日に1軍に昇格。するとファームで培った思い切りのいいスイングと快足で活躍。26試合の出場ながら、打率2割6分、3本塁打、4盗塁をマークした。

1年前のルーキーイヤーはオープン戦で活躍して開幕スタメンを勝ち取りながら、すぐにファーム落ち。1年後の今季に、たくましく成長した姿を見せつけた。守備範囲が広く、低く伸びていくスローイングも魅力だけに、走攻守でファンを沸かせる外野手になるだろう。

リードオフマンタイプで20歳の藤原、スラッガータイプで21歳の安田が経験を積んだ意味は大きい。2本の大黒柱がしっかりと立ったとき、ロッテの黄金時代が幕を開ける。

阪神では、高卒2年目の小幡竜平が、守備力を評価されて1軍で54試合に出場した。

18年のドラフト会議では根尾 昂(中日)や小園海斗(広島)という目玉のショートが騒がれるなか、阪神が2位で指名したのが延岡学園のショート・小幡だった。

高校3年の春に甲子園に出場したものの、華々しい活躍はできず。しなやかな身のこなしはスカウト陣から一定の評価を受けていたが、非力さがネックとみられていた。それでも、阪神の田中秀太スカウトは小幡の指名を敢然と進言。自身も内野手として活躍しただけに、目利きは確かだった。

プロでは、1年目から名伯楽の高代延博2軍チーフコーチから英才教育を受け、守備の基礎を叩き込まれた。甲子園球場という土のグラウンドをホームグラウンドにする阪神だけに、ショートに安定感のある名手が入れば波及効果が大きい。大観衆にも動じない図太さも「阪神向き」といえそうだ。

2年連続でBクラスになった広島には、高卒3年目で先発ローテーションに入り、今季5勝をマークした遠藤淳志がいる。霞ヶ浦では3年春までほぼ登板機会がなかった右腕だが、広島は早くからマークしていた。しなやかな投球フォームに力強さが加わり、好投手の仲間入りを果たしつつある。

最後に触れておきたいのが、12球団屈指のホープの宝庫になった中日だ。

20歳の根尾、19歳の石川昂弥のドラフト1位コンビはファームで養成中ながら、近い未来の中日を担うスター候補。共に今季1軍初ヒットをマークして、足掛かりを得た。

さらに、19歳ながら攻守でスケールの大きさを感じさせる正捕手候補・石橋康太、高卒1年目ながらファームで高打率を残した岡林勇希ら、野手陣に好素材がひしめいている。今季8年ぶりにAクラスに返り咲いた中日だが、次世代も前途は明るい。

「金の卵」が「一流選手」へと孵化(ふか)する瞬間を見届ける。それもプロ野球観戦の醍醐味(だいごみ)のひとつだ。有望株の動向に目を凝らして、そのときを待とう。