憲剛の功績を考えれば、川崎も「中村憲剛フィールド」をつくっていいと思うと語るセルジオ越後氏

「まだできる」。ファンがそう思うのも当然だ。突然の引退発表には僕も驚いた。

川崎の中村憲剛が40歳のバースデーゴールを決めた翌日の11月1日、今季限りでの現役引退を発表した。川崎ひと筋18年、J2時代からチームを知るレジェンドの引退は感慨深いものがある。心からお疲れさまと言いたい。

サッカー選手に限らず、アスリートの引き際はタイミングが難しい。ボロボロになるまでプレーする選手もいれば、惜しまれながらもスパッと引退する選手もいる。正解はないし、本人にしかわからないこともある。

憲剛は年代別の代表に選ばれた経験がなく、大卒で川崎に入団したのも「J2なら試合に出場できる可能性が高い」と考えたからだそうだ。そして、チームと共に成長し、長い年月をかけてようやくタイトルを獲った。

そこから、強い川崎の時代をつくり、今季は圧倒的な強さを見せて首位を独走。若い選手も次々と出てきたし、40歳の自分がいなくなっても川崎はもう大丈夫。自分の果たすべき役割は果たした。そんな心境になったのかもしれないね。

振り返れば、あの華奢(きゃしゃ)な体でよく40歳まで頑張ったと思う。優れた技術を持っているのはもちろん、状況判断が素晴らしく、試合の流れを読む能力に長(た)けていた。だから、自分よりも体が大きく、身体能力の高い相手とも互角以上に戦えた。

川崎にはジュニーニョ、鄭大世、大久保、小林悠といいストライカーがいつもいるけど、彼らにパスを出す憲剛の存在が大きいのは言うまでもない。

また、ハートの強さも見逃せないよ。プレーぶりを見れば負けず嫌いなのはすぐにわかるし、素晴らしいリーダーシップを持っていた。試合中、チームに勢いをつけたいときに、お客さんを盛り上げるのもうまかった。

日本代表では68試合に出場したけど、戦術との兼ね合いもあり、それほどインパクトを残せなかった。

また、もし海外挑戦していたとしても、成功したかどうかは誰にもわからない。30歳過ぎに欧州のクラブからオファーがあったと聞くけど、年齢的なことも考えて断念したのだろう。 

ただ、それでも彼が偉大な選手であることに異論はないはず。存在自体が川崎の歴史なのだから。

カシマスタジアムには鹿島の功労者であるジーコの銅像がある。また、僕の古巣のコリンチャンスは、クラブの練習場に偉大な選手の名前をつけている。憲剛の功績を考えれば、川崎も「中村憲剛フィールド」をつくっていいと思う。

一方で来季の川崎には、惜しまれながら引退する憲剛の穴を埋められるかといういい宿題ができた。小林悠、谷口は今以上にリーダーシップを発揮できるか、同じ中盤の大島や田中碧は、家長に頼りすぎずに攻撃を仕切れるか。そこは見ものだ。

引退後、彼がどうするのかはわからない。頭のいい人だから、どこの世界に行っても活躍すると思う。ただ、もし指導者の道を歩むのであれば、そのままチームに残るのではなく、一度外に出て、いろいろなものを吸収してから、いつか川崎に戻ればいい。

まあ、まずはその前に残りのシーズンもしっかり活躍してファンを楽しませること。僕に言われるまでもなく、本人もそう思っているだろう。川崎の天皇杯初優勝に貢献して有終の美を飾る、そんな最高のシナリオを狙っているんじゃないかな。楽しみだね。

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