赤ヘルV奪回祈願の特別対談。3連覇を牽引した「セ・リーグナンバーワン捕手」會澤翼(手前)が、カープのレジェンド・江夏豊に「強いカープ」の復活を誓う! 赤ヘルV奪回祈願の特別対談。3連覇を牽引した「セ・リーグナンバーワン捕手」會澤翼(手前)が、カープのレジェンド・江夏豊に「強いカープ」の復活を誓う!

球団史上初のリーグ3連覇の翌年は4位、今年は5年ぶりの負け越しで5位。カープの低迷が続いている。

カープOBの江夏豊氏は、チームの精神的支柱である會澤翼(あいざわ・つばさ)を「セ・リーグを代表するキャッチャー」と評する。ふたりが語り合った、今季の苦闘の要因と再浮上へのカギとは?

■低迷の要因は3連覇の「慢心」

江夏 あなたとこういう形で話すのは初めてだよな。

會澤 そうですね。よろしくお願いします。

江夏 ずっとゲームを見ていて、注目はしとったんだよ。

會澤 ありがとうございます。

江夏 出身は茨城のどこ?

會澤 日立になります。

江夏 日立といったら、もう福島が間近じゃない?

會澤 ええ、北のほうですね。

江夏 高校は水戸短期大学附属。茨城で高校野球といえば、常総学院というイメージがあるけど。

會澤 常総は話がなかったんです、中学時代に。それで水戸短大附属のほうから声をかけていただきました。

江夏 高校通算35本塁打か。これはすべてフェンスを越えたホームラン? 原っぱで打ったんじゃないだろ?

會澤 原っぱじゃないです(笑)。

江夏 それなら大したもんだ。俺だって高校時代、練習試合とかも含めたら100本ぐらい打ってるよ。

會澤 ホントですか?

江夏 4打数4安打で4ホーマーなんてのもあった。

會澤 すごいですね!

江夏 当時はね、投げることよりか打つほうが好きだった。投げるほうはコントロールに自信がなかったからね。

會澤 それは意外でした。

江夏 で、高校からカープに入って、もう何年目になる?

會澤 14年目になります。

江夏 2006年にドラフト3巡目で入団して、1軍の試合に出たのは09年か。

會澤 3年目ですね。

江夏 初めの2年間は肩のケガで出られなかったらしいけど、当時のカープのキャッチャーは強力だった?

會澤 石原(慶幸)さん、倉(義和)さんという先輩がいましたので。

江夏 それでも徐々に出番を増やして、カープが3連覇(16~18年)したときにはあなたが正捕手になった。この3連覇の要因は、緒方(孝市)前監督が1番ショート田中(広輔)、2番セカンド菊池(涼介)、3番センター丸(佳浩)、そしてバッテリーをつくり上げて、センターラインを固めたことだよね。

會澤 そうでしたね。

江夏 それと、リリーフ陣。今村(猛)、(ジェイ・)ジャクソン、中﨑(翔太)の7、8、9回が完璧にハマった。ただ、中﨑は3年目までは年間通して1軍で投げた経験がなくて、実績もほとんどなかった。

緒方監督はそういうピッチャーを15年から抑えに使って、翌年からの3連覇につながっていったわけだけど、そのあたりの判断は、見ていて怖くなかった?

會澤 中﨑はもともと気持ちが強い子だとは思っていたんですけど、すぐに抑えで結果を出せるのはすごいなと思いました。

江夏 すごすぎるよ。実績なしで抑えになったんだから。それでね、その当時と比較するのは寂しいことだと思うけど、昨年は4位、今年は5位とチームの成績が下がった。昨年の終盤に負けが込んだときからカープはおかしくなったような印象があったんだけど、あなた自身、マスク越し、もしくはベンチから見ていてどう感じた?

會澤 やはり、「3連覇したんだ」という慢心が、多少なりともどこかであったのかな、と感じていました。

江夏 自信じゃなしに慢心か。

會澤 昨年に関してはそうでした。どうやって勝ってきたか、その感覚をひとりひとりが取り戻せなかったのかなと。

江夏 でも、3連覇当時のメンバーを見ると、丸は抜けたけど、けっこう残っているよね? 菊池を筆頭に田中、そしてあなたがいて。チームが変わった、という印象はなかったけど。

會澤 ただ、相手チームからのマークが厳しくなったんです。いいピッチャーをどんどんぶつけられている、と感じていましたし。そこでどうしても、調子の波が激しくなってしまったのかなと思います。

江夏 それはあなたがグラウンドで、相手と対峙(たいじ)しているときに肌で感じたこと?

會澤 感じていました。僕自身、バッターボックスに入れば、相手バッテリーが以前とは違った配球をしてきましたし、ピッチャーの球を受けているときも、「あれ? ここ打たれるんだ......」というケースも多くなりましたので。

江夏 そういう面では、ピッチャーを引っ張る立場のあなたは大変だったと思う。

會澤 3連覇のときは、先発陣が6回まで、できれば7回までなんとかゲームをつくろう、そこから後は気にしなくていいんだから、という戦い方ができていました。それこそ7、8、9回が決まってましたので。それが昨年、今年に関しては後ろがしっかりしていなかったので、そこまで考えなくちゃいけない、という難しさがありました。

■カープ捕手史上最高のバッティング

江夏 まして、今年はあなた自身、頭に打球を受ける大変なアクシデントもあって、出場が少なかった。で、これはホメるべきなのかどうか、あなたは3年連続でデッドボールが2桁なんだよな。当たりにいってるのか、逃げるのがへたなのか、どっちだ?

會澤 えーと......。

江夏 ふっふっふ(笑)。

會澤 当たりにいこうとは思ってないですけど......。

江夏 痛いもんなあ。

會澤 めちゃめちゃ痛いんですけど、逃げたら打てない、と思っているので。それだけ不器用なんだと思います。

江夏 あなたのバッティングを見ていると、そんな不器用そうなタイプには見えないけどね。右打ちのときも、鋭い打球が遠くに飛ぶだけのスイングをしているんだから。

會澤 ありがとうございます。

江夏 なんといっても、以前はカープの8番、9番はいないも同然だったのが、あなたは7番、6番、うっかりしたらクリーンナップに入るんだからね。あなたの打撃は過去のカープのキャッチャーのなかで、一番いい結果を残してるんじゃない?

會澤 打率はわからないですけど、ホームラン数に関してはそうみたいですね。

江夏 自分がカープにお世話になった頃のキャッチャーの水沼(四郎)、道原(裕幸)、達川(光男)に比べると、あなたの打撃は途轍(とてつ)もなく強力だよ。キャッチャーとしての守りのほうでは、ピッチャーとのコンビネーションはどのへんをポイントにしている?

會澤 コミュニケーションが一番大事だと思うので、なるべく試合中も会話するようにしています。「今日は最初こうだったけど、こうなってきてるね」とか。やっぱり、試合のなかでいろいろなことが変わっていくじゃないですか。いいボール、悪いボールも出てきますし、「いいよ、いいよ」と言うだけではダメな部分があるので。

江夏 今ね、12球団のゲームを見ていて感じるのは、キャッチャーがみんな優しいんだよね。

會澤 そうだと思います。

江夏 キャッチャーがピッチャーを叱る、ということがまずないもん。われわれの時代はけっこう怒られたよ。阪神に入ったときは辻佳紀(よしのり)さん、辻恭彦(やすひこ)さん、和田徹さんと3人の先輩キャッチャーと組んだけど、みんな俺に怒ってきた。

でも、決して憎くて怒るんじゃないんだよね。キャッチャーが怒るということは、絶対にやってはいけないことをやってしまったからであって。そんなときにはゲーム中でも大声で怒られたものだけど、あなたにはできる限り、ピッチャーとコミュニケーションを取ってもらいたい。ピッチャーの性格を把握しておくことも絶対に大事だから。

會澤 わかりました!

■新たなライバルとなる若手キャッチャーたち

江夏 そして、あなたにとって、追いつき、追い越せの先輩であった石原が今年で現役を終えた。あなたにとってどういう存在だった?

會澤 ライバルでもあり、尊敬する先輩でした。一番アドバイスをいただいた方でしたから。今あらためて、それは本当に珍しいことだと思うんですよね。ライバルではあるんですけど、技術的なこと、配球面のこと、ピッチャーとどう向き合うかということも、すごく教えていただきましたので。

江夏 普通、ライバル意識があれば、なかなかアドバイスは送りづらいものであって、聞くほうも聞きづらい部分があると思う。あなた自身から素直にそういう言葉が出てくるということは、よっぽど重要な人だったんだろうね。何年先輩だ?

會澤 年齢でいうと9歳、年数でいえば5年先に入団されています。

江夏 それだけの年の差、年数の差があれば、変なライバル意識はなかったんじゃないかな。アドバイスも素直に言えると思う。それで今度は、あなた自身だよ。若いキャッチャーの面倒を見るのか、それとも背中を見せて引っ張っていくのか、先輩としてどういう接し方をする?

會澤 今でも気づいたことは話してあげるようにしていますし、向こうからも、「こういうときは、どういうことを意識されてますか?」とか、話してきてくれるんです。僕も包み隠さず、教えてあげるようにしています。

江夏 そこらへんは難しいところだよね。あまり後輩をかわいがりすぎたら、周りから変に思われるし。でも、今年は坂倉(将吾)という若いキャッチャーが出てきたじゃない? バッティングもいいし、彼に打ち勝つにはかなりの力がいるよ。

會澤 はい(笑)。若い子たちが出てきてくれるのはチームにとってありがたいことですし、僕自身、「まだまだレギュラーの座は安泰じゃない」という気持ちにさせてもらえますね。

江夏 地元の広陵高から入った中村(奨成[しょうせい])も魅力がある。

會澤 いずれはいいキャッチャーになれると思います。

江夏 それだけ若い人が追っかけてきてるわけだから、ひとりだけ教える、というわけにもいかないよね。

會澤 そうですね。坂倉にしても、中村にしても、10歳ぐらい下なんです。だから、僕が言うのもなんですけど、このふたりが次のレギュラーに向けて競い合っていけば、もっともっとキャッチャーのレベルも上がってくると思うんです。

江夏 チームというものは、みんな仲間でありライバルでもあるから、難しいところはあるよね。ポジションは9つあっても、ゲームに出られるのは各ポジションひとりずつなんだし。

そのなかであなたは頼れる先輩として、チームのキャッチャーのレベルを上げてもらいたい。そして、勝てないカープはもう今年で終わりにして、来年もう一度、「強いカープ」を見せてくれるかな?

會澤 頑張ります!

江夏 そのためには、あなた自身がゲームに出て、しっかりピッチャーを引っ張らないと。今年みたいに頭に打球を食らうことなく、体を大切に。それから、デッドボールの逃げ方がうまくなるように。

會澤 はい(笑)。

江夏 もう4年連続2桁のデッドボールなんて懲り懲りや。見ていて心配になるから(笑)。

會澤 わかりました。ありがとうございます!

江夏 よっしゃ、ありがとう!

●會澤翼(あいざわ・つばさ)
1988年生まれ、茨城県出身。2006年、水戸短期大学附属高校からドラフト3巡目で広島入団。14年に10本塁打を放ち台頭し、正捕手として16~18年のセ・リーグ3連覇を牽引した。18年に13本塁打で球団捕手最多本塁打記録を更新。19年にはリーグトップの得点圏打率を記録するなど、リーグを代表する「打てる捕手」。17年から3年連続でベストナイン賞を受賞

●江夏豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ