3月26日、いよいよプロ野球が開幕する。DeNAは昨年、優勝候補に挙げられるも、得点力不足で4位に終わった。チーム再建を託されたのは、「横浜ひと筋30年」の三浦大輔(みうら・だいすけ)新監督だ。
開幕直前、球界のレジェンド・江夏 豊(えなつ・ゆたか)氏とのスペシャル対談が実現。外国人選手来日の見通しが立たず、苦闘も予想されるが、"ハマの番長"は前だけを見ている!(※この取材は3月8日に行なわれたものです)
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■選手が話しやすい環境をつくっていきたい
江夏 どうですか、監督になった気分は?
三浦 気分ですか(笑)。毎日、考えることが多くて、キャンプでも一日の過ぎる時間が早かったですね。
江夏 ということは、キャンプは充実していたんだね。
三浦 充実していたと思います。プロに入って30年になりますが、今までで一番、1ヵ月が短く感じましたから。
江夏 横浜ひと筋でやってきて、今や「監督」と呼ばれる立場になったわけだよ。
三浦 去年、ファーム(2軍)監督をやらせていただいたのがすごくよかったな、と感じています。
江夏 どのあたりが?
三浦 ベンチで采配した経験ですね。ピッチングコーチのときはピッチャー中心でしたけど、監督になって攻撃面、守備面、すべてコーチと相談しながら采配していました。このファームでの経験をどう生かそうかと。
1軍はまた違うものでしょうけど、それでも練習試合、オープン戦と、コーチ、スタッフと相談しながらやっています。
江夏 投手出身の監督は守ること、打つこと、走塁は専門外だから、普通はあまり口を出さない。そういう話を自分もよく聞くわけだけど、実際、あなたの場合はどうだ?
三浦 専門外はコーチに任せています。最後の決断は自分がしますけども、それまではコーチにアドバイスを求めながら、わからないことは聞くようにしています。
江夏 やはりコーチに聞く?
三浦 聞きますね。例えば、守備のシフトなどは、特にコーチの意見を求めます。
江夏 現役のときは自分のことだけ考えていればよかったよね。ブルペンでも自分のペースで投げていたと思う。
三浦 おっしゃるとおりです。
江夏 それが今は支配下選手、育成選手、全部で70人以上を見ている。大変だよな。
三浦 確かに大変です。でも、僕は現役のとき、監督に声をかけられるとそれだけで気持ちも変わりましたから。
江夏 それはもう、全然違うよね、気持ちが。
三浦 はい。逆に自分から監督にはなかなか声をかけづらかった。ベテランになれば別でしたけど、若い頃はそうだったので、自分が監督になった今、選手が話しやすい環境をつくっていきたいと思っています。
江夏 その環境がいい方向にいけばいいけど、悪い方向にいってしまうと、締まりのないチームになってしまう。
三浦 そうですね。そこはやっぱりプロ、特に1軍は厳しい世界ですし、チームとしては勝ちたいんで。結果が出なかったり、調子が悪かったりしたらファームに行ってもらうしかないです。そこは冷静に判断して、常時、調子のいい選手を使っていきたいという思いがあります。
■走塁は意識から変えないといけない
江夏 じゃあ、三浦新監督の野球はどういうスタイル?
三浦 いろんなことをやりたいと思っています。去年は打力のチームでしたけど、今年は打つプラスアルファで、バントで送るところは送る、足を使うところは使う、それができる選手を使っていきたいと思います。
それと、現状では緊急事態宣言の影響もありまして、外国人選手の入国の目処(めど)が立ってないんですね。
江夏 まったく困ったもんだよなあ。助っ人がチームに合流できるのはいつ頃になる?
三浦 現状、まだわからないですね。こればかりは仕方がないので、外国人選手がいない前提で打線を考えれば、(昨年首位打者の)佐野(恵太)、宮﨑(敏郎)の前にいかにランナーを出すかがカギになってきます。
江夏 クリーンナップの前という部分では、1番を打っていた梶谷(隆幸・現巨人)が抜けた。穴をどう埋める?
三浦 新1番は決めかねているところです。神里(和毅)が有力候補ではあるんですけど、桑原(将志)もいますし。
江夏 桑原君はガッツマンだよな。
三浦 ええ、ガッツマンで守備は抜群にいいんです。ただ、ここ数年は苦しんでいましたからね......。
江夏 チャンスのときにボール球に手を出してしまう、というところがあるよね。
三浦 ですから「3割打て」とは言わないんで、出塁率を上げてもらいたいです。
江夏 開幕後1ヵ月は助っ人が計算できないとなると、チーム本来の魅力である一発長打よりも出塁、走塁という部分が大事になってくるわけだ。
三浦 そうなんです。今年はもともとキャンプから走塁に対する意識を変えていくように取り組んできました。盗塁も、失敗してもいいから思い切ってスタートを切るということにトライさせて。当然、成功率は低かったですけど、走ることはまず意識から変えないといつまでも改善されないと思っていましたので。
江夏 キャンプで課題を持って取り組んだのなら、必ず成果は出ると思う。ただし、もしも成果が出なかった場合、失敗したと思って1年だけでやめてしまうと、結局は何も変わらないからね。
三浦 続けていかないといけないですね。
江夏 指導者の姿勢というものを、選手たちはみんな見てるから。もうこれで当分の間、走るのはお休みだな、なんて思われてしまうと......。
三浦 困ります(笑)。
江夏 そのあたりを続けていきながら、三浦監督はどういう野球を目指していくのか。
三浦 1点を確実に取る野球を目指します。ホームランがバンバン出て大量点という試合も年に数回はあるかもしれません。
でも、安定して勝ち星を挙げていくには、やはり1点をどうやって確実に取るか。これが先ほどの走塁、バントにつながるのですが、反対にピッチャーにしてみれば、1点少なく抑えるにはどうするか、ということになります。
江夏 そこで肝心の投手陣だけど、自分が一番気になっているのは抑えだよ。昨年、山﨑(康晃)君がちょっと悪かったよね。今の野球は7、8、9回を確実に抑えて勝つことが大事だと思う。まず、9回についてはどう考えている?
三浦 現状、一番の候補は去年結果を出した三嶋(一輝)です(18セーブ)。それから、その前の8回が左の石田(健太・25ホールド)です。
江夏 石田君は先発のほうがいいんじゃないか、と自分は思っていたんだけど。
三浦 もちろん、先発も僕の頭にありました。ただ、1イニングのリリーフのほうがボールのキレもいいですし、(昨年56試合に登板した)エスコバーがまだ来日できないという状況もあるので。
江夏 確かに、昔の野球は左ピッチャーがひとりでもよかったけど、どのチームも左バッターが増えた今はふたり、3人と必要な時代だからね。
三浦 はい。そこで石田にはリリーフの大事なポジションを任せたいと思います。
■巨人、阪神にどれだけ食い下がれるか
江夏 ところで昨年のDeNAは、阪神に9勝12敗3分け、中日には9勝15敗だった。それ以外のチームには勝率5割以上だったけど、特に阪神には7年連続で負け越している。なんでかな、と思ってしまう。
三浦 そうですよね。特に、横浜スタジアムでタイガース打線にやられているという印象があります。
江夏 ということは、投手陣が弱かったのか。
三浦 弱かったのもあると思いますし、相手バッターの攻め方をもう一度、見直さないといけないと思います。
江夏 ピッチャーだけじゃなしに、バッテリーの問題?
三浦 バッテリーですね。
江夏 そのあたりはきっちり、あなたもキャッチャーに注文していかないと。DeNA対阪神の試合を見ていると、一概には言えないけれど、両チームのバッテリーの攻め方に違いがあるんだよ。
要所で内角を攻めることは大きな武器になって、打ちたいと思うバッターほど内角に投げられるといやがるものだよね。阪神のほうが若干、そういう攻め方ができている印象がある。
三浦 そうですね。
江夏 そのあたり、DeNAの攻め方はちょっと正直すぎるな、という気がしていた。
三浦 やみくもに、インコースへどんどん攻めろ、というわけにはいかないですよね。
江夏 うん。攻めることは、そういうものじゃないから。
三浦 バッターに印象づけるために、ポイントでインコースを使わないといけない。
江夏 そうそう。例えば、1球目にボーンと内角にいくケースもあれば、ずっと我慢して、フルカウントからドーンといくこともある。そういう攻め方をやられると、バッターはけっこう考え込むと思う。
三浦 そうですね。そこはバッテリーの課題だと思います。ただ、僕はピッチャーに対しては「横浜スタジアムは狭いけれども、狭いからといって、かわすピッチングをするよりも、どんどん攻めていってほしい。やるかやられるかだから」と伝えています。そういう気持ちを持ってマウンドに立たない選手は使いたくない、と思うんです。
江夏 キャンプでは、そういう気持ちを持つ選手が出てくる雰囲気、流れはあった?
三浦 今年にかける思いが強く、意識が変わってきたな、と感じられる選手もいます。あとはどう結果につながるか。今は、結果につながらないとすぐ次の新しいことにいきがちな選手が多いんです。
でも、先ほどの走塁の意識と一緒で、ひとつのことをやろうと思ったら、それを貫いてほしいと思います。また、監督として貫けるように導いていきたいとも思います。
江夏 取り組んだことすべてが成功するわけじゃない。だからこそ、指導者がどれだけフォローできるか、だよな。
三浦 そうですね。いろいろ自分もフォローを考えています。思いどおりにいかないことも多いので。
江夏 今年のセ・リーグはチームの構成を見る限り、巨人と阪神がずぬけている。この両チームに対して4球団がどれだけ食い下がれるかだと思うんだよ。DeNAは決して優勝の望みがないというわけではないけれど、はっきり言わせてもらうと、戦力的には難しいと思う。
三浦 僕は、そういう予想をひっくり返したい、という気持ちを強く持っていますから。
江夏 当然、そうだと思う。
三浦 なんとかしたいな、やってやろう、という気持ちがあります。それには選手たちも、いいときだけじゃなくて苦しくなったとき、いかにバラバラにならないか。そこが一番大事だと思います。
江夏 精神的な部分だよね。
三浦 はい。しっかり結束して、一年間、貫きたいという思いがあります。
江夏 優勝だけがすべてじゃないと思うし、来年以降につながるチームづくりをやってもらいたい。そのなかで、三浦監督になってこのチームはいいほうに変わったな、野球が楽しくなったな、といわれるゲームを横浜スタジアムでやってもらいたいんだよ。
三浦 ベイスターズファンの皆さんがワクワクするようなチームにしたいです。
江夏 それこそが三浦監督の大きな仕事だと思うし、目指す野球を貫き通すなかで、選手から大いに憎まれる監督であってもらいたい。「この野郎」と言われるぐらい、選手たちを強く引っ張ってもらいたいんだよ。
三浦 わかりました。ありがとうございます!
江夏 今日はありがとう。じゃあ今年一年、大変だけどがんばってな。
●三浦大輔(みうら・だいすけ)
1973年生まれ、奈良県出身。91年、ドラフト6位で横浜大洋ホエールズに入団。98年に自己最多の12勝を挙げ、リーグ優勝、日本一に貢献。2005年には最優秀防御率、最多奪三振のタイトルを獲得。16年の現役引退後、19年に現場復帰すると1軍投手コーチ、昨季はファーム(2軍)監督を務めた。今季からラミレス監督の後を受け、指揮官に就任
●江夏 豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ