1R2分48秒TKO、勝者・堀口恭司――。
2020年大晦日、さいたまスーパーアリーナにて開催された『RIZIN.26』のメインイベント。「RIZIN史上最大のリベンジマッチ」と謳われた朝倉海(27歳/トライフォース赤坂)vs堀口恭司(30歳/アメリカン・トップチーム)のRIZINバンタム級タイトルマッチは、試合開始早々に挑戦者・堀口が王者・朝倉の足を4発のカーフキックで破壊。カウンターからグラウンドのパウンド連打で、わずか168秒でレフェリーが試合を止めた。
2019年8月、当時RIZINとBellatorのバンタム級2冠を保持していた堀口が朝倉に68秒KO負けし、「ジャイアントキリング(番狂わせ)」「朝倉海時代の到来」など、格闘技ファンの声が割れた試合から1年半。再びベルトをその手に取り戻した堀口が、リング上で「イージーファイト」と叫んだ本当の理由とは?
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▪︎「イージーファイト」は相手ではなく自分に言った
――年明け早々、劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』を観たそうですね。
堀口 面白かったですね(うれしそうに)。何かのために、人のために命を賭けるとか、そういう部分がカッコ良かったです。心を打たれましたね。
――「よもやよもやだ」の「炎柱」煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)ですね。
堀口 そうです、そうです、はい。
――堀口さんは漫画を読むんですか?
堀口 そんなに読まないですけど『ワンパンマン』とか『グラップラー刃牙』は読みますね。
――『鬼滅の刃』は『週刊少年ジャンプ』で連載されていました。ジャンプと言えば「友情・努力・勝利」です。
堀口 『鬼滅の刃』にも「友情・努力・勝利」は感じましたね。自分もその世界は好きですよ。
――では、大晦日の朝倉海戦も「友情・努力・勝利」でしたか?
堀口 そう......ですね(笑)。それはあったと思います。今回、マイク・ブラウン(コーチ)をはじめ、いろんな方に助けてもらいながら試合に臨んだので。
――年が明け、勝利から時間が経ちましたけど、率直な感想は?
堀口 うーん、今回、試合は2分ちょっとですか(168秒)。そんなに長くやったわけじゃないので、試合をした感覚はあんまりないですよね。
――試合をした感覚がない?
堀口 毎回そんな感じですけどね(笑)。ただ前回、海くんに負けた時(2019年8月18日『RIZIN.18』)は親が泣いていたので、「この野郎、やり返してやる」っていうのはありましたよね。
――堀口さんの過去の試合を振り返ると、中間距離から間合いを詰めて打撃を当てるスタイルが象徴的だったと思うんですけど、今回はその戦法をとりませんでした。
堀口 そうですね。
――今回の戦法は、いつ頃決めたんでしょうか?
堀口 そんなにステップを使わなくてもイケるっていうのは最初からわかっていました。いつからかっていうと、一昨年に手術してリハビリして、動き出したのが去年の夏くらいでしたけど、その頃にはもうそういう感じでしたね。
――今回の決定打になったカーフキック(※ふくらはぎを狙うローキック)で行こうっていうのも、その段階から?
堀口 いや、カーフキックはもっと前から考えていましたよ。
――もっと前!
堀口 もともとは一昨年の大晦日に(朝倉海との再戦が)予定されていたじゃないですか。だから、その再戦の話が聞こえてきた頃にはカーフキックは考えていました。だから今回は楽でしたよね。
――楽というと?
堀口 相手が海くんって決まっていたので、すごく楽に(戦略を)作れましたよね。
――「RIZIN史上最大のリベンジマッチ」と煽られていましたけど、堀口恭司と朝倉海の実績を考えるとどうしても大きく差があるし、いろんな取材をした上で後出しジャンケン的に言わせてもらえるなら、勝つのは堀口だろうなという予感はありました。
堀口 はいはいはい。
――これは朝倉海選手が弱いってことじゃなくて、堀口恭司が強すぎるということで。
堀口 ええ(笑)。
――ただ、どう勝つのか。そこに興味があったんです。
堀口 まあでも、今回は向かい合った時に、(朝倉海が)緊張していたのか、「海くん、動きが固いなあ」と思いましたね。
――実際に試合後、堀口さんはセコンド陣に向かって「イージーファイト!」と叫んでいます。
堀口 あれについて色々言う人がいますけど、相手を侮辱してとかそういうつもりは全くなくて、英語ではよく使う言葉なんです。自分自身、ケガも含めてこの1年以上やってきたことが、「俺にとっては大したことないよ」とか「余裕だよ」っていう意味なんですよね。
――朝倉海選手に対して言ったわけではないと。
堀口 もしそのつもりだったら面と向かって言ってますよ(笑)。でも、まあ、しょうがないですよね。自分も言葉数が少なくて、勘違いさせちゃう方なので。
――でも、プロだから勘違いさせてナンボの部分もありますもんね。
堀口 まあ、そうですね(笑)。だからそれで誰がどう捉えようが、自分さえブレなければいいと思っているので。全く気にしてないです。
――試合2日前の個別インタビューのときに「不安は一切なし」と言っています。
堀口 なかったですね。
――実は、ほんのちょっとだけ、ここが不安だったっていうのがあったりしなかったですか?
堀口 まったくないですね。
――まったく?
堀口 不安があったらあんな蹴り(※靭帯を切ったほうの足での蹴り)はしないですよ(笑)。自分は練習も試合のようにやるので、実際の試合も練習の時と同じ感覚でやるんです。だから、まったく怖くないですね。緊張もしないし。
――試合が特別な「非日常」ではなく、「日常」なんですね。
堀口 そうですね、はい。だって毎日練習しているんですから、全然同じですよ(笑)。
▪︎朝倉海との再戦は「もういいんじゃないか」
――今回、再戦が実現するまで1年4ヶ月あったので、様々な方が勝敗予想をしていました。中には堀口選手の連敗を予想した声もありましたけど、それを聞いてどう思っていましたか?
堀口 基本的に(そういった予想は)聞かないんですけど、入ってきちゃうものもあるから、「勝手に言ってろ」と。俺以外の人が何を言おうと、答えを知っているのは俺しかいないじゃんって。そう思っているから、誰が何を言おうがまったく関係ないですね。
――試合後には、榊原信行CEOから「再戦」という話も出ていました。
堀口 まあ、再戦って言われても、その前にやることがあるので、自分は。だからやってもいいんですけど、やることを終えてからかなっていう感じですよ。
――例えば、トーナメント戦でお互いが勝ち上がって決勝で、というパターンならともかく?
堀口 それなら話は別ですけど、まあ......、やらなくてもいいんじゃないかと思っちゃいますけどね。
だって1回目は向こうが勝ちましたけど、今回はこっちが勝って。もう1回やる意味あります?(笑) もういいんじゃないかって思っちゃいますけどね。
――試合後、兄の未来選手が「堀口選手がそうさせたのか、(海の)力みがすごくて、いつもの力が出し切れていない感じがした」と語っていました。
堀口 自分が(力を)出させなかった、というのが合ってると思います。
――そう考えていくと、前回は「モチベーションが上がらなかった」というのが一番の敗因だったと思いますか?
堀口 それもあったのかもしれないですけど、カラダがボロボロだったっていうのもありますね。ホントに前回は動けなかったので、しょうがないなって。それは自分の反省点でもあるし。
ただ、前回は負けは負けとして自分は認めているので、別にそこは何も言うことはないし。それと1勝1敗なのでイーブンっていう人もいますけど、自分は別に敵だとは思っていないですし。
――今回の試合は大きな反響がありましたか?
堀口 ありましたね。やっぱり一度負けて、ケガから復帰するっていうストーリーもあったから、みんなすごく喜んでいましたね。名前は言わないですけど「よくやってくれた」っていう人もいて、(朝倉兄弟は)アンチも多いんだなって思いました(笑)。
あとは大晦日に地上波の全国放送でしかも生放送に出たってことで、(SNSの)フォロワーも増えましたよね。そのくらいですかね。声をかけてもらえる率は増えましたね(笑)。
▪︎天心vs武尊は「幻想のほうがデカくなっちゃってる」
――大晦日のRIZINでは、自分以外の試合だと誰の試合が目に止まりましたか?
堀口 シバターが面白かったですね(笑)。話題性ナンバーワンじゃないですか。
――率直な印象は?
堀口 最初は「大丈夫かよ」と思いましたけど、意外とやってみたら、総合の試合を何度もやっていたシバターさんがけっこうやったっていう。
――HIROYA選手に一蹴してほしかった、という声もありました。
堀口 体重差も(10kg以上)あったし、一方はキックボクサーで一方は総合格闘家だったら、総合の試合をやれば勝ちますよね。その点で言えば、HIROYAくんはかわいそうだったなと。
ただ、格闘技をもっといろんな人に知ってもらうには、そういう人も必要なんじゃないかと思いましたね。
――もうひとつ、五味隆典vs皇治による事実上のボクシングルールが物議を醸しました。
堀口 なんでボクシング? キックボクシングにすりゃいいじゃん、と思いましたけどね。
――あと、K-1の武尊選手来場も話題になりました。
堀口 どうなんですか? それ(那須川天心戦)って盛り上がるカードなんですか? 自分は客観視できないので、そこまで盛り上がるのかなっていう疑問はありますね。
――一部で非常に期待値が膨れ上がっているので、それを超えられるかどうかはやってみないとわからないですよね。やらなきゃよかった、となる可能性も十分あり得る、実はバクチ的なカードなのかもしれない。
堀口 幻想のほうがデカくなっちゃってるっていう。
――かもしれないですね。例えば、あえてひねりを加えて、堀口vs武尊というのはありますかね?(笑)
堀口 なんで、また自分が立ち技をやらなきゃいけないんですか(笑)。まあ、別にいいんスけど、自分もやることがありますからね、意外と。
――次のRIZINは3月14日に東京ドーム大会と発表されて、堀口さんがBellatorのバンタム級王者、フアン・アーチュレッタと戦うという声も上がっています。
堀口 まあ自分は今回、1月いっぱい休むつもりなので、アメリカに戻って練習して対策を立てて、また日本に来て隔離されて......ってなると、3月、4月の試合は厳しいかなと。5月以降なら、相手はアーチュレッタでもいいかなとは思っています。
――1月いっぱい日本を満喫すると。
堀口 日本で(趣味の)釣りもしたいと思っているので(笑)。
――少なくとも春のドーム大会で堀口恭司は見られない?
堀口 自分はそこにはいないですね(笑)。
――ちなみにドーム大会に堀口恭司が出るとして、対戦相手が誰だったら一番面白いのか。あり得ない相手を含め、いろいろと考えてみたんです。
堀口 はいはいはい。
――そしたら、一番ドームに似合う対戦相手だったのは、やっぱり山本KID徳郁さんだったんじゃないかと。
堀口 いやー、自分は嫌ッスね。師匠とやるっていうのは嫌ッスね。
――KIDさんは、堀口さんの中間距離から間合いを詰めて打撃を打つ戦法を、「あれは堀口にしかできない」と言っていましたけど、もしKID戦が組まれたらどう闘いますか?
堀口 そうッスね。自分は海くんとやった時のような闘い方をしますね。
――というと?
堀口 やっぱKIDさんは一発がある方なので、それをもらわないようにもらわないように間合いを詰めて闘います。
――わかりました。では2021年の目標は?
堀口 近々で言うと、まずは怪我で返上したBellatorのベルトをまた巻かないとなっていうのはありますね。だから今年は、昔の栄光をしっかり取り戻すってことじゃないですかね。
――今回奪還したRIZINのベルトは米国の自宅に持って帰りますか?
堀口 いや、自分はマネジメント会社のほうに置いて帰ります。
――中には添い寝したり、抱いて寝る人もいるって聞きますよね。
堀口 ヘぇ~。自分はそういうことに興味ないですね(笑)。
■堀口恭司(ほりぐち・きょうじ) 1990年10月12日、群馬県出身。165cm、61.0kg。アメリカントップチーム所属。幼少期から伝統派空手を学び、故・山本"KID"徳郁のKRAZY BEEに入門。修斗で王者に輝いた後、アメリカのATTに移籍、UFCではフライ級ランキングで最高3位まで上り詰める。18年大晦日にBellator軽量級最強の男、ダリオン・コールドウェルから一本勝ちを収め、初代RIZINバンタム級王者に輝く。翌19年6月にはBellator世界バンタム級タイトルマッチで勝利し、RIZIN・Bellator同時制覇という偉業を成し遂げた。19年、怪我により長期戦線離脱を余儀なくされRIZINとBellatorの2つのベルトを返上。20年大晦日、朝倉海を下しRIZINバンタム級王者に返り咲く。Twitter:@kyoji1012 instagram:kyoji1012