中日・根尾 昂(あきら)の3年目のシーズンが始まった。
大阪桐蔭時代は、投手と野手の"二刀流"で3度の全国制覇に貢献。2018年のドラフト会議で、4球団競合の末に中日に入団した。
しかし、1軍での成績は2シーズン合計で2安打。期待の高さからOBや解説者からは厳しい意見も並ぶが、それでも今季は、初の対外試合で猛打賞を記録。2月23日に開幕するオープン戦でチャンスをつかめば、"覚醒の年"になると筆者はみている。
「1年目はケガで出遅れて、ゼロからではなく、マイナスからのスタートでした。体をつくりながらシーズンを戦うキツさがあり、フィジカルの面で(プロの)壁を感じた」
昨春、名古屋で根尾にインタビューする機会があった。そこで繰り返していた「フィジカル」という言葉が、プロ入り後の意識を表している。
昨季は2軍でチームトップの打席数、安打数だったものの、打率2割3分8厘と満足な数字とは言い難い。しかしその内容を見ると、ルーキーイヤーとは異なる成長曲線を描いてきたことがわかる。終盤にかけてようやく調子を上げた1年目と異なり、昨季はシーズン序盤から夏場にかけて好成績を残している。
根尾は昨春の取材時に「(1年目は)連戦に週6日稼働と、高校野球と違う時間軸で、目に見えない疲れが出た。打席、守備面でもしっくりこず、『体ができてないから』という結論に至り、2年目に向けて重点的にフィジカル強化に取り組みました」と話した。
その成果か、昨季は9月以降に数字を落としたものの、長打が増え、芯でとらえた打球の飛距離は見違えるほど伸びた。課題だったタイミングの取り方と、変化球への対応も改善の兆しを見せている。低めの変化球を振らされた形の三振が多かったのが、8月の1軍昇格を機に打席での"間"が変わった。11月の再昇格時には変化球の見極めが向上し、粘りも出てきた。
今年のキャンプで臨時コーチを務める立浪和義氏は、根尾をこう評している。
「バットを振る力はついてきている。あとは、タイミングさえ合えばというところ。きっかけをつかめば、一気によくなる可能性はあります」
強いスイングでタイミングを取ることは、当然求められる技術水準も高くなる。それでも根尾は小さくまとめる打撃を選択しなかった。よりスケールの大きな"振り抜く"スタイルへのこだわりは、昨春の取材の中でも「高校の先輩方は、プロ野球の世界でフルスイングを実践していて、だから見る人を引きつける華がある。振れなくなったら、もうバッターはできないと思っています」と述べていた。
代表的な先輩である森 友哉(西武)や中田 翔(日本ハム)のように、天才的なセンスと感性で勝負するタイプではないかもしれない。だが、それを根尾自身が理解しているからこそ、あえてフルスイングで体の耐久力を高めて土台をつくる、という解を導いたのではないだろうか。
地元出身(愛知県と同じ東海地区の岐阜県生まれ)の甲子園のスターゆえに、目先の結果が求められがちだ。それでも周囲からの声に惑わされず、冷静かつ長期的な視点で自身のキャリアをとらえ、実行に移す精神面での強さは目を見張るものがある。
昨シーズンの開幕前の時点で、根尾は自らの現在地をこう分析していた。
「すごく足が速いわけではないし、まだ中距離バッターです。"まだ"ですけどね。せっかちな性格ではないので、まだまだこれから。練習量も足りないし、朝、夜に限らず時間を見つけてやるのは高校のときから変わらない。僕はそうしないとダメなタイプなので、日々の積み重ねのなかで、自分でいろいろ気づいていくんじゃないですかね」
同級生の藤原恭大(ロッテ)や小園海斗(広島)がブレイクの兆しを見せ、球団内でも石川昂弥、岡林勇希らプロスペクトが控えている。それでも発する言葉の重み、プロ入り後の軌跡を擦り合わせると、いやでも今季には期待を寄せたくなるのだ。
さらに取材時には、意外性を感じる場面もあった。マスコミ報道で"知的なエリート"というイメージが定着した根尾だが、筆者の印象は違った。話がオフの過ごし方に及ぶと、「本は好きですが、毎日読むわけじゃない。本当は映画も好きですし、全然インテリじゃないですよ」と冗談交じりに満面の笑みを浮かべた。
知人のスポーツ誌記者は、プロ入り後の根尾についての見解をこう語る。
「入団当初は教科書どおりだった根尾の言葉が、少しずつ力強いものに変わってきた。性格も明るさが出てきて、素の部分も出始めています。彼の最大の魅力は適応力。高校時代も徐々に手がつけられない選手に成長していったが、今年のキャンプではその片鱗(へんりん)を見せつつある」
根尾本人はショートへの強いこだわりを口にするが、昨季から外野やセカンドにも挑戦している。故障がちな平田良介や福田永将、好不調の波が激しい阿部寿樹らの野手事情を考慮すれば、早い段階でチャンスが巡ってくる可能性も十分にある。
「結局差がつくのは、考え方の部分だと思います。『継続は力なり』が僕の信条。積み重ねてきたものを、実戦に反映する感覚もつかめてきた」
そう語った取材から約1年。今年は特大のポテンシャルが開花し、レギュラー争いを繰り広げても、もはやサプライズではない。根尾の台頭は、中日に再び黄金期をもたらす契機となるはずだ。