2020年9月に、日本のVリーグからイスラエルリーグに活動の場を移した野瀬将平。今年2月に計2度のワクチン接種を終えたが、2回目の後は副反応もあったという

中東の国、イスラエルで活動する日本人アスリートがいる。コロナ禍の2020年9月に、VリーグのFC東京からイスラエルリーグのハポエル・クファル・サバに移籍した、バレーボール選手の野瀬将平(のせ・しょうへい/27歳)だ。

イスラエルといえば、新型コロナウイルスのワクチン接種を世界最速のペースで進め、国際的に注目を集めている国。そんな"ワクチン先進国"で、野瀬はどんな生活を送っているのだろうか。

イスラエルは人口比のコロナ感染率が世界最悪水準にあり、これまで人口約900万人のうち約83万人以上が感染、6000人を超える死者を出している(3月26日時点)。

野瀬は入国前、チーム関係者に現地のコロナウイルスの感染状況を確認したところ、「落ち着いてきたから大丈夫」と言われていた。だが、いざイスラエルに降り立ったとき、そこは感染拡大の真っただ中。一日の感染者数は約7500人までに増加していた。

そんな状況にもかかわらず、入国の手続きは思った以上に簡素なものだったという。

「当初、チーム関係者からは、『72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明書の提示が必要で、さらに空港でも再度PCR検査がある』と言われていました。しかし実際には、そのどちらも実施されず、あらかじめ入手していた入国許可証だけを見せて入国できてしまいました」

チームに合流しすぐに、チームメイトから「明日、ビーチに行くぞ!」と誘いがあったことにも驚いたという。ロックダウンが始まる前にビーチで遊んでおこう、という意図だったようだ。

チームメイトと共に、塩分濃度が高い「死海」を訪れることも。普段は距離を保つなど感染対策はしているが、人によって意識の差もあるという

そして、9月18日に始まった2度目のロックダウン。イスラエルでは、外出時はマスクを着けないと罰金(500シュケル。日本円で約1万6500円)を科されるというルールがある。

しかし実際には、警察官が見ていないところではマスクを着用していない人も多く、国全体で感染対策がしっかり取られている印象はなかったようだ。

「イスラエル人は、そもそも『コロナなんかに自分の人生を邪魔されたくない』と考えている人が多いように感じます。

実際、僕が所属するクラブでも感染者が出ましたが、PCR検査で陰性判定が出た選手だけを集めて、すぐに練習していました。濃厚接触者の隔離、練習・リーグ戦の中止などの対策が取られる日本とは大きな違いですね」

野瀬の話を聞く限り、イスラエルの感染者数の爆増は、その土地に根づいている宗教的な背景や、伝統的な価値観が大きく関係しているといえそうだ。

そんななか、イスラエルでは昨年12月中旬から新型コロナウイルスのワクチン接種がスタート。今年2月からは、「グリーンパス」制度が始まった。

これは2度のワクチン接種を受けてから1週間以上経過したことを証明する「グリーンパス」を提示することで、レストランやバー、スポーツジム、ホテル、コンサートなどのイベント会場への入場が許可される制度だ。

「グリーンパス」は、個人識別番号(出生時に割り当てられる、内務省発行の9桁の数字)に紐(ひも)づく形で、政府のインターネットサイトやスマートフォンアプリ上から取得することができる。高齢者や、野瀬のような永住権を持たない外国人の場合は、指定の発行所で取得が可能となっている。

身長170cmの野瀬のポジションは、守備専門のリベロ。より多くの出場機会を求めて海を渡り、レギュラーとして活躍している

今年の3月18日に開催された国内カップ戦「イスラエルカップ」の決勝も、グリーンパスの保持者のみが入場できる有観客の中で試合が行なわれた。

決勝に進出していた、野瀬が所属するハポエル・クファル・サバはセットカウント1-3で敗れ、惜しくも準優勝。それでも、久しぶりにファンの前で試合ができる喜びがあった。

すでに国民の半数以上がワクチンを接種し、感染者数もピーク時に比べて大きく減少した(それでも21年3月26日時点で一日713人もいるが)。さらにグリーンパス制度が始まったことにより、イスラエル国内の経済活動は大きく規制が緩和され、ようやく日常を取り戻しつつある。

「イスラエルは、もうコロナは終わった、という空気すら感じます」

野瀬はすでに、2度のファイザー製ワクチンの接種を済ませている。日本で報道されているような副反応はあったのだろうか。

「2月3日に1回目のワクチン接種をした翌日には、注射を打った左肩の周りに筋肉痛のような痛みが残ったのと、少し肩が重いなと感じた程度でした。僕の周りの人たちも1回目で体調を崩した人はおらず、僕と同じような症状でしたね。

でも、3週間後に2回目の接種をしたんですけど、そのときは発熱こそなかったものの、翌日に倦怠感(けんたいかん)や悪寒、節々の痛みを感じました。なかにはおなかを壊した人もいたようです。チームメイトも、2回目の接種後は高確率で体調を崩していました」

このような副反応が出ているからか、「信用できない」という理由で、ワクチンを接種していない人もいるという。

今のところ、ハポエル・クファル・サバではワクチン接種の有無で誹謗中傷や差別などは起きていないが、今後、そのようなことが起きる可能性も否定できない。接種の有無を確認する際のプライバシー保護など、検討すべき課題は山ほどある。

イスラエルで始まったワクチン接種者を優遇する国家的な取り組み。多くの国で同様のプログラムが検討されているが、この制度はどのような未来をもたらすのか。その行方に注目が集まっている。