冨安健洋について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第１８３回。
現役時代、Ｊリーグ創設期にジェフ市原（現在のジェフ千葉）でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回も、宮澤ミシェルが注目する東京五輪世代のサッカー選手を紹介する特別編をお届け。第２回目に紹介するのは、セリエＡのボローニャに所属するＤＦ・冨安健洋（とみやす・たけひろ）。世界のトップリーグで活躍する若き日本人ＤＦに宮澤ミシェルも「驚きしかない」と語る。
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冨安健洋がまだ２２歳で、東京五輪世代であることには驚きしかないよ。
日本代表にデビューしたのが２０１８年１０月にあったパナマとの親善試合。そこからあれよという間にレギュラーに定着して、２０１９年は１６試合、２０２０年も３試合に出場した。
３２歳の吉田麻也とＣＢコンビを組む姿は堂々としていて、日本代表に欠かせない存在感を放っている。もうずいぶん長いこと日本代表でやってきたような貫禄すら漂っているし、Ｗ杯ロシア大会のベルギー戦に冨安がいたらなって思っちゃうもんな。
日本人ＤＦはフィジカル的になかなか世界に出ていけないけれど、冨安は身長が１８８ｃｍあって外国人選手との空中戦では競り合いで一歩も引けを取らない。
だけど、彼の良さはそこだけじゃないんだよな。１対１が強くて、スピードがあって、フィード能力も高い。状況を読む力があるし、戦術眼もしっかりしているから、ポジションはＣＢだけでなく、ボランチでもサイドバックでも高い次元でプレーできる。
こんなすごい選手がよくぞ日本から育ってくれたという感じしかないよ。
アビスパ福岡の頃から注目していたけれど、２０１７年５月に行なわれたＵ－２０Ｗ杯に出た頃の冨安は、身体能力は高いけれど、まだまだ粗さの方が目立つ選手だった。あの大会で冨安と一緒にＣＢを務めた中山雄太（ズヴォレ）の方が、高さはないけれど、ＣＢとしては気の利いたプレーをしていたんだよね。
だけど、アビスパ福岡で当時の井原正巳監督のもとで経験を積んだことが、その後の飛躍への土台になったんだろうね。守りに追われるチームだったことも冨安にはよかったんじゃないかな。
２０１８年にベルギーのシント＝トロイデンに移籍して、外国人選手のなかで揉まれながら、身体能力のポテンシャルの高さが一気に開花したよね。そして、彼のすごさは身体能力の高さもあるけれど、それ以上に適応能力の高さにあるよな。
昨シーズンはイタリア・セリエＡのボローニャに移籍して、右サイドバックとして起用されて評価を高め、今シーズンは本職のＣＢで勝負している。与えられた仕事に適応して、自分の持ち味を出せる。とても２２歳の選手とは思えないね。
今シーズンのボローニャの試合結果だけを見たら冨安がやられているかのように見えるけど、あれは前線や中盤からの守備が機能していない中での結果だからね。逆の見方をすれば、冨安が個の力を伸ばすには最適な環境とも言えるしな。
ただ、世界を見渡せば２２歳でトップクラブでバリバリやっている選手は少なくない。冨安もすごい速度で成長しているけれど、そこと比べたらまだまだ超えていくべきハードルはある。
だけど、今すぐビッグクラブに移籍して出場機会に恵まれない状況に置かれるよりは、その下のレベルのクラブでコンスタントに試合に出ながら、しっかり自分を高めていくことが重要だよな。その点で冨安の歩いてるキャリアは、最良の選択に見えるよ。
日本代表にとっては、ここから１０年くらいは冨安を計算できるのが大きい。いまは吉田麻也から代表でのイロハを学んでいるけれど、２０２２年以降は冨安がＤＦ陣のリーダーになっていくのは間違いないからね。
それに冨安がすでに世界でバリバリやっていることの影響力はとてつもないと思うよ。同世代にしたらノンビリ構えていられないし、下の世代にすれば冨安の活躍によって、日本人ＤＦでも世界に出ていけるという希望になっているだろうしね。
東京五輪のことを考えれば、五輪代表に冨安がいたほうがいいに決まっている。でも、冨安が五輪代表に加われなかった場合、ほかのＤＦ陣は『冨安が不在のせい』と言われたくないから、目の色を変えて頑張ると思うんだよな。
吉田麻也が台頭したときも日本のＤＦ陣全体のレベルがグッと上がった印象だったけど、冨安もさらにレベルを高めてくれる存在になっているよな。彼がここからステップアップするごとに日本代表は強くなっていく気がするからね。いまの時点でも十分すごいんだけど、どこまで伸びるのか底が見えていないってのが、冨安の本当の価値なんだろうな。
