サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第184回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回も、宮澤ミシェルが注目する東京五輪世代のサッカー選手を紹介する特別編をお届け。第3回目に紹介するのは、川崎フロンターレに所属する田中碧(たなか・あお)。宮澤ミシェルは、ボランチとして大きな成長を遂げている田中碧に期待を寄せているという。
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リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドのように得点をバンバン決められるストライカーは目立つけれど、いざチームをつくっていこうとなったら、最初に考えるのは攻撃も守備もできる選手だと思うんだよな。こういう選手がいれば、メンバーは組みやすくなるからね。
東京五輪世代でそうした存在として期待しているのが、田中碧だよ。
同世代には冨安健洋がいて、攻撃的なMFには堂安律や久保建英がいるから、どうしても彼らに目が向いてしまうことが多い。だけど、この世代の攻守の要と言えるほどの成長を、田中碧は遂げていると思うよ。
日本代表に限らず、東京五輪世代にも海外リーグのクラブに所属する選手が増えているなかで、田中碧はJリーグだからね。そこも応援したくなるところだよな。
とはいえ、田中碧はJ1王者の川崎フロンターレでバリバリのレギュラーとして試合に出ている選手だからね。高いレベルの選手たちに囲まれているから、ズバ抜けた存在にはなかなかなりにくいけれど、仮にほかのチームでプレーしていたら、圧倒的な存在になっていると思うよ。それだけのプレーを川崎Fで見せているからね。
それに海外組だからといって、全員が川崎Fでレギュラーになれるかといったら、そうじゃない。だからこそ、田中碧があの川崎Fでコンスタントに試合に出ているっていうのは相当のもんなんだよ。そこをちゃんと見てあげないとダメだよな。
田中碧は足元のテクニックはあるし、見た目がシュッとした顔立ちをしているから、スマートなプレーをする選手かと思っちゃうんだけど、それだけじゃないんだよ。
泥臭いプレーを厭(いと)わないし、インテンシティーの強度も高い。必要とあれば無骨なファイターにもなれるってのが、ボランチとしてはやっぱり重要なポイントだよ。
守備での1対1も強いけれど、彼の良さはパスカットの上手さにもあるんだよ。相手にパスコースのスキを見せておいて、そこを使ってパスを通そうとすると、さっと足を出してボールを奪っちゃう。
こういうプレーが出来るのは、田中碧がゲームの状況や流れ、敵味方の立ち位置をしっかり把握できているからなんだよな。これはボランチとしては最高の能力だよ。
しかも、攻撃面でも非凡なものを持っているよね。ゴール前に走り込んでシュートも打てるし、サイドに流れていって前の選手を追い越したりして、そこからクロスも入れられる。運動量もあるからね。
鮮烈だったのは、2019年の東京五輪世代がブラジル遠征したときの、2ゴールだよな。ブラジル五輪代表を相手にミドルシュート2発を叩き込んでさ。あれは爽快だったね。Jリーグでもああいうミドルシュートをもっと見せてもらいたいよ。
日本人のボランチの選手の多くは、攻撃か、守備かのどちらかの一方に偏ることが多いでしょ。ボールは奪えるんだけど、パスはイマイチとか、攻撃に転じたときはパスの起点なれるんだけど、守備はもうひとつとかね。
その点で、田中碧は新しいタイプの日本人ボランチ像をつくってくれる気がするんだよな。攻撃もできて、守備もできるっていう。そのためには、攻撃も守備もまだまだスケールアップしなくちゃいけないけれど、それができるだけの可能性を持っていると思うんだ。
いま日本代表のボランチは28歳の柴崎岳と、27歳の遠藤航が軸にいる。柴崎はパスや攻撃の組み立てに特長があって、遠藤はボール奪取能力からの攻撃参加にある。
22歳の田中碧にはここからもっと成長していってもらって、この二人とのポジション争いに加わってもらいたいし、追い越してもらいたいよ。
日本代表の攻守の要は田中碧、そうなる日は遠くないと期待しているんだ。