東北高時代、長身右腕エースとして活躍したダルビッシュ。プロ入り後もさまざまな変化球を習得するなど、「長身選手=鈍重」というイメージを覆した 東北高時代、長身右腕エースとして活躍したダルビッシュ。プロ入り後もさまざまな変化球を習得するなど、「長身選手=鈍重」というイメージを覆した

今春のプロ野球春季キャンプで、ある超長身選手が話題をさらった。巨人にドラフト5位で入団した高卒ルーキー・秋広優人(あきひろ・ゆうと)である。

入団時には身長200cmの巨体ばかりが注目されたが、春季キャンプでは快打を連発して首脳陣から高い評価を得た。高卒ルーキーとしては異例の1軍昇格を果たし、練習試合やオープン戦にも出場。最近になって「身長が202cmに伸びていた」という仰天エピソードも飛び出した。

近年、プロ球界では長身選手の躍進が続いている。身長190cmを超える大型選手は珍しくなくなり、ファンにロマンを与えている。

だが、かつては華々しい成功を収めた長身の選手は少なかった。プロレス界で「ジャイアント馬場」のリングネームで活躍した馬場正平(元巨人)は2m超の高身長を持て余し、プロ5年間で1勝も挙げられなかった。

体に力はあっても、動きが鈍重でぎこちない。それが、ひと昔前の長身選手のイメージだった。しかし、今のプロ球界で活躍する長身選手は、見事なまでに己の大きな体を使いこなしている。

エポックメイキングになったのは、ダルビッシュ有(パドレス)の出現だろう。イラン人の父、日本人の母を持つダルビッシュは、2003年夏の甲子園で東北(宮城)を準優勝に導くなど、高校時代からプロ注目の投手になった。

195cmの恵まれた体から剛速球を投げ込むだけでなく、時にサイドハンドから腕を振ったり、多彩な変化球を投げ分けたりと、その器用さは見る者に衝撃を与えた。

その後、プロで一段と力強さを身につけて、今やMLBで活躍するスター選手になったのは周知のとおりだ。

ダルビッシュがプロで活躍するようになると、身長190cm前後の大型投手が出現するたびに、メディアはこぞって「○○のダルビッシュ」とニックネームをつけるようになった。その流れに乗るように現れたのが、"みちのくのダルビッシュ"こと大谷翔平(エンゼルス)と、"浪速なにわのダルビッシュ"こと藤浪晋太郎(阪神)である。

大谷は身長193cmながら投打にずぬけた才能を示し、花巻東(岩手)3年時には最速160キロを計測して度肝を抜いた。長い足でしなやかに蹴る走り姿は、まるでカモシカのようだった。

身長197㎝の藤浪は抜群のゲームメイク能力を誇り、名門・大阪桐蔭のエースとして甲子園春夏連覇に導いた。プロ入り以来3年連続2桁勝利と活躍した後は、投球メカニズムを崩して不振に陥ったものの、徐々に本調子を取り戻しつつある。

なぜ、長身選手が活躍できるようになったのだろうか。さまざまな要因が考えられるが、大きな理由は「長身選手に無理をさせない」指導者が増えたことだろう。

ダルビッシュも大谷も高校時代は身長が止まっていない発育段階にあり、強度の高い練習はしていない。大谷など、指導者から早く寝るように促され、高校2年から3年にかけて身長が2cmも伸びたほどだ。

大谷を指導した花巻東の佐々木洋監督は当時「ウチでは選手を差別しませんが、区別はします」と語っていた。成長期を終えた選手と成長段階の選手を区別し、練習メニューを分けていたのだ。

19年夏の岩手大会決勝戦で大船渡の國保陽平監督が最速163キロの怪物・佐々木朗希(ロッテ)を起用せずに物議を醸したが、この決断も佐々木の故障を予防したもの。國保監督は身長189cmの佐々木の体について、このように語っていた。

「骨密度を測定して、まだまだ大人の骨ではないと。球速に関する期待はあるんですけど、球速に耐えられる体ではない。骨、筋肉、靱帯(じんたい)、関節がまだそういうものではなかったんです」

これは仮説にすぎないが、ダルビッシュ登場以前にも身体操作性に優れた長身の逸材は存在していたのではないか。だが、医科学的な知識が浸透していない時代では、成長期の終わった選手と同じ厳しい練習を課せられ、故障してしまうリスクが高い。そうして幻の逸材が日の目を見ることなく、消えていった可能性もある。

3月19日に開幕予定の第93回選抜高校野球大会でも、注目の長身選手が出場する。筆頭格は、天理(奈良)の193cm右腕・達 孝太(たつ・こうた)だ。

現時点で最速146キロと突出したスピードこそないものの、潜在能力は底が見えない。クセのない端正な投球フォーム、器用に変化球を扱える指先感覚とタイプ的にはダルビッシュに近い。

本人は将来メジャーリーグで活躍することを目標にしており、中学時代には爪を保護するためネイルサロンに通うなど意識も高い。達の両親は、ボールの回転数や回転軸などが測定できる機器・ラプソードを約80万円で購入。わが子をサポートしている。

ほかにも、21世紀枠で出場する八戸西(青森)の福島 蓮(れん)も将来楽しみな大型右腕だ。

189cmの身長は現在も伸び続けており、故障予防のために強い負荷がかかる練習はできていない。それでも真上から叩きつけるようなボールの角度は、ほかの投手にはない個性。

現在の最速は143キロを計測しており、プロのスカウトも注視している。日本ハムでプレー経験がある中村渉コーチの指導を受け、技術的にも身体的にも大きく進化できた点も大きい。

甲子園に出場できなかった高校にも、有力な大型選手は控えている。今はひっそりと岩陰に隠れる巨石も、やがてまばゆい光を放つだろう。