走力強化が話題になった健大高崎(群馬)だが、コロナ禍で連係練習が難しくなった影響もあり、個人で伸ばしやすい長打力を徹底して磨いた

今春、甲子園球場に個性派チームが集結する。1月29日に第93回選抜高校野球大会(センバツ)に出場する32校が発表され、ユニークな高校が数多く選出された。

筆頭格は九州地区から選出された大崎(長崎)である。大崎は長崎県西部に浮かぶ大島(西彼[せいひ]大島、西海[さいかい]市)にある公立高校。通行料無料の大島大橋が西彼杵(にしそのぎ)半島とを結んでいるため車で移動できるとはいえ、大島はれっきとした離島。4年前には部員わずか5人と廃部寸前だった野球部をよみがえらせたのは、ひとりの名指導者だった。

その清水央彦(あきひこ)監督は、清峰(せいほう、長崎)では吉田洸二監督(現・山梨学院)とタッグを組み、無名の公立高校を全国屈指の強豪校へと育て上げた。その後、やはり長崎の佐世保実業の監督となり、低迷していた同校を甲子園出場へと導いている。

一時は、指導上のトラブルで高野連から厳しい処分を受けて表舞台から姿を消していたが、指導者仲間を中心に名誉回復の運動が起こり、結果的に処分が解除。西海市の依頼を受け、2018年春より大崎の監督に就任した。

大崎には清水監督を慕って、佐世保市内を中心に選手が集まった。とはいえ、プロスカウトが熱心に追いかけるほどの逸材がいるわけではない。グラウンドや寮も自治体の支援を受けているとはいっても、強豪私学とは比較にならない質素な設備である。

筆者は1年前の1月に大崎のグラウンドを訪れている。練習にはごく平凡な力量の選手も交じっており、その10ヵ月後に秋季九州大会で優勝するチームに成長するとは想像できなかった。県内の別の離島・度島(たくしま、平戸市)から入学し、高校で初めて野球部に入部したという井元隆太が背番号13を獲得しているように、叩き上げの野球部といえる。

エース右腕の坂本安司は安定感抜群で、九州大会では3完投勝利と優勝の原動力になった。打線も九州大会で全試合逆転勝利と粘り強さがある。九州大会には多くの島民が駆けつけ、大声援で後押し。離島チームといえば、06年に甲子園春夏連続出場を果たした八重山商工(沖縄)の例もある。この春は甲子園で"大崎旋風"が吹くかもしれない。

毛色の変わったチームとして注目したいのは、京都国際である。甲子園では試合途中に各校の校歌が流れるが、京都国際の校歌の歌詞はすべて韓国語。学校の前身が京都韓国学園であり、かつては野球部員の多くが韓国籍の選手だった時代もあった。

現在は1学年当たり20人の部員全員が日本人で、コロナ禍でオリエンテーションが中止になったこともあり、まだ校歌の歌詞を覚えきれていない部員もいるという。

今大会が甲子園初出場になるが、近年は上野響平(日本ハム)など全国屈指の選手も輩出しており、甲子園出場は時間の問題だった。とはいえグラウンドは狭く、練習環境はいいとはいえない。

現在は黒土が入っているが、かつては砂利のような土質で頻繁に車が乗り入れるなど表面もガタガタ。劣悪なグラウンドコンディションで泥くさく鍛え上げる選手たちは、ストリートサッカーで足技を磨くブラジル人サッカー選手の姿が重なって見えた。今大会はプロ注目右腕の小園健太を擁する市立和歌山など、近畿勢が優勝候補に挙がる。京都国際も初出場ながら、爪痕を残しそうだ。

今回4校に増枠された「21世紀枠」の出場校も、すべて初出場で話題性がある。三島南(静岡)は前評判こそ高くなかったが、連合チーム初の甲子園出場を狙った富山北部・水橋(富山)との選考委員による決選投票の末に選出。

園児から小2向けの野球体験会に申し込みが殺到していることが「高校野球200年構想を先取りした先駆的取り組み」と評価された。昨秋の県大会準々決勝では県内屈指の名門・静岡高を3-1で破ってベスト4に進出したように地力もある。

具志川商業(沖縄)はかつて緑間俊(みどりま・しゅん、元Honda熊本)らプロ注目の選手を輩出する注目校だったが、その後は低迷。他部から助っ人を呼んで大会に出場するありさまだったが、OBの働きかけなど地域の支援を受けて復活。昨秋の県大会では準優勝を遂げ、九州大会もベスト8に食い込んだ。

商業高校らしく、1年に一度、模擬株式会社を起こして「具商デパート」を開催。生徒が出資し、地元企業と商品開発を行なう本格的な催しで地域にも周知されている。今年の具商デパートの「社長」は二塁手の島袋大地だ。

最後に紹介する個性派は、一般選考で選ばれた甲子園常連校の健大高崎(群馬)。「機動破壊」というフレーズが全国区になったほど機動力を生かした戦いぶりが浸透しているが、現在のチームカラーは「長打力」に激変した。

昨年11月の段階で2年生33人中22人がホームランを放った経験があり、学年全体合わせて206本塁打をマークしている。高校通算33本塁打のドラフト候補・小澤周平をはじめ、本塁打を打てる強打者がズラリと並ぶ。

昨秋の関東大会では8本の本塁打が出たが、なんとすべて健大高崎の打者が放ったもの。逆に走塁面ではコロナ禍で細かな練習ができなかった影響もあり、ミスが続出した。

青栁(あおやぎ)博文監督は「大仕掛けでファンを喜ばせて、球場全体を味方につけるような野球を目指したい」という思いを込め、新たなキャッチフレーズ「スペクタクルベースボール」を掲げている。

個性豊かな出場校が甲子園に集結するのは、3月19日の開会式。それまでに少しでもコロナ禍が収まり、心置きなくセンバツが楽しめる状況になることを祈りたい。