佐藤由規（さとう・よしのり） １９８９年１２月５日生まれ。宮城県仙台市出身。投手。仙台育英高から、５球団競合の末に２００７年高校生ドラフト１巡目でヤクルト入り。２０１０年に１２勝、日本人最速（当時）の１６１キロを記録するも度重なるケガに苦しむ。２度の自由契約を経て、今年１月にＢＣリーグの埼玉武蔵に入団した
昨シーズン限りで東北楽天ゴールデンイーグルスを自由契約になった佐藤由規投手（以下、由規）は、東日本大震災から１０回目の春をプロ野球独立リーグ・ルートインＢＣリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズで迎えた。由規はヒートベアーズ入団後にインタビューに応じ、新天地での抱負を次のように語った。
「『ＮＰＢ復帰』という目標に向けて全力でサポートしていただけるという熱意が入団の決め手になりました。僕は拾ってもらった身なので、声をかけてもらったヒートベアーズのためにも結果で恩返しをしていきたいです」
由規は仙台育英高校での活躍で「高校ビッグ３」のひとりに数えられ（ほかのふたりは、日本ハムの中田翔と、ロッテの唐川侑己）、２００７年のドラフト１位で東京ヤクルトスワローズに入団した。
由規が「プロの世界で生きていくための光が見えて自信になった」という、プロ入り２年目には自身初のオールスター選出。３年目の１０年には１２勝を挙げる活躍で、当時の日本人最速記録となる１６１キロもマークするなど存在感を見せつけた。本人も「投げるほどよくなっていく感覚があった」とこの時期を振り返る。
だが、さらなる高みを求めて調整を進めていた１１年３月１１日、東日本大震災が起こった。東北の各県が甚大な被害を受け、由規の地元、宮城県仙台市も例外ではなかった。
「あの日は横浜スタジアムでオープン戦があり、ベンチ裏で一報を聞きました。『震源地は三陸沖だ！』と聞いたときには、もうパニックですよね。家族とも連絡が取れない状況でしたから、正直、試合に集中しきれない部分もあったと思います」
試合後、球場のモニターで故郷の変わり果てた光景を目にしたときには、あまりの惨状に言葉が出なかったという。
「このまま野球をしていてもいいのか？」という思いもちらつくなか、「開き直ってやるしかない」覚悟で臨んだ１１年シーズン、由規は先発の一角として活躍し、オールスターゲームには、セ・リーグ先発投手部門のファン投票１位で選出された。
脇腹痛から復帰したばかりだった由規は、「これ以上ないくらいうれしかった」という地元・仙台市での第３戦で先発登板し、最速１５５キロの速球で仙台のファンを沸かせた。
その後、右肩のケガで再度離脱。３完投を含む７勝（６敗）を挙げたものの、チームがリーグ優勝を争うシーズン終盤にマウンドに上がれなかった。
「何もできないもどかしさを感じた」という由規はチームの優勝を願っていたが、一時１０ゲーム差をつけていた中日に逆転優勝を許す。そこから由規は、長らく戦線から遠ざかることになった。
再び１軍のマウンドに戻ったのは１６年７月９日の中日戦。７月２４日には、やはり中日戦に先発して１７８６日ぶりの勝利を挙げた。
「そこまで時間がかかるとは思いませんでした。このときに復帰できていなかったら、野球を諦めていたと思います。リハビリの苦しみをはるかに上回る喜びを経験できたからこそ、『体が元気なうちは選手を続けたい』という結論になりました」
それが、いまだ現役にこだわる現在につながっている。
１８年、再び右肩の痛みを訴えた由規は、この年限りでヤクルトを自由契約に。１９年シーズンからは楽天の育成選手として再起を図った。
順調な回復を見せた由規は、１９年７月に支配下契約を勝ち取ると、９月２６日の楽天生命パークで行なわれたシーズン最終戦に登板。「球場全体の雰囲気に気持ちを乗せてもらった」というマウンドで１５０キロの速球を投げ込み、健在ぶりをアピールした。
しかし昨シーズンは１軍で一度も登板することなくシーズンを終え、自身２度目の自由契約となった。
「昨年は、秋が近づくにつれて覚悟はしていましたけど、『（球団事務所に）呼ばれたくない』という気持ちもありました。最終的には戦力外を告げられましたが、そこから『現役を続けるためには、どうアピールすべきなのか』をより考えるようになりました」
現役続行へ、１２球団合同トライアウトにも参加した。
「今まで外から見ていたトライアウトのイメージとは、かなりのギャップがありました。切羽詰まったように見えていましたが、実際に受験すると、まったく悲観的ではなかった。いい意味で開き直って、楽しみながら野球ができました」
トライアウトでは、全盛期をほうふつとさせる速球と切れ味鋭いスライダーが印象的だった。その際はＮＰＢの球団からは声がかからなかったが、「これまではケガなどで、チャンスをつかみきれなかった部分もありました。
今後はストレートを主体にしながらも、投球スタイルを変えていく」と、ＮＰＢ復帰に向けて強い意欲を見せる。
今年は東日本大震災から１０年。由規は、復興も進むなかで抱く複雑な心境と、今季にかける思いを明かした。
「この１０年で新しい施設もできてきましたが、震災前の街には戻らない。何年たっても、言葉では言い表せない難しい気持ちがなくなることはないでしょう。毎年、３月１１日が来るたびに、風化させてはいけないと感じます。
『東北にいいニュースを』という思いがあるからこそ、僕はここまで野球を続けてこられました。東北の方々、チーム、自分の目標のために、今年は圧倒的なパフォーマンスを見せたいです」
東北に元気を。その思いを胸に、由規はマウンドに上がり続ける。