柏木陽介について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第192回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、柏木陽介について。規律違反の問題で浦和レッズを退団することになった柏木陽介。そんな彼の移籍先がFC岐阜に決まり、「ホッとしている」と宮澤ミシェルは語った。

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柏木陽介の新しい移籍先がJ3のFC岐阜に決まった。この状況下で新たにプレーできる場所が見つかったことにホッとしているよ。

やっぱりサッカー選手からサッカーを奪ったら何も残らない、とまでは言わないけれど、サッカーで名を成した選手だからね。現役でまだまだ十分に働けるんだから、ピッチで存在感をしっかり発揮してもらいたい。

柏木はチームの規律違反を繰り返したということで、浦和レッズを退団することになった。だけど、時代が違っていたら、ここまで厳しい処分は下されなかったと思うよね。

私が現役の頃なんてJリーグブームの真っ只中だから、選手の認識は甘くて、チームの規律違反はどこのクラブにもあったよ。私だってキャンプ中にチーム規律を破って食事に出かけて門限を破り、罰金を払ったこともあった。

ただ、あの当時と社会の空気感は当然のように違うし、コロナ禍という背景のなかでは、あの頃のような緩さを求めるのも難しい。それなのに、そこへの認識を柏木は誤っちゃったということだよな。

今シーズンのJリーグは、選手やスタッフに新型コロナ感染者が出たチームの試合は延期になる。再試合ができない場合は、感染者を出したチームは0-3の不戦敗。今季は4チームが降格になるシーズンだから、試合をせずに自動的に勝ち点を失うことが意味するのは、残留への道が険しくなるってこと。

実際にJリーグが開幕してガンバ大阪は感染者が出て試合ができなくなった。感染対策をしっかりやっていても、感染してしまうのが新型コロナウイルスの厄介なところだよな。

選手やスタッフには家族がいるし、子どもがいれば学校に通うでしょ。学校や通学途中で不特定多数との接触がある以上、感染する可能性はどうしても生まれる。それで家にウイルスを持って帰ったら......。チームにかかわる人数が増えるほど感染リスクは生じちゃうってことなんだよな。

柏木が規律違反をしたのは沖縄キャンプ中で、浦和は厳しい処分を下したように思えたりもした。だけど、浦和の決断は多くの選手やスタッフを抱えながらクラブを運営していくためのマネジメントとしたら、妥当な判断だったということだよ。

「自分だけは平気」と思っていたかはわからないけれど、柏木は高い授業料を払ったからね。ここからの彼はもう大丈夫だと信じているよ。

柏木は昨シーズンは9試合しかリーグ戦に出ていないんだよな。戦術変更や故障の影響などもあったようだけど、あまりに寂しい数字だよ。

まだ33歳だからね。本人もコメントしていたけれど、試合に出られない鬱憤があったのは理解できるよ。プロ選手である以上、ポジション争いは実力を見てもらわないとやってられないからね。それがプレーでは若い選手に負けていないのに、世代交代だと言って年齢だけで判断されて起用されなくなるのはフラストレーションが溜まるもんだからね。

柏木にとってチームを変えるのは、いいチャンスだよ。柏木はまわりに使われるよりも、柏木がまわりを使っていくのが持ち味。ピッチで王様のようにプレーできるときの彼は、本当にすごい選手だからね。

左足から創造力のあるパスで相手の急所をズバっと突くし、ピンチに陥れば一生懸命に走って守備もする。まだまだ老け込む歳じゃないよ。彼らしいプレーをFC岐阜で見せてくれるんじゃないか。

J3が開幕したのは3月14日。柏木がFC岐阜のユニフォームでプレーするのはいつかはわからないけれど、柏木クラスの選手はコンディションさえ整っていれば、すぐにチームにフィットするよ。早い時期にあの緑色のユニフォーム姿を見せてくれて、J2復帰を目指すチームを引っ張るプレーを見せてくれるのを楽しみにしているよ。

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