サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第200回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、鹿島アントラーズについて。前任のザーゴ監督から相馬直樹監督に変わった鹿島アントラーズ。今回の監督交代で、宮澤ミシェルはサッカースタイルを変えることの難しさをあらためて感じたという。
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荒治療の成果は、ひとまず出ているんじゃないか。
鹿島アントラーズは4月14日に成績不振だったザーゴ監督を解任して、相馬直樹コーチの昇格を決めると、相馬監督の初采配となった4月17日のJ1リーグ・徳島ヴォルティス戦を1-0で勝利した。
続く4月20日のJリーグ杯・札幌戦に3-0で勝利して鹿島は完全に息を吹き返したかなと思ったんだけど、その後はJ1戦とJリーグ杯の2試合とも引き分け。
シーズン途中から監督に就任して、そんなに簡単に結果が出るほど甘くない世界だよね。
ただ、その後のJリーグ杯は引き分けたけれど、J1リーグ戦では横浜FCを3-0で粉砕すると、FC東京にも3-0で勝利。ようやく我々の知っている本来の鹿島らしさが戻ってきたように見えるよ。
相馬監督は黄金期の鹿島を支えたレジェンドで、皮膚感覚でクラブに脈々と伝わってきた勝利への哲学を知っている。コーチとしてチームの状態も把握していたのも強みだよな。
それにしてもサッカーのスタイルを変えるというのは、本当に難しいものだね。
鹿島は2016年に7年ぶりにリーグ優勝したんだけど、1シーズン制になった2017年以降、リーグ優勝から遠ざかっていた。
ただ、2018年はACLで優勝しているし、リーグ戦だって2017年は2位、2018年と2019年は3位。優勝じゃないと低迷しているように見えてしまうのが鹿島なんだよな。
それで鹿島は2020年にザーゴを招聘して時代の先端にあるサッカーを取り入れることにした。このとき鹿島の常務取締役フットボールダイレクターの(鈴木)満さんと話をしたら、「すぐに結果が出なくても長い目で見ていく」と語っていたけれど、その猶予期間も終わったということだよな。
ザーゴ前監督がやろうとしたサッカーは、リバプールやライプツィヒなどが実践しているパワーフットボール。ザーゴ前監督もブラジル時代はその流れを汲むチームで指揮をしていたから期待もされていた。
就任1年目となった昨シーズンは開幕から苦しんだけれど、シーズン途中から大きく巻き返してリーグ5位。今季はそこからの上積みを求められたけれど、印象としては去年築いたものが消えちゃって、選手たちがばらばらに動いていたように感じたね。
プロの世界では結果が出なければ監督の求心力は弱まるもの。ザーゴ前監督がどうだったか内情はわからないけれど、勝てない流れのまま継続させたらチームが崩壊する可能性があると踏んだのかもしれないね。
ただ、それ以上にスタイルの変化というプロセスにあっても、鹿島が絶対に失ってはいけないものを手放しかけていたことを危惧したんじゃないかな。
鹿島の場合はジーコが住友金属に加わってから、連綿と「泥臭くても勝つ」を大事にしてきた。それが数々のタイトルをクラブにもたらしてきたんだけど、昨季からその大事な部分を見失っていたところも感じられたんだよね。
やっぱりプロは結果を出してナンボ。結果を残しながら追い求める理想を実現するからこそ評価されるわけだからね。
川崎フロンターレだって、彼らの目的がパスサッカーのスタイルを構築することに終始していたら、いまの繁栄はなかったはず。彼らはタイトルというものを真に欲したからこそ、あのスタイルを突き詰めることができたと思うんだ。
鹿島はひとまず新体制で窮地は脱したけど、本当の戦いはここからだよ。相馬監督もチームを上昇気流に乗せたけれど、ここから安定して勝ち星を重ねられればいいけれど、ふたたび失速すると厳しくなるよな。
レアル・マドリードのジダン監督も、バルセロナのロナルド・クーマン監督もそうだけど、クラブのレジェンドだろうとなかろうと、監督というのは結果が出なければ選手たちの求心力は離れていくものだからね。
そういうことも理解している監督だから心配はしてないけどね。チームを活性化させながら、今後につながるスタイルを構築していくのかも含めて、ここからもその手腕に注目していきますよ。